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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
みんなで騒ぎましょう
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英雄王

レインに出会ったあと、少しだけお城に帰ってきたリウは応接室にて紅茶を嗜んでいた。

ゆっくりと息を吐き、くつろぎながら客人を待つ。

少しして、ノックの音が響いた。


「ヴィール栄光国国王陛下をお連れしました」


メイドの声が響くと、リウはそっと紅茶を置いて扉の方を見ながら口を開く。


「ええ、ありがとう。入って頂戴な」


扉を開き、メイドに案内されて少し年老いた男が入ってきた。

豪華な衣服に身を包んでおり、左目には眼帯を着けている。

白髪混じりの髪は暗い茶色で、瞳は深みのある緑色。

彼はヴィール栄光国国王、ハザック・ヴィールその人であった。

英雄王として有名な人物である。

リウがメイドを退室させ、ハザックの深緑色の瞳を真っ直ぐに見据えた。

口元に微笑みを浮かべてリウが口を開く。


「――久しいわね、()()()殿()?」


リウが敬称を付けてハザックのことを呼ぶと、ハザックは苦笑いして頷いた。

そして、紅茶を一口飲んでから口を開く。


「あぁ、10年ぶりくらいか。やはり、お前は歳を取らないのだな。羨ましい限りだ」

「羨ましい、ねぇ……今だって現役並みの力を持っているのによく言うわ」


ジト目になりながらリウが告げた。

それを聞いてハザックは快活に笑い、〝やはり分かってしまうか〟と楽しそうに言う。

リウは溜め息を吐き、足を組んでハザックに話しかけた。


「というか……あなた、現役よりも力増してるんじゃないかしら? 執務だってあるでしょうに、どうして現役以上の力を保持できるのよ……」

「はは、どうだろうな。確かめてみるか?」

「私以外の原初の魔王と二世代目に襲わせるわよ」

「その魔王たちが一斉に襲いかかろうとも、お前には敵わんのだろう?」

「……」


リウがハザックを睨み付けた。

しかし、少ししてふっと目元を和らげるとリウが小さく笑う。


「懐かしいわねぇ。寝て起きたらお城で保護されてたのよね」

「森で眠る少女を見つけたら普通は保護するだろう」

「その少女は最古の魔王だったわけだけれど」


二人が話している通り、リウは森で眠っていたところをヴィール栄光国に保護されたのだった。

そこでハザックに出会い、仲良くなったという流れだ。


「……しかし、驚いたな。あのお前が国を建てるとは」

「人助けよ。ここに里を作っていた純血竜たちが帝国に狙われていたの。この場所を国にまで発展させたら帝国のものにはならない……いえ、正確に言えば抵抗する権利を得る、かしら。とにかく、この国は人助けで作ったのよ。だから、今回のお祭りは純血竜たちが解放されたお祝いでもあるの」


そう言って優しく微笑んだリウを見て、ハザックは更に驚いたような顔をした。

窓から街を見るリウの表情は慈愛に満ちていて、それが10年前の彼女を知っている彼からしたら意外で仕方無かったのである。


「……変わったな」


その呟きを聞いて、リウが窓からハザックの方へ視線を戻した。

そして、小さく微笑んで口を開く。


「そうね。私自身、変わったとは思うわ。……でも、数ヶ月程度同じ城に居ただけの関係のあなたでも分かるほど?」

「月日で言えば関係は浅いだろうが、お前との生活は濃密だったからな。今でも明瞭に思い出せるほどだ」

「ふぅん……じゃあ、あなたから見て私はどんな風に変わったの?」


リウが首を傾げながら尋ねた。

ハザックは考えるような素振りを見せながら言葉を口にしていく。


「……まぁ、昔よりもだいぶ丸くなったな」

「太ったって言いたいのかしら。殺すわよ」

「違う。国家中立議会のときも思ったが、随分と他者に対して寛容になっている」


殺意の籠った瞳でハザックを睨み付けていたリウがその言葉できょとんと首を傾げた。

そんなリウの様子を眺め、ハザックは昔を思い出しながら言葉を紡ぐ。


「昔はもっと、淡々としていた。他者に興味なんてなかった。お前は喋ることさえ最低限だっただろう。使用人に聞いてみたことがあるが、お前の声を一度でも聞いたことがあるのは10人にも満たないぞ」

「……確かに、そうかもしれないわね。まぁ、正確に言えば他者と関わることが辛かっただけなのだけど」

「お前は我が国にいる間辛かったのか?」

「魔王という立場上、人と関わると碌なことが起きなくてね。裏切られるわ、関わった人が人間を裏切ったとかで殺されるわ……そういうことが多発してた時期だから。私も、あのまま一人っきりでずっと過ごすのが嫌で、このままだと駄目だと思ったから行動に移していたのだけどね……」


愚痴るようにそう告げて溜め息を吐くリウ。

想像してみてほしい、人と少し関わるだけでその人に裏切られて襲われたり、普通に仲良くなって友人ができても他の人にその友人が殺されるのである。

心に傷を負っても仕方無いことだろう。

いや、傷付かないとおかしいことである。


「お前、よく人助けする気になったな……」

「気紛れよ、気紛れ。まぁ、グアルディアの子孫というのもあるのだけどね」

「そうなのか!?」

「ええ。最初から薄々察していたし。気配も濃密だったわけだしね。さ、昔話はまた今度ゆっくりできるときにしましょう。私は忙しいから早く行きなさい」


そう言ってハザックに退室を促すリウであった。

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