登校
地獄も長くいれば慣れてしまうものだけど、しょせんは地獄なのでない方がましだ。ぼくの夏休みはほとんどが地獄立ったけど、彼女からの地獄は今日から解放される。なぜなら今日は学校だから。
ぼくは入学したときから学校まで1人で登校する。ぼくに友達が少ないからという理由もあるけど、1人の方が自由な感じがする。そう思いながらもぼくは毎日決まった時間に家を出るので自由なのか?と聞かれたらそれは人の考え方次第だと答える。
ぼくがいつもの学校までの道を歩いていくと、別の道からいつも女子2人がぼくの少し後ろを歩いている。たまたま家を出る時間が一緒なのだろう。ほとんど毎日声が聞こえる。女子2人はいつも大きな声でわいわいおしゃべりをしている。
いつものことだけど、何か違和感を感じる。たぶん夏休みで期間が空いたから、あの2人の声に違和感を感じるんだろう。たいした問題じゃない。
あの2人の声は大きいので、ぼくの耳に自然に話し声が聞こえてくる。
「それでさ~ 料理失敗してすごくマズイ味だっ
たんだ~」
「料理って失敗したら美味しくないことはあるけ
ど、マズイ味にはならなくない?」
「それが、私が作ったのは言葉では表せないマズ
さだったの。その、苦いとかじゃなくてさ
、もう、何て言うの?ナニコレ?みたいな」
「笑笑なにそれどうやって作るのよ、笑笑」
また違和感を感じた、何でだ?あの声、聴いたことがある。あの笑い方もつい最近聴いた。
まさか、と思い何も考えずに勢いよく後ろを見た。
勢いよく振り向いたぼくに反応した2人と目があった。その中の1人はついこの間、ぼくをイライラさせた悪魔がいた。
「あ、とうま君じゃん」
彼女はぼくの顔を認識した瞬間そう言ってぼくの方に走ってきた。
まずいと思い、前を向き早歩きをしようとした瞬間、ぼくのかばんはガシッとつかまれた。
心のなかで大きなため息をついて、もう一度地獄に落ちる覚悟を決めた。
「おはよ~ とうま君、これは運命ってやつか
な?笑」
嫌な顔をして彼女の方を見てやったが、彼女はニコニコしている。その後ろからもう1人の方が頭に「?」を浮かべながらこっちに来た。
「え?かすみ、誰それ?彼氏?」
驚いた表情をしながら早口で言っていた。おそらく彼女の友達だろう。その友達が驚いているのを見て、彼女は笑った。
「ちがうよ~ とうま君は、わたしの話をたくさ
ん聞いてくれる友達なの、笑」
「いや、ぼくはあなたの話なんて聞いた覚えはな
いですし、ましてや友達になんてなってませ
んよね?」
ぼくの言葉を聞いて、友達は頭に「?」がもうひとつ増えたようだ。
「え?かすみが嘘ついてるの?」
「嘘なんてついてないよ!さすがのわたしでも友
達じゃない人のカバンをつかんだりはしない
よ、」
「彼女は嘘をついています。彼女は勝手にぼくの
ことを友達と言ってるだけです。信じないで
ください。」
「えぇ?どっち???」
彼女は友達の反応を見て笑いをこらえようとしていたが、もうすぐ声が出そうなくらい口が膨れていた。と、思ったら口が開き、楽しそうに笑っていた。
「どっちかな~笑笑」
「そんなしょうもない嘘をなんでわざわざつくん
ですか?」
彼女の反応とぼくの言葉で友達はどちらが嘘をついているのか、確信したようだ。
「やっぱりかすみが嘘ついてたんじゃん!」
「ばれちゃったか~笑 えへへ~」
この嘘に何の意味があったんだ?普段からこんなのと相手をしている友達が気の毒だ。
「いや~、わたしは友達だと思ってたんだけど
な~」
「あなたが一方的にぼくに話しかけてきただけじ
ゃないですか、」
「そういえば、とうま君久しぶりにわたしに口を
きいてくれたね~」
あっ、と思い、すぐに目をそらした。
「めぐみ~、紹介するね、
こちらは恥ずかしがりやのとうま君で~す」
「あ~、だから目をそらしたのか~」
「い、いや、違いますよ!何度嘘をついたら気が
済むんですか!」
「え、これも嘘なの?」
ああ、しんどい。まだ朝なのにもうつかれた。
「違うんならわたしたちと一緒に学校まで行こう
よ」
「何で違ってたらあなたと一緒に登校しないとい
けないんですか、?嫌です。では、」
「別に嫌ならいいよ~、わたしたちはとうま君の
横を歩こ~っと、ね、めぐみ~」
ぼくはため息をついてから歩き始めた。
友達は「ごめんね~」とぼくに言った。
これはいったいどうゆう関係なのかわからないが、それから毎日ぼくはこの2人と登校することになった。