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巨乳は正義。異論は認めない

「てかさあ、ともっちすっげえイケメンじゃん……ずるくない?」

「えっそう?」


 ハタやんがどっかから出した手鏡を覗けば、そこにいるのは私の大好物、エドワード・ファーロングの少年時代だった。そうほら、ターミネーター2の、ジョン・コナー! 鏡の中にはそれそっくりの美少年。はちみつ色の髪に薄茶の瞳だけはちょっとオリジナルと違うけど、超絶イケメンじゃないこれ。


「これが、私……」


 一度でいいから言ってみたかったセリフを呟いて満足してると、はたやんが奪うように鏡を回収してった。――んもう、ケチ。


 あと声でなんとなく気づいてたけど、今完全に男だね、私。改めて自分の姿をよくみると、なんというか……うんこれ、テルマエロマエ? 古代ローマの映画によくあるトーガってやつ?


 胸のとこをちょっと広げて覗いてみれば、見慣れた平々凡々なおっぱいはなくなってて。その代わりに引き締まった胸板と軽く割れてる腹が見えた。


「やだ、あたい惚れちゃいそう……」

「いや、その顔でその口調もやめてね?」


 それにしてもやっぱりこの人、ハタやんだわ。見た目は黒い女豹だけど、このツッコミポジションは間違いない。


 彼は某大手メーカー系のエンジニアさんで、メンバーの中では貴重な常識人。飲むと暴走しがちな私たちを、必死に軌道修正してくれようとするんだよね……まあみんな飲んでるから少しも聞いてないんだけど。


 私は目の前にある飲みかけのジョッキを口につけた。飲めばわかる、濃いめのハイボール。私の定番。


「ねえ、私たち、上野にいたよねえ?」

「うん」


 ハタやんも少し落ち着いたのか、目の前の飲み物に口をつけてる。何それホッピー? 場違い感すごいな。


「昼の十二時集合で、いつもの四人だったよねえ?」

「うん」

「じゃあこの人たちって、もしかして……」

「……うん」


 私たちは同じテーブルに突っ伏してる残りの二人を見た。やたらとでかい黒髪女とエルフの少女。


「ねえハタやん。これ、()()()()()()だと思う?」

「いややめて。どっちに転んでもほんと怖いから」

「片っぽずつ起こしてみよっか」

「なんで一人ずつ?」

「いや、収拾つかなくなる気しかしなくてね」

「あーうん、そうだな」


 あ、この串焼き、まだあったかくて嬉しい。ちょっとお行儀悪いけど、私はもぐもぐしながら聞いてみた。


「ハタやん、どっちの娘が好み?」

「ええ……この二択って厳しくない?」


 片方はひどく幼くみえる少女。ハタやんのストライクゾーンからはきっと外れてる。もう片方の黒髪女はいけるだろうけど……なんだろ、この人デカすぎる。身長二メートル近くあるんじゃないのかな、これ。


「……じゃあでっかい方からいってみよっか」

「おっおう」


 私は黒髪女の耳元でテーブルをノックした。コンコンという音の後、肩をそっと揺さぶる。


「入ってますかー?」

「……入ってます」


 ――ブホォっ


 ボソボソと返ってきたその返事を聞いて、ハタやんが酒吹き出してるけど気にしない。問題は誰が入ってるか、だからね。


「ねえそろそろ起きてー」

「ん……」


 眠そうに目を擦りながら起き上がった黒髪女を見て、ハタやんが固まってる。そうね、これ、すごいおっぱいだね! 女豹ハタやんもまあまあな巨乳だけど、この黒髪女はさらにその上をいく。しかもしかも! これって伝説のビキニアーマーってやつじゃないの!?


 黒髪ストレートロングの髪は、まるで絹糸のようにツヤツヤと腰まで流れてる。そしてめっちゃ綺麗な美女の瞳は、左右で色が違う。片方はアイスブルーで、もう片方は赤みかかった金色……オッドアイだ。

 すっごいなー、本物のオッドアイって、ネコ以外で初めて見たわ。


「あの……すみませんがお名前をお聞きしても?」


 恐る恐尋ねるハタやんに、黒髪美女は色っぽいハスキーボイスで答える。


「あ…… はじめまして。僕、湯来と申します」

「「ゆっきー!?!?」」


 全力でハモった私たちに、店内の注目が集まった。――ほんとさっきからうるさくてごめんなさいね。


 ゆっきーは湯来孝則(ゆき たかのり)さん 61歳。飲み友四人の最年長だ。飲み歩きが趣味で、今回集まったお店もゆっきーが決めたんだよね。


 私たちが自己紹介すると、くすくす笑うゆっきー。その微笑む姿は妖艶としか形容できないんだけど、身長差がありすぎて私の目線上ではメロンおっぱいばかりが強調される不具合。


「まあよくわからないけど、とりあえず楽しいからいいんじゃないの?」


 おっぱいをたゆんたゆんさせながら笑うゆっきーは、飄々とした様子でホッピーを作ってる。ああ、これは実にゆっきーらしい。目の前の状況を徹底的に楽しむのは、この人の十八番だから。


「何が起きてんのかさっぱりわからないけどさ、とりあえずここのモツ煮は美味いよ。ほらともっち、食べてごらん」

「あっほんとだ、おいしー」

「ねえ君たち、ほんとに動じないね!?」


 相変わらずハタやんはツッコミ役だけど、手にはしっかり串焼き持ってるじゃんね。君も大概だよ。


「……さて。残りは一人だねえ」


 私がモツ煮の余韻をハイボールで洗い流して呟くと、美女二人が小さくハモった。


「「イッシー……」」


 上野で飲んでた四人がそのままなら、そこにいるエルフ少女の中身は石野洋介(いしの ようすけ)さん56歳、通称イッシーのはずで。


「ハタやん、よろしくね」


 私の席からはエルフ幼女に届かないので、起こす役は隣にいるハタやんに丸投げする。


「でもこういうのってさ、やっぱり女の子に起こしてもらった方が嬉しくない?」

「いや今私、野郎だし」

「あっそうか」


 全く、ややこしいったらありゃしない。

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