ペアルック
立食パーティーが始まる時間が迫り、リウはディーネと共にメイリーにドレスの着付けをされていた。
リウは黒のAラインドレス。
種類で言えば普段と同じだが、今回着るのは肩出しのもので背中側に紺色の大きなひらひらとしたリボンが付いている。
前のドレスもそうだったが、今回も宝石が散りばめられている。
衣装を作る人はドレスを宝石で光らせるのが好きなのだろうかとリウは首を傾げた。
髪は編み込まれ、ドレスのリボンと同じ色の飾りで結ばれている。
そしてディーネだが、今回はリウと色違いのペアルックだ。
海色のドレスに、エメラルドグリーンのリボン。
髪はハーフアップで、リウと同じようにリボンと同じ色の飾りで結ばれている。
鏡を確認し、興奮している様子でディーネがリウに声をかけた。
『凄いよりーちゃん! お揃い!』
「そういう風に決まったんだから、それはお揃いになるでしょうけれど……体格とかで若干変わるのは仕方無いけど、色とサイズを除けばほとんど同じドレスね。流石メイリーだわ」
「お二人に褒めていただけるなんて光栄ですぅ。いつもよりも張り切って作ったんですよぉ。ではぁ、準備も整いましたから行ってらっしゃいませぇ。私もあとで行きますねぇ~」
『うん! 先に行ってくるね、メイリー!』
「作ってくれてありがとう。疲れたらすぐに退出するのよ」
「お気遣いありがとうございますぅ。ですがぁ、衣装の勉強の一環なので平気ですよぉ。リウ様こそぉ、無理はなさないで下さいねぇ」
「……ええ。じゃあ行ってくるわ」
「行ってらっしゃいませぇ~」
優しげな微笑みを浮かべたメイリーに見送られ、リウが途中で道に迷っていたディーネを確保して会場に向かった。
◇
大広間に繋がる扉の前に立ち、リウは無言で合図を送った。
ディーネはここからの入場ではないため、護衛の騎士の一人に案内されて既に会場に入っている。
会場の最終確認が行われ、会場内に進行役――レアの父親であるフローガの声が響き始めた。
「我等が女王、リウ陛下の御成りです! 皆様、大扉にご注目下さい!」
ゆっくりと大扉が開き、リウの姿が大勢の視界に映った。
途端、ほとんどの者が絶句する。
否、言葉もなく見惚れてしまったというのが正しいか。
あどけなさの残る顔立ちだと言うのに、纏う雰囲気はどこか老齢さを感じさせるもので、されど未熟で幼くて。
無機質な左右で色の違う瞳はどこか近寄りがたい雰囲気を醸し出し、けれどその可憐な容姿が仲良くなりたいという欲を掻き立たせていた。
ゆったりとした足取りでリウが歩き出す。
沢山の注目を浴びる中、大広間の中央で立ち止まったリウが口を開いた。
「此度はこの夜会に参加してくれてありがとう。感謝するわ。知っている方も多いでしょうけれど、改めて。私はリウ・ノーテル。魔国ノルティアナの女王にして、悲劇女王の名を冠する最古の魔王。以後、お見知り置きを。……さて、此度の夜会は立食パーティーよ。自由に食べ物を食べて、好きに楽しんで」
そう言ってリウが言葉を締め括ると、立食パーティーが始まった。
リウが周囲に馴染んだ頃にディーネが合流し、食べ物を食べながら雑談を始めた。
『りーちゃん、回収してくれてありがとー。迷って参加できなくなるところだった。折角りーちゃんとお揃いにしたのに』
「そうだろうと思ったわ。いい加減道覚えなさい」
『んー、りーちゃんの部屋の行き方と、りーちゃんの執務室、あとは私と部屋と執務室、あとメイリーの仕事場……あとは訓練所くらいしか覚えてないよ。部屋の数多すぎて覚えれないもん……』
「一気に覚えろとは言ってないわ。でも大広間は分かりやすいんだから覚えなさい」
『時間あるときに頑張るぅ~』
「ん。それでいいわ」
ぽんぽんとリウがディーネの頭を撫でてフルーツを口の中に放り込んだ。
なお、放り込んだのは確かなのだが仕草自体は気品がありはしたなさは感じなかった。
ディーネは口の中にあるお肉をもぐもぐと咀嚼している。
しばらく雑談を続けていると、一人の女性が近付いてきた。
「リウ様ぁ、ディーネ様ぁ、ここにいらっしゃいましたかぁ。探しましたよぉ」
「あら、メイリー。どうかした?」
「いえぇ、変に目立ちすぎていないか確認しようと思いましてぇ。でもぉ、この様子だと大丈夫そうですねぇ」
『そうなんだ。メイリーも楽しんでね~』
「はいぃ、勉強ついでに楽しませていただきますぅ」
やってきたメイリーはすぐに離れていった。
どうやら、本当に確認しに来ただけらしい。
ちなみにだが、この夜会はリウ以外は任意参加だ。
ちらほらとリウの部下たちも自主的に参加している。
リウは欠席するわけにはいかないので強制参加である。
「……メイリー、夜会の目的が他国の衣装についての勉強なのよね……夜会そのものも楽しんでくれるといいのだけど」
『そうだけど、楽しまなくてもメイリーだからしょうがないよね』
「……そうね」
ディーネの言葉に納得するように頷くリウであった。




