過酷な日々
レアのスイッチを入れてしまい、小一時間ほどレアの語りを聞かされたリウと途中でこっそり離脱したグアルディア。
もちろんリウは引き留めたが、レアがリウに向かって同意を求めてきたので中断されてしまいグアルディアを逃がす羽目になったのだった。
レアの語りを聞き終え、ベッドに沈み込んだリウ。
現実逃避のためにそのまま眠りにつき、目覚めたのは翌日の早朝。
グアルディアの書類を細部まで確認したり、書類仕事を行っていた。
しかし、午前八時を過ぎた頃。
リエラが慌てた様子で駆け込んできたのだ。
心配そうにリウが話を聞けば。
「移住予定者……十五万……?」
「は、はい、十五万人で間違いありませんでした……!」
驚きで言葉を無くし、しばらく黙り込むリウ。
そして、少ししたあとに震える声で呟いた。
「……グアルディアの庇護ってそんなに影響あるの……? グアルディアの隊員の募集かけたけど……もしかして、凄いことになるんじゃ……」
思わずグアルディアの影響力に恐れをなしてしまうリウだった。
◇
それから、国はとてもとても大忙しだった。
リウは大量の書類に追われ、ドワーフを中心とした大工たちは休む間もなく仕事に駆られ。
居住区が半分ほど埋まってしまい、慌てて国土を拡大し。
ディーネ、及びディーネの部隊はグアルディアの庇護を求める者に扮して忍び込もうとした犯罪者の対応に奔走し。
セラフィアとリエラも次々にもたらされる情報とその整理、そして報告で大忙しであった。
多忙な日々が続くこと約一ヶ月。
リウが働きすぎな者を休ませ、休む必要の無い自分が休んでいる者たちの役割を果たし、同じく休む必要の無いディーネやグアルディアも時間が少しでも空く度に手伝いなんとか過労で倒れる者を出さずに過酷な日々を乗り越えることができた。
そして、そんな日々を乗り越えたということは十五万人の移住もある程度は済んだということであり。
以前よりかは忙しく無いものの、女王であるリウを中心としたノルティアナの重鎮たちは国家中立議会に参加するための手続きやらなんやらで未だに仕事に追われていた。
ちなみに、過酷な一ヶ月が始まったばかりの頃にレアがじっとしていられないとリウやディーネ、セラフィアやリエラが休んでいるときに書類の処理の方法について口で教わり、仕事をしているときに見学して覚え、いつの間にかリウの補佐官的な立場として落ち着いていた。
一番量が多いリウの書類をできるだけレアが処理したのだ。
リウが他の者の仕事を手伝うことができた一番の理由である。
レアはリウの補佐官という立場が定着したので現在も手伝っている。
「うあ~……議会は手続きの書類が細かすぎるのよ……! 防犯のためとはいえ!」
書類に色々と書き込みながらリウが愚痴を零した。
レアがリウのために紅茶を淹れ、数分でもいいからと休憩を促す。
頷き、キリがいいところまで終わらせたリウが紅茶を一口含んでから背もたれに身体を預けた。
「お疲れ様です。書類、どれくらい進みました?」
「ええと……まだ二割くらいしか終わってないわね。手続きの書類ばっかりで他のを滞留させてしまったら駄目だし……」
「できる限りはやっておきますから、リウ様は可能な限り手続きに集中してくれていいですからね。あ、確認待ちの書類ってあります?」
「んっと、それは……こっちね。お願いできる? 私はそろそろ再開するわ」
「はい。確認しておきます」
レアはとても優秀だった。
リウを休ませることができて、書類の処理も早い。
そんなわけで、リウも諦めて受け入れているのだった。
◇
ブリガンテ帝国の城の一室にて、金髪紫眼の14歳程度の少年、ブリガンテ帝国第五皇子、ヴィレイン・アージェストリ・ブリガンテことレインが報告を受けていた。
「へぇ……精霊竜の影響による国民の増加を目論んだか。その結果が十五万、ねぇ……流石にここまでとは予想していなかったのかな」
「しかし、よかったのですか? これ以上ない好機だったと思いますが」
「それじゃ約束を破ることになるでしょ? あの国は欲しいけど、それは二の次なんだ。それにしたって好機ではあっただろうけど……確実にやらないと。三年後までに軍隊を鍛えておくんだよ? 国としても彼女は欲しいでしょ?」
「それは、まぁ」
「お前は下がっていいよ。なにか情報を掴めたらまた報告しろ」
レインがそう告げると、報告を行っていた男が部屋から退出していった。
それを見届けて、レインは物憂げに溜め息を吐く。
「国として確立するのはもう少し先が好ましかったんだけどなぁ……まぁ、仕方無いか。あの作戦で、彼女は少なくとも弱ることは間違いないんだし……あの国の軍があんまり育たないでくれると嬉しいんだけど、そうはいかないだろうなぁ」
愚痴るように呟いたあと、レインはふと窓に視線を向けた。
丁度、魔国ノルティアナがある方向の窓。
「……今度は、終わらせられるかな」
腕に顔を埋めたレインが呟いた。




