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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
6/13

図書室

太陽の光とセミの鳴き声でぼくは目が覚めた。

入院したときからずっと、朝はやけに喉が渇く。

コップ1杯の水を飲んで時計を見ると、もう9時をまわっていた。


一瞬「遅刻だ」と思い、焦ったが、

今は夏休みで、図書室に行く時間はいつでもいいと言うことを思い出して冷静になった。

よくあること、でもないけれどたまにある。


いつもの朝はパンを食べていたので、いつもパンが置いてあった場所を見たのだが、3週間も前のパンはすでに捨てられていた。


何かないかと冷蔵庫を開けて探してみたけれど何もない。

しかたなくもう1杯水を飲みながら、今日スーパーでいろいろ買ってこようと考えていた。


歯磨きをして、顔を洗い、ねぐせを直す。

一応学校に行くので制服を着る。

スーパーで買い物をするために財布を持つ。

外は暑そうなのですいとうを持つ。

もう持ち物はないなと思い、家を出た。

外はやっぱり暑かった。


歩いていると、汗がだらだらと出てきて制服にしみこむ。

すいとうを持ってきたのは正解だったが、タオルも持ってくるべきだった。


頬を流れる汗と制服にしみこむ汗が、ぼくを少し不機嫌にした。


汗だくになりながらようやく高校に着いた。

これでやっとクーラーが効いているであろう図書室に入れる。と思っていたが、

ここである問題が発生した。


ぼくはこれまで本というものに興味を示していなかったので、当然図書室に行ったことなどない。

そのため図書室がいったいどこにあるのかわからなかったのだ。

学校に入ったはいいものの、どっちに進めばいいのかわからなかったので、とりあえず右に進んでみた。

だが、なかなか見つからない。


階段を登ったり、降りたり、右に行ったり、左に行ったりしたが、図書室は見つからない。


しかも汗が止まらない。

廊下の窓は全部閉まっていて、むしむししてしょうがない。

ぼくはいさぎよく探すのを諦め、人に聞くことにした。


だが人もなかなか見つからなかった。


高校に来て30分くらい経っただろうか、ようやく人を見つけた。

おそらくこの高校の女子生徒だろう。

早く涼しい部屋に入りたいという気持ちがあり、ぼくは見つけた瞬間すぐに声をかけた。


「急にすいません、図書室がどこにあるのか教えてくれませんか、」


その女子生徒はぼくに声をかけられると、ぼくの方を向き、じっとぼくの顔を見た。


ぼくの顔に何かついているのかと思い、顔を触って確認したが、たぶんなにもついていない。


「あ、あの、図書室を···」


そう言うとようやく彼女の口が動き出した。


「図書室を知らないってことは、1年生···

だよね?」


「·····」


どうやらぼくは、1年生だと思われているらしい。

図書室の場所を知らないなんて、1年生しかあり得ないだろうと考えているようだ。

別に間違えられようとぼくにはあまり関係ないけれど、なんだか負けたような感覚が嫌だったので、正直に言った。


「2年生です···」


女子生徒は「おどろいた」と言わんばかりの顔をした。

目を大きく見開き、まゆを上げ、口をてで隠した。驚いたときの典型的なポーズだ。

そしてその顔のまま、


「うそ、2年生なのに図書室の場所知らない人っているの?」


と言った。

「あなたの前にいます」と言いたかったが、言わなくてもいい。そもそもそんなに驚くようなことだろうか、と疑問に思った。


「今まで行ったことがなかったので、」


「え~、それでも探せばわかるでしょ~」


「いや、30分くらい探したんですけど、見つかりませんでした。」


わかるわからないはどうでもいいから、早く図書室の場所を教えてほしい。

このことを女子生徒に察してもらおうと思い、あなたの話はどうでもいいと言うような顔をしてみた。


しかし、ぼくの演技なんて見向きもせず、


「30分も探したのに見つからなかったの?笑笑笑」


と、バカにするように笑いながら言った。


とくに恥ずかしいとは思わないし、腹も立たない。

ただぼくは早く涼しい部屋に入りたかった。

だが女子生徒はまだ教えてくれない。


「じゃあ君はあれだね笑、方向音痴だね笑笑」


ぼくはもう我慢できずもう一度言った。


「そうかもしれないですね。だから図書室の場所を教えてくれませんか?」


ようやく伝わったようだ。


「ああ~そうだった、わすれてた、」


「あなたは物覚え音痴ですね」と嫌み混じりのツッコミをいれたかったが、初対面でなくてもぼくはそんなことをする人間ではないので、なにも言わなかった。


「ついてきて、方向音痴くん」と言われたので、余計な言葉は無視して彼女についていくと、あっさり図書室にたどり着いた。

本当にぼくは方向音痴なのかもしれない。


「ありがとうございました。おかげで助かりました。」


「いいよ~、方向音痴くん、

次は迷わないようにね~」


そう言って彼女はどこかへ行った。


図書室の扉を開けると、いっきに涼しい空気がぼくの体を包み込んだ。

すごく気持ちが良かった。

まるで寒いときにちょうどいい温度のお湯につかったときのような感覚に似ていた。

5分もすれば汗はひいた。


すっかり機嫌が戻ったぼくは、なにか興味のある本はないかなと図書室をうろついていた。

図書室には意外と多くの人がいて、ほとんどの人がいすに座って本を読んでいる。

そのため空いているいすはほとんどなかった。


でもぼくは図書室で本を読むつもりはないので関係ない。

面白そうな本を1冊見つけたので、その本を借りた。

そしてぼくは図書室を出て、下駄箱に行き、学校を出た。

さすがに図書室から下駄箱までは迷わなかった。


そしてぼくは病院へ向かった。

学校は、ぼくの家から病院までの道のほとんど真ん中に建っている。

そのため家に帰る道とは反対の方向に向かって歩いた。


初めてだったので、途中何度か道に迷ったけれど、病院は学校から歩いて30分ほどだった。

迷わず歩けば20分で着くだろう。


病院に着くと、ぼくはさやのいる部屋へ行き、

ガラス張りの部屋の向かいの壁にもたれかかって本を読んだ。


さやの意識はまだ戻っていなかった。

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