嫉妬の大悪魔
メイリーの仕事場から退出し、ディーネとも別れたリウはルリアが治める国、魔国シェイタンガンナにあるルリアの部屋を訪れていた。
急に行っても困られるだけなので、ルリアの言う〝秘書ちゃん〟には話を通している。
リウと〝秘書ちゃん〟は知り合いなのである。
しかし、秘書に話を通しただけでルリアには伝わっていない。
リウがそうするようにお願いしたからだ。
というのも、ルリアに話が伝わってしまえばルリアに逃げられてしまう可能性があるのである。
そんなわけで、リウはルリア以外にだけ話を通した上でルリアの部屋を訪れていた。
「り、リウ? 急に来てどうしたの? お祭りに行く準備は進めてるけど……」
リウは無言のままルリアを見つめた。
ルリアがそんなリウから目を逸らす。
「……その反応、ここに来た理由については察してるようね」
「お、怒ってる……?」
「ええ、もちろん。とっても怒ってるわ」
にこりと笑みを浮かべ、足を組みながらリウが告げた。
ルリアが頬を引き攣らせ、そっと後ずさる。
もちろんリウは逃がす気など微塵もないため、魔法で黒い鎖を生み出して拘束し、無理矢理椅子に座らせた。
「私がヴェルジアのこと苦手なの、知ってるわよね? 会う度に口説かれてるのも知ってるわよね?」
「う、うん……」
「あなたなら口説かれることもないんだから、身代わりになれとまでは言わないけどせめて同行くらいしてくれたっていいじゃない。あなたが居たってデメリットなんてないじゃない! 人が居れば多少あいつも遠慮するでしょうし、一緒に居てくれるだけでマシなのに!」
リウがジタバタと暴れ始めた。
まさかそこまでとは思っておらず、若干ルリアが引く。
数分もすればとりあえず落ち着き、リウが机に突っ伏した。
「と、とりあえず今回は愚痴聞くから、ね? 次居合わせたら同行してあげるから!」
「……本当?」
「うん、本当! なんなら約束する!?」
「……それはやめておくわ。でも、次また逃げたら殺すから」
「ひぇっ……リウのそれは洒落にならない……!」
ルリアが怯えたような反応を示すと、リウは笑顔を浮かべた。
これで逃げることはないだろうということらしい。
長く居ては邪魔だろうとリウがお暇しようとしたとき、部屋の扉がノックされた。
「お姫様、リウまだ居る?」
「あ、秘書ちゃん! リウは居るけど、どうしたの?」
「いや。折角だから顔見ておこうと思っただけ。入っていい?」
「いいよいいよ!」
ルリアの言葉が終わると、スーツを着崩した濡羽色の髪に紅い瞳の女性が入ってきた。
気怠げな紅色の瞳にハイライトは宿っておらず、スーツを着崩したその姿はルリアに仕事をさせたりルリアの隠れ場所に透過の魔道具を設置したりする〝秘書ちゃん〟とは到底思えないが彼女そこが正真正銘ルリアの言う〝秘書ちゃん〟であり、そして――
「お姫様の秘書ちゃんこと嫉妬の大悪魔さんじょー。いえい」
嫉妬の大悪魔、ジェロシーアである。
なお、上記の台詞を言いながら彼女は右手でピースをして目の前に突き出したポーズを無表情で行い、今も継続している。
反応するまでやめないらしい。
「……久しぶりね、シーア。変わってないようでなによりだわ」
しかし、それを理解しながらも無視してそう告げたリウに反応してくれないと悟ったのかジェロシーア、もといシーアがポーズをやめた。
リウの言葉に頷き、椅子に座りながら口を開く。
「ん。私は未来永劫永遠に変わらない」
「シーア、未来永劫と永遠は同じ意味よ」
「知ってる。永遠はただの念押し。だから私は何度指摘されても未来永劫永遠を使い続ける」
シーアは一言で言うならば変人だ。
常識は持ち合わせているため、然るべき場では徹底的にルリアのサポートに回り、仕事中ならば真面目そのもの。
そう、仕事中ならば。
だがしかし、ルリアは当然としてリウとシーアも旧知の仲である。
なので、シーアは一切遠慮することなく素で接していた。
「ねぇ、シーア。私、仕事しているときのシーアを見てみたいわ」
シーアはヒートアップするとリウやルリア、そして他の大悪魔たちでさえもシーアがなにを言っているのか分からなくなるのでリウがそうなる前にお仕事モードのシーアが見てみたいと声をかけた。
シーアの言葉が理解不能言語に変わるのは防げたようで、シーアの雰囲気がガラリと変わる。
「ルリア様、最低限の仕事は完了致しましたか」
「あっ、う、うん! 休憩してもいいよねっ!?」
ルリアが窺うようにシーアを見上げた。
これが普段らしい。
「はい、しっかりと終わらせたのなら休憩なさっても咎めることなど致しません。しかし、少しでも仕事をなさることを私は推奨致します」
「う……はぁい……」
話に聞いていた通り、仕事中であればしっかりしているようだとリウはひっそりと安堵した。
書き忘れたので補足。
悪魔は黒髪赤目が多いです。
というか悪魔は全員赤目です。
ただ、濡羽色や紅色は高位の悪魔の証になります。
基本的にはどっちかなんですが、シーアは両方なのでシーアが大悪魔ということを知らなくてもかなり高位の悪魔として認識されます。




