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最後のビデオ通話  作者: 桐谷 霞
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決意

ノートを読み終えたわたしは頭の中が真っ白になった。こんな感覚は初めてだった。


わたしは考えた。彼にこのノートを返すときに、ノートの中身を読んでしまったことを正直に話すのか、それとも嘘をついて読んでいないと言うのか。


第一わたしは関係ないよね、彼のことなんて何にも知らないし、彼もわたしのことをなにも知らない。仮に正直に言ったとして、その後はどうなるの?わたしに何かできるかな?たぶん何もできないよね、正直に言って気まずくなるくらいだったら、嘘をついた方が、黙ってた方がお互いのためだよね·····


でも本当にそれでいいのかな?こんなこと知ってるのは彼の家族と病院の人、そしてわたしくらいだろうし、こんな大きなものひとりで抱えるなんてわたしには耐えられないな、わたしなら誰かに助けてもらいたいと思う。でも彼はそんなこと思ってないかもしれない。そんなこと思ってないかもしれないけど、勝手にノートを見て、こんなこと知っちゃったら、後でモヤモヤが残るだけだと思う。それはそれで嫌だ。


わたしは正直に言うと決めた。


彼は1時間経っても来なかった。もうすぐ図書室が閉まってしまう。でもあんなに大切なノートを失くしたと気づけば必ず取りに来るはず。

わたしは辛抱強く待つことにした。


5時になったので、もう図書室は閉まってしまう。ノートを手に図書室を出て、靴を履き替えて下駄箱の前で待つことにした。


もし彼が戻ってきたらどんな言葉をかけよう、最初っから真剣な感じ?でもなんかわたしらしくないな、やっぱり最初はフレンドリーな感じでいくか、それよりもし戻ってこなかったらどうしよう、明日も図書室に来るかな?


スマホの時間を見ると、もう午後5時50分だ。


もうすぐ6時か~、この感じだと帰るの遅くなるな~、何時までここにいようか考えた方がいいかな?8時?9時?ん~、どうしよ、あ、てゆうか夕飯何にするか考えてなかった、どうしよ、簡単なメニュー簡単なメニュー、と···


そんなことを考えていると誰かが下駄箱を通りすぎたことに気づくのが遅れた。


しまった、油断した、早く追わないと、ってゆうか足はや、もうどっか行っちゃったじゃん、

あ~もう、わたしのバカわたしのバカ、たぶん彼なら図書室に行くよね?よし、


できるだけすぐに図書室に向かい、到着したはいいものの誰もいない。


あれ~?おかしいな、わたしの予想だと、この辺で鍵が開いてなくて立ちつくしてると思ったんだけど、もしかして違う人だった?でも普通あんなに急ぐ人なんて忘れたものを取りに来るような人だと思うんだけどな、んー、図書室の中?


と思い、扉を開けようとしたが案の定、鍵がかかっている。


やっぱりそうだよね、鍵がないと入れないよね、鍵が、ないと、あ!職員室か!絶対そうだ。職員室に鍵を取りに行ったに違いない。ってことはここに戻って·····こない。あの先生はいつも鍵を持って帰ってるもん。とりあえず職員室にダッシュ!急げー!


職員室に来たはいいものの、生徒は誰もいない。職員室のなかに入り先生に聞いた。


「失礼します。さっき誰か来ませんでしたか?」


「あー、1人男子生徒が図書室の鍵はないか?ってここに来たよ、」


「ほんとですか!?」


予想は大当たり。後は間に合うかどうか、


「その人、どれくらい前にここに?」


「1分もないかな~」


「失礼しました」と言って、走って下駄箱へ行った。


下駄箱には誰もいなかったので、急いで校門へ向かった。

すると前に人がいた。彼だ。

わたしが大きな声で「お~い」と言うと、

彼は振り返った。

やっぱり彼だった。


「これ、君のでしょ?」


わたしは彼にノートを渡した。

彼はそのノートをじっと見つめた。


「どうしてこれを···」


「きみが寝てた机の上に

置きっぱなしだったよ~」


いつ言おう、いつ言おう、


「この時間まで、

ずっと待っててくれたんですか···?」


「そうだよ?優しいでしょ~

来なかったらどうしようかと

思ったけどね~」


早く言わないと、正直に、早く、早く


「ありがとうございます···

失くしたらどうしようかと···」


今しかない。タイミングはここしかない。


言おうと決めた瞬間、自然と笑顔が消えていた。


「あのね···ノートの中身、

読んじゃった·····」


すると、彼の顔が暗くなった。


「·····そうですか·····」


彼の声は弱々しかった。

こうなることはわかっていたよね、じゃあ何でわたしは正直に言ったの?それは、彼を助けようと


「そ、それでね、もしよければ···

わたしにも何かできないかなって···」


何かってなに?もしよければ?そんな人に何ができる?正直に言って、わたしは一体何がしたかったの?これが言いたかったの?あぁダメだ。


こんなにも自分が情けないと感じるのは初めてだった。もちろん彼から返ってくる言葉はこうだ。


「ありがとうございます。

気持ちはとても嬉しいです。

でも大丈夫···

ノートのことも、ぼくのことも、

あまり気にしないでください。」


大丈夫な人はノートにあんなことを書いたりしない。そんなことを言ったところで、わたしには何もできない。あぁ、腹が立つ。自分に腹が立つ。こんな時間まで待って、こんなにも情けないことを言って、何でノートなんて開いちゃったの?

彼に腹が立つ。大丈夫なわけないじゃん、きみは毎晩ノートを書きながら泣いてるんでしょ?ノートの紙を見たら、きみがどれだけ泣いてるのかわかるんだよ。それなのに、大丈夫なわけないじゃん。

このまま終わっていいの?モヤモヤしたままで、ほんとにいいの?かすみ!


彼は「それでは···」と言ってこの場を立ち去ろうとした。


「待って、」


気がつけば言葉がでていた。

彼は立ち止まった。


わたしはこのまま終わりたくない。彼にとっては大きなお世話かもしれない。わたしなんかにできることなんてひとつもないかもしれない。でもわたしはわたしがやりたいようにしよう。ノートを見たのも、その事を話そうと決めたのも、こんな時間まで待ったのも、わたしがやりたいようにしたからだ。わたしが今できることは、わたしができることを探すこと。だからまずは彼を知ろう。知れば何かが見つかるかもしれない。


「ノートのことにはもう触れない。

でもきみともっと話してみたい。

だから、明日も図書室に来てね」


とても不器用、伝えるのがへたくそ。でもわたしらしい。それでいい。これからもわたしらしくていい。それがわたしのやり方。仮に迷惑だと思われても、わたしはやりたいようにしよう。もちろんやり過ぎは良くないけれど。

後悔しないように。


彼はわたしの言葉を聞き、なにも言わずに立ち去った。

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