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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
5/13

退院

昨日ぼくは、リハビリが終わると

「うん!かなりスムーズに歩けるようになってるし、明日には退院かな~

きみのおばあちゃんに連絡しておくね」

と言われた。


8月15日 今日ぼくは退院する。


朝9時頃、ばあちゃんが部屋に来た。

少し微笑んでいる。


「やっと退院だね~とうま」


ばあちゃんは嬉しそうな顔をしている。

ぼくも結構嬉しい。


少しすると、先生が部屋に入ってきた。


「とうまくん、退院おめでとう。」


部屋に入ってすぐにそう言ってくれたので、

ありがとうございます、とぼくは言った。


長かったような短かったような、

先生と看護師さんとこの病院には、約3週間お世話になった。


「約3週間お世話になりました。」


ぼくは先生にひとつ聞きたいことがあった。


「あの、ひとつ聞きたいんですが、」


「なんだい?」


「これから毎日ここに、さやを見に来てもいいですか?」


だめと言われても行くつもりだったが、

その必要はなさそうだ。


「もちろんだよ。それと、もしさやちゃんが意識を取り戻したら、すぐに連絡するからね。」


ありがとうございますと頭を下げた。

ばあちゃんも一緒に頭を下げていた。

そして僕たちは部屋をあとにした。


病院の出口まで先生たちに見送ってもらい、病院を出ると、今日も暑かった。

この前散歩した道を通り、駐車場ヘ向かった。


ばあちゃんの車に乗り、僕たちはぼくの家へ向かった。

病院から家まではそれほど遠くない。

家までは車で20分ほどかかった。


家に着き車を降りると、そこには久しぶりに見る我が家があった。

ばあちゃんが鍵を開けて家に入る。

ぼくもその後に続く。


「ただいま」


「おかえり」と返してくれる人が本当にいなくなったのか確かめたかった。


誰の声もしなかった。


わかってはいた。わかってはいたが、実際に確認すると胸が締め付けられた。


リビングに入ると、家族のかすかなにおいがまだ残っていた。

家の中はきれいだった。

ぼくが暮らすために、ばあちゃんがたまに片付けや掃除をしてくれていたらしい。

棚の上を見ると、みんなで撮った家族写真がたくさん置いてあった。


写真を見ていると、1枚だけ今まで置かれていなかった写真がある。

ぼくはその写真を手に取った。


その写真に写っていた僕たちは、

みんな髪がボサボサで、みんな満面の笑みだった。


「これ···」


それはあの日、あの浜辺で撮った、ぼくらの最後の家族写真だった。


「それは事故現場で見つかったカメラにあった写真よ。私がカメラを受け取って、現像したの。」


ぼくは思いが込み上げてきて泣いてしまった。

やっぱり、現実を受け入れるのは大変だな。


お昼になって、お昼ごはんを食べた。

病院じゃない場所でのお昼ごはんは久しぶりだ。


その後はまだ片付いていない場所を片付けたりしていた。


作業が終わったのは午後の4時頃だった。

ばあちゃんはもう帰るらしい。


「夕飯は冷蔵庫にあるスーパーのお寿司ね、

明日からは全部ひとりでやるのよ、

何かあったらいつでも連絡してね、

あと、さやが起きたときもおしえてよ、

それじゃ」


いろいろ言い残して家を出ていった。


7時くらいに夕飯を食べようと決め、シャワーを浴びた。シャワーから上がると、病院ではすっかり存在を忘れていたスマホがあった。

まだ7時まで時間がある。

昔のぼくならスマホを触っていただろうが今は本がある。本でも読もうと思ったが、ばあちゃんからもらった本は2冊とも2回読んだので、違う本が読みたい。


家に本がないか探しまわったが、見事になかった。

仕方なく予定の時間より早く冷蔵庫を開けた。


冷蔵庫の中には今日の夕飯であるスーパーのお寿司があった。

寿司のパックの上に何やら紙が置いてあった。

なにか書かれている。


電気代、水道代、ガス代、スマホ代などはおばあちゃんが払います。無駄遣いしないように!


とのことだ。

ばあちゃんの置き手紙だったようだ。

ぼくはお金を大切に使う人間だ。

だから無駄遣いは決してしない自信がある。


それに今までスマホを触っていた時間が、本を読む時間に替わりそうなので、時間も無駄遣いせずに済みそうだ。


ただ、本を1回読むためにお金を使いたくはない。かといって近くに図書館があるわけでもない。


どうしようかと考えていると、ぼくはあることを思い出した。

ぼくは2階の自分の部屋に行き、クリアファイルの中にあったプリントを全て取り出した。


夏休み前に学校でもらったプリントの中から、お目当てのプリントを見つけた。

そのプリントには、

『夏休み中、図書室解放。

午前9時から午後5時まで』

と書いてあった。


やっぱりだ。学校の図書室なら行ける。

まるで迷宮入りの事件を解決した探偵のような気分になった。


家から学校までは20分くらいかかるので、

明日は8時50分くらいに家を出ようと決め、

ぼくの退院記念日は終わった。


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