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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
12/13

悪魔

「きみがこうやって図書室に来て、本を借りる

ことができてるのは、誰かが親切にきみをこ

こまで案内してくださったからだよね?いっ

たい誰のおかげできみは今ここにいるの? 」


すごく皮肉な感じで言われた。彼女はぼくの目を見て「どう?反論できないでしょ?」と言わんばかりの顔をしている。これが彼女の最終手段か。ここで無視をすれば彼女はずっとこの事を言ってくるかもしれない。とりあえずここは無視せずにうまく流そう。


「そんなことを言ったところでぼくのあなたに対

する気持ちは変わりませんよ、」


これで何とか諦めてほしかった。でも···


「違う違う、わたしそんなこと聞いてないよ?

わたしが聞いたのは、誰のおかげできみは図

書室に来ることができたの?ってこと。ちゃ

んと質問に答えないとね、」


また皮肉な感じで言われた。彼女の声のトーンは真剣な感じではないので、ぼくはおそらくもてあそばれている。もてあそばれているのは気にくわないが、ぼくが質問の答え以外のものを言っても無限ループだ。ぼくはおとなしく降参した。


「あなたの、おかげです···」


「そうだよね!わたしが親切にきみをここまで案

内してあげたんだよね!つまりきみはわたし

に借りがあるわけだ、ね?」


「そ、そうですね、」


この人は何でこんなに偉そうなんだ?

口に出したかったけど我慢した。


「なのにきみは、こんなに美人な先輩のわたし

がきみに興味をもって質問してるのに、わた

しをずっと無視する。そんなことをして恥ず

かしいと思わないの?」


自意識過剰だ。そもそも恥ずかしいと思うか思わないかなんて人によって違う。ぼくは恥ずかしいと思わない。反論してやろうかと思ったけど、こんな人に借りがあると考えるとなんだか負けた感じがして悔しいので反論するのはやめた。


「思わなくは、ないです、」


「だよね!恥ずかしいと思うよね!じゃあ改めて

質問するけど、したの名前は?」


「とうまです···」


「へ~、漢字はどうやって書くの?」


「真冬を反対にして、冬真です、」


「ああ~、そうやって書くのか~」


彼女は少し上を向きながら空中に指で字を書いていた。もうここを出ようと思ったが、まだ質問は続くらしい。


「やっぱり由来は、真冬に産まれたからとか?」


「そう聞いてます、」


「ほんと!やった~ 大正解じゃん!」


彼女がはしゃいでる間にぼくはカウンターまで行き本を借りた。図書室の先生に「楽しそうね」と言われたので少し微笑んだ。尋問を受けてました、なんて先生には言えない。先生から本を受けとると同時に図書室を出ようとしたら腕を捕まれ、笑顔で「図書室の場所を教えたのはだぁ~れ?」と脅されたのでもうしばらく図書室にいることになった。


図書室にはまだ誰もいない。ぼくと彼女は向かい合って席に座り、ぼくはさっき借りた本を読みながら彼女の質問に答えた。


「好きな動物は?」


「ねこですね、」


「残念、わたしは犬派なんだ~ 何で猫派?」


「犬はうるさいイメージがあるので」


「あ~なるほどね、わからなくはないかな~

じゃあ好きな果物は?」


「みかんですね、」


「これまた残念、わたしはイチゴ、」


なにが残念なのかわからない。


「なんかこれだとわたしがとうま君に尋問してる

みたいだな~」


してるみたいじゃなくてしてるだ。


「ん~、とうま君はわたしに興味とかないの?

ほら、名前とかさ~」


「無いですね。」


「うわ~ レディーに失礼だよ~」


「もういいですか?そろそろあなたから解放され

たいんですが、」


「え~ もっと話そうよ~」


ぼくは本を閉じて立ち上がった。


「ぼく昨日言いましたよね?ぼくのことは気にす

るなって、覚えてないんですか?」


「そうだっけ?覚えてないな~」


わざとらしい間抜けた顔にぼくをなめたような声にぼくはため息をついた。


「ぼくと関わってあなたは何がしたいんです

か?迷惑なのでもう関わるのはやめてくださ

い。」


ぼくははっきり言って図書室を出た。少し強く言いすぎたかもしれないけど、あの人にはあれくらい言わないとまた関わってくるだろう。


学校を出て病院い言った。そして病院で本を読んだ。いつもよりかなり早めに病院についたので、帰る頃にはもう本は読み終わっていた。


次の日、ぼくは図書室に行かない決意をした。もちろん彼女に会わないためだ。本を借りることはできないが仕方がない。彼女に会うくらいなら行かない方がましだ。午前は何かで暇つぶしをして、午後に病院に行こうと決めた。もう夏休みの宿題は終わっているので勉強はしなくていい。テレビをつけスマホを触った。


ぼくはあることに気がついた。暇だ。暇つぶしのためのテレビとスマホが全く面白くない。あまりにも暇すぎて昼食を10時過ぎに食べ始めた。できるだけ時間をつぶそうとゆっくり食べて、食べ終わったのが11時頃だった。


