宣伝
眠ったディーネの頬を弄くり回していたリウだが、途中で眠気が襲ってきてリウもディーネと一緒に眠りについていた。
そんなわけで、二人が目覚めたのはお昼少し過ぎ。
寝惚けて抱きついてくるディーネをお風呂にぶちこんで強制的に目を覚まさせ、リウはグアルディアの元へ向かった。
国の宣伝という役割を果たしてもらうためである。
「グアルディア~、居る~?」
扉越しにそう声をかけるリウ。
すると、すぐに嬉しそうな声が帰ってきた。
『リウ様! 如何なされましたか? あっ、水姉上とは仲直り致しましたでしょうか?』
「ん……ディーネとは仲直りしたわ。一緒にお昼寝してきたし。それで、要件なのだけどね。そろそろいい時間だし、宣伝をしてほしいのだけど」
『あぁ、了解致しました! して、場所はどこに致しましょう?』
グアルディアの質問にリウが少し思案をし、そういえばまだ一度も使ったことがない謁見の間があると口にする。
場所はそこにすることに決まり、二人は謁見の間へと向かった。
◇
豪華絢爛な謁見の間。
そこにある玉座にリウは腰掛けていた。
足を組み、姿勢は正し、笑みを浮かべて。
玉座の前にはグアルディアがリウを守るように佇んでいる。
そう、宣伝を始めたのだ。
「私はリウ・ノーテル。悲劇女王の名を冠する魔王にして、魔国ノルティアナ女王よ」
現在、帝国以外の国にリウの姿が映し出され、そして今発した声もまた各国に届いていた。
リウが軽くノルティアナの特産品である精霊薬について説明し、その流れでグアルディアに話を移した。
この地にはグアルディアの肉体が眠りについており、その土地自体に加護が満ちていることなどを話していくリウ。
諸々の説明を終えたあと、リウがグアルディアに視線を投げた。
『我は精霊竜グアルディア。この地、およびこの地に住まう者の守護者であり、リウ様の忠実なる配下。リウ様、並びに我の庇護を得たくばこの国に移住するとよい。そして、我らに害する者は覚悟せよ。その身に天災が降りかかることを心得よ』
グアルディアがそう締め括ると、リウが各国に姿や声を届けるための魔法を解除した。
そして、リウが思い切り身体を伸ばす。
「この椅子座り心地いいのよねぇ……あとやらなきゃいけないことは~……あ、書類仕事してない。溜まってる分片付けないと……グアルディア、あとは好きにしていいわよ。自室への帰り方は分かる?」
『はい、覚えております』
「ならいいわ。軍の方は隊に入ることができる条件を書いて私に渡して。これ紙ね。じゃ、お願い」
そう言ってリウが足早に去っていった。
魔国シェイタンガンナに来訪していたときの書類がまだ大量に残っているのだ。
◇
翌日。
一睡もせずに書類仕事を行っていたリウだが、朝から元気なレアが遊びに来たので書類仕事を中断していた。
リウが気付くことはないが、ディーネからリウが書類仕事を一睡もせずに行っているという密告があったためレアが書類仕事をやめさせるためにやってきたという経緯がある。
「リウ様リウ様! グアルディア様はあのようなお姿をしていらっしゃるんですね!」
「あなたの身長でちゃんと見えたの?」
「お父様が抱えてくれました!」
「……そうなのね」
優しく微笑むリウ。
リウの自室で話していたため、レアがベッドに丁寧に飾られた猫のぬいぐるみを発見してリウが撃沈したりとちょっとしたアクシデントのようなものが発生したりはしたが、二人は平和に会話を行っていた。
レアが来てから数十分ほど経つと、部屋にノックの音が響いた。
『リウ様』
「あら……グアルディア、どうしたの? 書類完成した?」
『はい』
「丁度いいから、ちょっと来なさいな。あなたの子孫も居るわよ?」
『……失礼致します』
グアルディアが入ってきた。
レアは憧れの籠った瞳でグアルディアのことを見つめている。
そんなレアを尻目にリウは書類を受け取り、軽く確認してから亜空間にしまった。
そして、レアを膝の上に乗せてグアルディアに微笑んだ。
「ところで、グアルディアって無属性と空間属性って持ってるかしら?」
『……ええ、まぁ……持っていますが、それがどうか致しましたか?』
「この子ね、無属性と空間属性の竜なのよ。だから先祖返りだと推測していたのだけど、その通りみたいね」
『それはまた……珍しいですね』
「リウ様ー! 私もグアルディア様とお話したいです!」
リウとグアルディアが話していると、レアがリウの服を引っ張りそう訴えた。
ぷくりと頬を膨らませている。
「ん、じゃあとりあえず自己紹介しましょう?」
「はいっ! グアルディア様、私はレアです! えっと、えーっと……一番最初にリウ様の配下になりました! ……あ、でも……グアルディア様を入れると……」
誇らしげに一番だと胸を張ったレアだが、グアルディアが昔からの知り合いということで一番ではないのかもとしゅんとしてしまった。
『我はグアルディアだ。配下になったのは今日なのでな、レアが一番で間違いないだろう。リウ様は親代わりのようなものだったからな』
「まさか赤子の時点で攻撃されるとは思わなかったわ。少なからず純血竜ではあるのに」
「つまり、リウ様がグアルディア様を育てたんですか!?」
「……そうとも言える、かしらね?」
首を傾げてリウが言った。
過去の行動を思い返しているようだ。
『あぁ、リウ様は親そのものだった』
「ううっ……お父様とお母様には申し訳ないですがちょっとだけ羨ましいです……!」
「ええ……?」
「だってリウ様がお母様なんですよっ! 絶対優しいです! リウ様、お菓子の作り方とか教えてくれましたし!!」
なにやらレアが止める間もなく語り出したので、聞き手に回るしか無くなったリウとグアルディアであった。




