愚妹
やってきたルリアにレアが抱きついているのを眺めていたリウだが、しばらくしてルリアのヘルプに応えたのか、もしくは飽きたのかレアを引き剥がした。
〝ああっ〟とレアの悲しげな声が漏れる。
「抱きつくのはいいけど、そこは邪魔になるから移動しましょう。とりあえず私の部屋でいいかしら?」
「あっ、はい……ごめんなさい」
「ん。……ほら、ルリアも来なさいな」
「あ、うん。……リウの部屋でまた抱きつかれそうな気がする……」
リウは〝邪魔だから移動しよう〟と言った。
つまり、移動させるためにルリアからレアを引き剥がしたとも取れる。
というわけで、ルリアは少々不安になっていた。
しかし、リウとしてはそんな意図はなかったので全くもって気付いていない。
ルリアだけが不安を抱えたままリウの部屋に辿り着き、リウに促されるままに椅子へと着席した。
当然のようにレアがルリアの隣に着席する。
別に嫌なわけではないのでルリアもなにも言わなかった。
「私、紅茶淹れてくるわね。あ、ルリアお砂糖いる?」
「あっ、お願い」
「分かったわ。ちょっと待っててね」
リウが紅茶を淹れに行くと、レアが満面の笑顔でルリアに話しかけてきた。
しかし、抱きついては来ないので少しだけ安心するルリア。
ルリアとて抱きつかれるのが嫌なわけではないが、それはそれとして恥ずかしいのである。
「あの、ルリア様の国……えっと、えーっと……シェイタンガンナ、でしたっけ? あそこは、お祭りとかあるんですか?」
「う、うん、あるよ。準備とか大変だし、頻繁じゃないけど……」
「そうなんですね! じゃあ……もう一人の原初の魔王様! 神聖悪帝様のこと教えて下さい!」
「あぁ、えっと、ルエリアはね……」
少し考えるような素振りをルリアが見せる。
そして、しばらくしたあとに口を開いた。
「このこと知ってる人は少ないんだけど、ルエリアってリウの妹」
「なに勝手に愚妹のこと教えてるのよ!?」
魔法で机に紅茶の入ったカップを置きながらリウが叫んだ。
それを聞いてルリアが笑う。
「リウの辛辣モードだ。これ大体照れてるときに言うんだよね。怒ってるときもだけど、雰囲気違いすぎて本当に照れ隠しにしかなってないんだよ」
「ちょっと言わないで! なんで言うのー! リアが来ちゃうでしょ!」
「なんなんだろうね、あの謎のセンサー」
渇いた笑いをルリアが零したその直後、リウが魔法を使うときの魔方陣の色に似た、しかしリウのものよりも碧が強い――言うなれば、金色がかった碧の魔方陣が展開された。
「――リウお姉さまぁ!!」
「ふぐぅっ!?」
リアがリウに突撃してきた。
その衝撃に思わず声を漏らすリウ。
リアはそのことに気付いていないのか、ぎゅうっとリウに抱きついて甘えてきた。
「お姉さま~。んふふ~」
「こ、この愚妹! 少しは周りを見なさい!」
リウが言うと、リアが一瞬きょとんとしてからルリアとレアを視界に収めた。
すると、さっきまでのデレデレな顔が瞬く間に整った微笑みへと変わり、二人に挨拶をした。
「先ず、ルリアは魔王たちの舞踏会ぶりですね。それと、あなたは……お姉さまの配下さんですか?」
「あっ、は、はいっ! レアです! リウ様の配下です!」
「やっぱり。はじめまして、レアちゃん。私はお姉さまの妹で神聖悪帝の名を冠する魔王のルエリア・リリアスフィナです。ルエリアか、お姉さまみたいにリアって呼んで下さいね」
「はい、リア様!」
元気よく返事をするレアの頭をリアがそっと撫でた。
そこで、リウがじとっとした目でリアのことを見つめていることに二人が気付く。
「あの、どうかしました……?」
レアがおずおずとリウに尋ねると、リウは突然リアの頭を叩いた。
まさか叩かれるとは思っておらず、不意打ちの痛みに蹲るリア。
「ひ、酷いです、お姉さま……」
「私のレア取っちゃ駄目」
「それで叩いたんですか!? 酷い!」
理不尽な理由にリアが抗議の声をあげた。
それを無視してリウがレアを抱き締める。
「リウ様はなにがしたいんですか……?」
困惑してレアが尋ねれば、リウが考え込むような仕草を見せた。
そして、首を傾げながら答える。
「レアを構いたい……のかしら?」
「私に聞かれても困るんですけど」
疑問系で答えたリウにジト目のリアがそう不満げに言った。
リウはまぁいいやと呟いてレアを抱き締めたままルリアも捕獲し、そしてそのまま更にリアに抱きついた。
リウ以外の三人が驚いて声をあげる。
「わっ、なになに!? なんで僕まで!? 頑張って気配消してたのに!」
「リウ様、ちょっと苦しいですっ……」
「わわ、レアちゃん大丈夫ですか? えっと、これで大丈夫なはず……」
リアがレアが呼吸するために上手く隙間を作ったのを見て、リウは優しく微笑む。
そして、どこか満足げに三人の頭を撫でたりと気分の赴くままに甘やかしていくのだった。




