妹
嫌々ながら〝魔王たちの舞踏会〟の準備を終え、他の魔王たちを招待したリウ。
そんなリウは自分が指定した時間よりも三時間ほど早く会場へと訪れていた。
遅いと新参魔王が色々言ってくるのである。
三時間はやりすぎなのだが。
「あー……やりたくなぁい……」
椅子に座り、机に突っ伏し、足をバタつかせているリウが呟いた。
溜め息を吐き、意識を切り替えるとリウは暇潰しとして新しい魔法の研究を始めるのだった。
◇
「リウ、また魔法の研究? 飽きないね」
ルリアが会場にやってきて早々にそう話しかけた。
リウは魔法の研究をやめ、視線をルリアの方へと向ける。
「今日は早いのね」
「当然だよ! なんたって、これで原初の魔王全員が国を持ったってことだからね! ……あ、ルエリアは放置してるっぽいけど。ああいうのなんて言うんだっけ」
「君臨すれども統治せず?」
「そう、それ!」
ぱあっとルリアが笑顔を浮かべた。
しばらく二人が雑談に興じていると、一人の魔王が会場へとやってきた。
「……レイル」
あからさまにリウが顔を顰めた。
リウがレイルと呼んだのは、漆黒を思わせる黒色の長髪と黄金色の瞳を持つ美女。
深紅のドレスを身に纏う二世代目の魔王の一人、〝月光操者〟の名を冠する者であるレイル・セイアッドはゆっくりのリウの元へと歩み寄ってくる。
「久しぶりじゃのう、リウ殿、ルリア殿」
「……」
「あ、レイル! 久しぶりー!」
「うむ。……して、リウ殿」
こっそりとその場から脱出しようとしていたリウにレイルが声をかけた。
ビクリと肩を跳ねさせるリウ。
レイルはそんなリウの腰に腕を回し、うっとりとした表情でその首筋に顔を近付けていった。
「ちょ、ちょっと待って、ね? それ以上近付かないで、ちょっ、離れて! 離れてぇ!」
「いただきます、なのじゃ」
「ふみゃあぁああ~~~~~~~~~~~!!」
……レイルは吸血鬼であり、こうしてリウと出会う度に吸血を行っている。
本人曰く、リウの血液は極上の味らしい。
リウにとっては吸血という好意自体が恥ずかしいものであるらしく、毎回真っ赤になっている。
痛みや苦しみが皆無のため、余計に羞恥心に苛まれるらしい。
「ごちそうさまでしたなのじゃ~」
「う、うぅ……」
妬みの籠った目でレイルの胸を睨みながらリウが唸った。
ちなみにレイルはスレンダーな体格なので胸は控えめである。
しかし、リウに比べれば大きいのも事実なので妬まれるのも当然のことなのである。
「相変わらず極上じゃのぅ……」
「うるさい! 吸血するな!」
そう言うなり、リウは諦めたように机に突っ伏した。
ルリアが気配を消すのを継続し、レイルがリウをからかっているとまた一人会場へとやってきた。
その姿を見るなり、ルリアがにやりと笑う。
「原初の魔王、全員集合だね」
そう、やってきたのは原初の魔王の最後の一人、神聖悪帝ルエリア・リリアスフィナだった。
ルエリアことリアはルリアに微笑み、いつの間にか顔を上げて澄まし顔をしていたリウに視線を固定する。
そして、
「リウお姉さまぁああ~~~~~~~っ!」
思い切りリウに飛び付いた。
リウのことを〝リウお姉さま〟と呼んだ彼女は、リウと同じ淡い金髪をしており、瞳もまた碧。
翡翠の瞳は持っていないが、顔立ちもよく似ていた。
そう、リウとリアは正真正銘血の繋がった姉妹なのだ。
リウとリアに容姿の差はほとんどなく、双子と言われても納得できるほどだ。
違いと言えば、リアはリウよりも背が低く、そしてなによりの違いは胸が豊満であること。
当然、リウの嫉妬はリアにも向いていた。
姉妹である分、他よりもずっと嫉妬を向けている。
だからといって、なにかするわけでもないが。
「お姉さま、お久しぶりですね! ちょっと遅れちゃってごめんなさい、ヴェルジアが離してくれなくて……」
「……相変わらずねぇ……」
「優しい旦那様なんですけどね」
更にリアは、創世神の妻であった。
リウが創世神と関わりがある理由である。
それを抜きにしてもリウは気に入れられているのだが。
「久しぶりじゃな、ルエリア殿。リウ殿の血液は頂戴したぞ」
「あれっ、間に合わなかったですか……」
「やはりリウ殿は初々しくて反応が愛らしいのぅ。ルエリア殿にはそれが欠如しておる」
「だーってそんな時期すぎたんですもん。お姉さまは男性経験皆無ですから仕方無いです」
「……そんな時期……男性経験皆無……」
何気なく言ったリアの言葉にリウがダメージを受けていた。
同じく男性経験皆無なルリアがそっとリウの手を取る。
忘れている方のために言うと、ルリアは色欲の大悪魔である。
「同盟、組もっか……名前は純潔同盟でどう?」
「……そうね」
ひっそりと、男性経験皆無の二人が秘密の同盟を結んだ。