ぼくは考えた。今日は8月26日。夏休みが終わるのは8月31日。このままだとあと5日も暇になってしまう。だったら1冊だけしか借りないとかゆう変なプライドは捨てて、今日我慢して図書室に行き、5冊借りれば明日以降暇じゃなくなる。よしそうしよう。ぼくは今日だけは我慢して図書室に行くことにした。


いつもの持ち物を持って家を出た。昼間なので、昨日に比べてかなり暑い。真上からの太陽がぼくの水分を奪っていく。


学校に着いた。11時42分。もしかしたら昼食のために図書室にいないかもしれない。


窓が閉まってむしむしした廊下を歩いて図書室へ行く。図書室の扉の前まで来た。恐る恐る扉を引く。クーラーの涼しい空気がぼくの体を包み込む。図書室にいる人は少なかった。席に座っている人をできるだけよく確認すると、彼女らしき人はいない。よし、と思いながら昨日借りた本を返す。そしてその本をもとの場所に戻した。


新たに借りる5冊の本を探しているときに事件は起きた。


「やっほ~、今日も来てくれたんだ~」


ぼくの体は固まり、顔だけを恐る恐る声が聴こえた方に向けると、そこには悪魔がいた。おそらくこの悪魔は席に座っておらず、本棚が死角となってぼくは見つけることができなかった。

ぼくはすぐさま顔をそらし、悪魔を無視した。


「いや~、まさかわたしとお話しするために今日

も来てくれたんだね~、さすが!」


無視することを忘れて言葉が出た。


「ぼくは本を借りに来たんです。決してあなたと

話すために来たわけではありません。なんで

ここにいるんですか?」


「きみと仲良くなるためだよ~」


「しつこいですね、どうして昨日ぼくに拒絶され

て、今日こんなに平気で話しかけられるんで

すか?迷惑って言いましたよね?」


わざとらしいとぼけた顔をしている。


「そんなこと言ってたっけ?聞いてなかったみた

い笑」


「じゃあここでしっかりと聞いてください。

迷惑です。」


周りの目なんて気にせずぼくは怒鳴りぎみで言った。

すると彼女は少し顔が暗くなり、少し下を向いた。情けをかける気はないが、少し言い過ぎたかなと思った。


「わたしに関わらないでほしいの···?」


「はい。ぜひ。」


さらに彼女の目線が下を向く。そろそろ諦めてくれそうだ。


「じゃあ、きみがわたしに興味を持ってくれた

ら、関わらないであげる。」


さっきまで暗かった顔は嘘だったかのように、いや、嘘だったのだろう。ぼくをからかうように言ってきた。悪魔だ。彼女にほんの少しでも情けをかけたことを後悔した。もう騙されない。


「無理ですね、残念ながら。ぼくはあなたに一切

興味がありません。」


「じゃあわたしも無理だな~残念ながらわたしは

きみに興味ありありですから~笑」


ぼくをからかってニヤニヤしているのが腹立たしい。自分で言うのもあれだけど、この人は本当にぼくのノートを見たのか?あの内容を見て当人にこの態度で接することができるなんて、どんなメンタルなんだ。こんなのにいちいち反論してたらキリがない。1度学んだはずなのに忘れてしまっていた。ぼくはもう一度無視を選択した。


彼女を無視しながら5冊の本を選び、カウンターへ向かおうとすると、彼女の発言が気になった。


「あれ、昨日は1冊だけだったのに、今日は5冊

借りるの?あっ、もしかして明日からは図書

室に来ないつもりか!そんなにわたしが嫌な

のか~、なんか申し訳なくなってきた。でも

残念だね~、神様はわたしの味方なんだ~」


神様はみんなの味方だ。1人のために神様は何かしたりしない。仮に味方をしてたとして何ができる?何もできないに決まっている。

無視を貫き通してカウンターへ向かった。


5冊の本を先生の前に出すと、先生は残念そうな顔をしてぼくを見た。


「ごめんね~、今パソコンがなんかおかしなこと

になっちゃって本の貸し出しができないの、

だから申し訳ないんだけど、本は図書室で読

んでくれる、本当にごめんね~、」


本当に神は彼女の味方をしたようだ。


「ね、神様はわたしの味方だったでしょ?」


「·····」


言葉がでない。

ぼくは悪魔と本か、暇か、を選ばなくてはならないようだ。ぼくはいろいろ考えた末、悪魔を選択した。


それから夏休みが終わるまで、ぼくは毎日図書室に行った。

彼女は諦めるとゆう言葉を知らないようで、無視を貫くぼくに毎日話しかけてきた。

例えばこんなことだ。


「わたしの名前は何だとおもう?」

「友達は何人いるの?」

「スマホの機種はなに?」

「だいたいいつも何時くらいに寝るの?」

「毎日楽しい?」


こんなことを毎日聞いてきた。ぼくはほとんど本を読みながら聞き流していた。本当にしつこいが、毎日聞いて慣れてしまった。


慣れたとはいえないに越したことはない。


でも今日で夏休みが終わる。


明日からは学校だ。

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