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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
11/13

朝早くに行けば

家に帰っても、彼女のことが頭から離れない。ぼくは誰にも見せたことがないノートを見られても何とも思わない。いや、少しは何かしら心が少し動揺したかもしれないが、それほど重大なことではなかった。さやのことと、ぼくの日常を書いているノートだ。ノートの内容を知られたところで彼女には何の関係もない。


なのに彼女は「何かできないか?」と言ってきた。ぼくは腹が立った。おそらく彼女はノートを読んで、こう思ったんだろう。「彼は今苦しいはず。だから助けてあげないと」


大きなお世話だ。僕には「君は弱いから助けてあげよう」と言ってるようにしか聞こえない。それに彼女に何ができる?しかもぼくがそれを断ったら、次は「きみともっと話してみたい。明日も図書室に来てね。」と言ってくる。ぼくと話していったい何になる?


あぁ、どうしよう。明日は図書館に行かない方がいい気がする。でもぼくは本を借りていない。


ぼくは自分では頭が良いと思っている。もちろん天才というわけではなく、平均よりはぜんぜん上だという意味でだ。なのでぼくはこう考えた。


あの人に会わずに本を借りる方法はないかと。



セミの鳴き声で目が覚めた。時計は午前7時だ。いつもより1時間近く早く起きた。理由は、朝イチに図書室に行けば、誰にもでくわさずにすむ。つまり彼女に会わずに本を借りれると思ったから。


コップ1杯の水を飲み、朝食にパンを食べ、歯を磨いて顔を洗って、制服に着替える。

ほとんど準備が終わると時計は午前8時を少しまわっていた。図書室に入れるのは9時からなので、今から家を出てもさすがに早すぎると思い、20分ほどテレビとスマホで時間をつぶしてから家を出た。


いつもより早いからか、外が涼しく感じる。

それでも歩けば汗はでてきてしまう。でもタオルで汗をぬぐうのでイライラしない。


学校についたのは8時46分だった。

9時まではまだ時間がある。少し早かったかな、と思いながら下駄箱へ行き、靴を履き替え図書室に向かった。


まだ9時にはなってないので図書室は開いてないと思っていたが、部屋は電気がついていることに気がついた。ドアを引いてみると鍵はかかっていなかった。まさか、と思い部屋に入るなりその場で部屋全体を確認する。


カウンターに先生が1人。

どうやら先生が早く来ていたようだ。他には誰もいない。作戦は成功に終わったとぼくは確信した。


先生がぼくに気づき、目が合ったので、「おはようございます」と挨拶をした。


「あら、おはよう。

2人とも早いわね~、ゆっくりしていってね」


笑顔で軽くおじぎをした。あいにくぼくはゆっくりできない。できるだけ早く帰らないと彼女が来るかもしれないからだ。


本を探そうと本棚の方に体を向け、1歩目を出した瞬間、ぼくはある違和感をおぼえた。

2人とも?そう思った瞬間、聴いたことのある声が後ろから流れてきた。


「おはようございま~す」


この瞬間、成功かと思われた作戦は失敗した。


「おはよ~、方向音痴くん~」


すごく普通に話しかけてきた。あまりにも自然だったし、作戦は成功だと確信していた油断から驚きを隠せず、彼女に対する嫌悪感を忘れ、ぼくはつい知り合いのように話してしまった。


「な、何でこんなに早く来たんですか!」


「おお、普通に話してくるね、」


ここでぼくは「あっ、」と思い、目をそらした。


「きみこそ、何でこんなに早いのかな~?」


「ぼくはあなたにでくわさないために

早く来たんです!」


つい答えてしまった。


「へ~、わたしはきみにでくわすために

早く来たんだ~、きぐうだね、」


この人はぼくをからかっている。

やられた。行動を読まれていた。彼女に会うくらいなら図書室に来るんじゃなかった。


「来ないと思ってたけど、来てくれたんだね~

そうか~、そんなにわたしに会いたかったの

か~」


「断じて違います。」


「笑笑、でもこれだけ普通に話せるし、でくわし

ちゃったからには、いろいろ話さないとな~」


「ぼくはそこまでおひとよしじゃないです。

昨日あんな雰囲気になって、ぼくに無言で帰

られて、よくそのテンションで話しかけられ

ましたね?気まずいとかないんですか?」


「そんなの忘れちゃったな~

わたしはきみが図書室に来てくれて

うれし~な~笑」


頭がおかしい。テンションがおかしい。

この場所へ来てしまったことをさらに後悔する。


「ぼくはあなたのためではなく、本を借りるため

にここへ来たんです。勝手に喜ばないでくだ

さい。」


「わたしは喜んでないよ?

嬉しいと思ってるの笑」


ムカっとする発言を連発してくる。

彼女にぼくの話が通じないことと、彼女と話していても疲れるだけだということを学んで、ぼくは彼女を無視して本を探すことにした。


先生に「喧嘩?」と聞かれたので、「そんな感じですがもう終わりました」と伝えて、本棚へ向かった。


本を探していると彼女がぼくの横に来て話しかけてくる。逃げてもついてくる。ぼくは無視を続けた。


「ねえ、方向音痴くん」


無視すればいいのだけれど、ぼくにもプライドがある。


「その呼び方は失礼だと思います。」


「じゃあ、名前はなんてゆうの?」


「·····山田、です。」


「へ~、なんか普通だね笑」


つくづく失礼な人だ。


「したの名前は?」


「あなたは失礼なので、

もう何も教えたくありません。」


「え~、何も?」


「はい。何も。」


「ぜ~ったい?」


「はい。」


いちいちうるさい人だ。この人にいちいち反応していたら面倒くさい。次はプライドなんか捨てて無視を貫こうと決意した。


どうしても名前を知りたいのか、彼女はぼくの名前を予想してぼくに聞きまくってきた。でも決意したぼくに情けなどない。ぼくは無視を続けた。

ようやく諦めたのか、彼女はため息をついて少し黙った。それと同時に借りる本を決め、ぼくはカウンターに体を向けた。その瞬間彼女はまたため息をついた。


「残念だな~、この手だけは使いたくなかったん

だけど、しかたがないよね、うん、」


どんな手を使われたところで、ぼく決意は崩れない。一瞬止まった足をまた動かしたが、彼女の言葉がそれをまた止めた。



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