転生の勇者
やらなければならないことは粗方片付いたということで、リウは国認祭の準備に集中していた。
改めてお祭りの名称を発表し、お祭りを盛り上げるための案を国民に募集し、リウが自分だけでそれを全て確認し、案をいくつかに絞ってみんなに投票してもらう。
そんな風に、リウが自ら仕事を忙しくしながらも楽しく国認祭の準備をしていた頃。
それは、突如届いたのだ。
「……帝国からの、手紙……?」
まさかの、ブリガンテ帝国からの手紙である。
念のために会議を開き、みんなが見守る中でリウが手紙を開封した。
送り主は、ブリガンテ帝国第五皇子のヴィレイン・アージェストリ・ブリガンテ。
リウに執着しており、そしてリウにとてもとても嫌われている14歳の少年である。
「うわぁ……」
しばらく無言で手紙を読んでいたリウが思わずというようにドン引きしているような声を漏らした。
事実、引いているのだろう。
リウの顔にはこれ以上読みたくないという思いがこれでもかというほど浮かんでいた。
それでも、なんとか最後まで読み切ったリウは読み終わった瞬間に机の上に手紙を投げ捨てる。
そして、椅子の上で自分の身体を抱き締めた。
リウが投げた手紙はちょうど表向きになっていたため、手紙を覗き込む会議に参加している全員。
もちろんリウのことは心配だが、好奇心が勝ったのだ。
「……なんなんですかこの人」
冷めきった声でそう呟いたのはレア。
『心の声が駄々漏れ……』
そして思ったことを正直に口にしたのがディーネ。
「気持ち悪い」
真顔で辛辣な言葉を発したのはセラフィア。
『可能なら滅ぼしたいですね』
満面の笑みで言うのがグアルディア。
「14歳とは思えません」
少し困惑気味は言葉を発したのはリエラ。
そして、問題の文面はといえば。
『僕のお姫様へ
久しぶりだね、元気だったかな?
僕は皇帝に君との婚約を申し入れるために忙しかったよ。
全然許可してくれなくて物凄く苛ついたけど。
それで、今度お祭りを開くんだってね。
僕も行っていいかな?
いや行くね。拒否しても行くよ。どうせ君は嫌がるもんね。許可なんて出るはずないもんね。開けるのも嫌だったよね。全部知ってるよ。
あぁ、プレゼントも持って行ってあげる。
嬉しい?
嬉しくないよね。でも持っていくよ。
プレゼントがなにかは書かないでおくね。
大丈夫、君を害するためのものじゃないから。
そういうわけで、お祭り……国認祭だったかな?
行くね。皇帝からも許可は出てるんだ。
あぁ、そうだ。
結婚しよう? ね、君の許可があれば皇帝もなにも言わないだろうから。
でも、結婚はハードルが高いかなぁ?
だったら付き合うのはどうかな?
結婚よりもハードルは低いでしょ?
付き合ってくれるだけでも君の大切な人を傷付けるのはやめてあげるんだけどなぁ。
好きだよ。好き、大好き。愛してる。一目惚れしたときから、ずっと。
君だけを見てきたのに、どうして君は答えてくれないの?
なにが足りない?
答えてよ。
ずっと我慢してきたのに、なんでこうも上手くいかないのかな。
君が一言、僕のモノになるって言ってくれれば。
君がただ、僕のことを見てくれれば。
それだけで、僕は幸せになれるのに。
君は僕を苦しめたいの?
君も苦しかったでしょ?
全部分かってるよ、僕がそれだけじゃ我慢できないって。
君がそれを理解していることも。
分かってるなら、認めてくれたっていいのに。
僕のお姫様なら、僕が好き勝手しても許してくれるよね
ヴィレイン・アージェストリ』
全体的にぐちゃぐちゃとした手紙。
リウに返答を求めたかと思えば、すぐに自己完結してなにがしたいのか分からない。
勝手にお姫様扱いされたり、結婚を迫られたりと、気分を害するものが多く含まれたその手紙は、リウが読み終わるなりすぐに放り投げたのも理解できる内容だった。
一旦冷静になり、もう一度手紙を読み直したレアがふと首を傾げる。
「これ……最後の名前のところ、なんで家名が無いんでしょう」
レアの言葉を聞いて若干顔が青いリウが恐る恐る覗き込むと、確かに家名が無かった。
じっと手紙を見つめるリウ。
しばらくして、ゆっくりと溜め息を吐いた。
そして、嫌そうな顔で口を開く。
「〝転生の勇者〟ヴィレイン・アージェストリ」
リウが呟いた言葉に周囲が首を傾げた。
それを見て、リウが説明を始める。
「コイツはね、勇者なのよ。転生っていう厄介すぎるギフトを持った、勇者。コイツを殺せば、コイツは〝ヴィレイン・アージェストリ〟としての今までの記憶、意思、そしてギフトやスキルを持ったまま違う人として転生するの。しかも、大まかな容姿や名前までも継承してね。最後の二つに関しては、悪人が所持してしまったときの保険だったらしいのだけど……コイツは勇者という人類の最大の味方として生まれてきた。その状態で私に執着しているの。しかも、コイツは他にも強力なギフトを所有していたのよ。勇者だから、転生しても悪人だとか迫害を受けることもなく、むしろ歓迎されたの。しかも、一応別の命として生を授かっているから新しいギフトを獲得する可能性まである始末。不死身に近いし、殺せば新しいギフトを与えてしまう可能性があるから殺せない。あとは封印しかないけれど、強くなりすぎてそんな隙がない。方法を模索している内にアイツは転生を繰り返してて、手出しができなくなった。今、コイツはそういう状態なのよね」
心底面倒そうな顔をしたリウがそう説明し、溜め息を吐いた。
周囲が規格外な存在なのかと理解した頃、レアがリウに質問をする。
「えっと、なんで急にそれを?」
「……コイツの名前は、ヴィレイン・アージェストリ。本来、ブリガンテという家名は無いのよね。だから、それが無いってことは……コイツは、第五皇子としてではなく、ヴィレイン・アージェストリとして書いた手紙ってことを示唆しているんでしょう」
「なるほど……」
「……コイツに関しては、現時点では殺さないのが最善。居ても、なにもせずに無干渉でお願いね」
リウはそれだけ言って、疲れたような顔で会議室を去っていった。
手紙難しかった




