過保護気味
魔国ノルティアナの中心に存在するお城、その大広間にそこそこな人数が集まっていた。
精霊竜グアルディアが城に住まうことになったため、城で働く者、または出入りする者にそれを伝えないと驚かれてしまうからである。
何も知らずにグアルディアに出会ってしまえば、驚くというより気絶しかねないが。
国民には適当に女王たるリウから〝精霊竜グアルディアがお城に住んで働くことになったよ☆〟と知らせる手筈になっている。
上記はもちろん意訳であり、本来は威厳があるように長々とした口上を述べたりするが。
まぁ、それはともかくとして。
リウは現在、グアルディアとディーネを伴ってグアルディアが城に住まうことになったなどなどの説明を行っていた。
ディーネが同伴していることに意味は無い。
「――というわけで、グアルディアに宣伝をしてもらうお礼として、グアルディアの願い通りに私の元で働かせてあげることになったの。グアルディアはいい子だから、仲良くね」
精霊竜という名の他に、守護竜の名でも有名なグアルディアをいい子と言ったリウに純血竜以外の種族が違和感を覚えたが、〝あのリウだから〟で納得することにしたようで騒ぎが起こったりすることはなかった。
純血竜、特にレアたちグアルディアの直系の子孫はなんの違和感も抱いていない。
そもそも、レアたちの里はリウを信仰しており、その理由が先祖であるグアルディアが助けられたからというもの。
そこら辺の話を理解しているので、純血竜は違和感を抱いていないのだ。
先祖に会えたということで喜びが天元突破し、一部昇天しかけている者も居るが。
ちなみにその代表格はフローガである。
「グアルディア、なんか喋りなさいな。ほら。なんでもいいから。あなたの子孫も居るのよ?」
『むっ……精霊竜グアルディアだ。リウ様に仕える者同士、仲良くしてほしい。よろしく頼む』
「あら、私やディーネ以外に対してはその口調なのね……何気に初めて聞いたかも」
『リウ様や水姉上のことは尊敬しておりますので。それに、リウ様に仕えている者同士なのですから、彼ら彼女らと私は同等の立場。一先ずは敬語は不要と判断致しました。駄目でしたでしょうか』
「いえ、初めて聞いたから珍しいと思っただけよ。このお城で働いてる子たちにそんな神経質な人は居なかったはずだし。あんまり気にしなくていいわ」
リウがそう言って微笑むと、グアルディアは安心したように頷いた。
民衆に視線を向けて、リウが解散させると昇天した者が無理矢理引き摺られたりしつつ皆が帰っていった。
とりあえず、グアルディアの部屋を用意するために移動する三人。
『ねーねーグアルディア。さっきからあだ名考えてたんだけど、ぐーくんなんてどう? グアルディアって長いしりーちゃんもそう呼ばない?』
「私は普通にグアルディアでいいわ」
『お二人のお好きなようにお呼び下さい』
『ぐーくん! りーちゃんはね、猫が好きでね』
「黙れ」
『ごめんなさい』
ディーネがグアルディアにリウが猫好きという話をしようとし、発せられたたっぷりと圧がかけられた言葉を聞いて即座に謝罪した。
グアルディアが首を傾げる。
『その話は、聞かない方がいいのでしょうか?』
「恥ずかしいから忘れて」
『了解致しました』
「……やっぱりグアルディアはいい子だわ」
ディーネに残念そうな目を向けてからリウが背伸びをしてグアルディアの頭を撫でた。
残念そうな目を向けられて落ち込んでいたディーネがその姿を見て復活する。
しっかりとリウの微笑ましい姿をその目に焼き付けた。
『……あ、りーちゃん。あっちの部屋って空き部屋だったよね? 広めだし、私とりーちゃんの部屋とも近いしあそこどうかな?』
なでなでタイムを終了し、少し歩いたところでディーネがそんな声をあげた。
リウが少し思案してから頷き、グアルディアを伴って空き部屋の中へと入っていった。
「グアルディア、どうかしら? 広さと、景観。気に入らないようなら別のところでもいいけれど」
『いえ、ここで構いません。家具などはどうすれば?』
「要望は?」
『……暗い色、とだけ』
「ん。じゃあ……こんな感じかしら?」
黒を基調として、様々な色を織り混ぜた部屋がそこに出来上がった。
それを見て、グアルディアが窺うようにリウに視線を向ける。
『よろしいのですか? わざわざリウ様の力をお使いにならなくても……』
「いいのよ。どうせ私からしたら対した消費じゃないのだし。それに、どこかに頼んだら時間がかかるでしょう? その間あなたはどうするの?」
『購入すればいいのでは……』
「とにかくいいの! ほら、創ったんだから素直に受け取る!」
『は、はい! 承知しました!』
リウに押し切られてグアルディアが頷いた。
どこか遠慮している様子のグアルディアにディーネが囁く。
『りーちゃんはぐーくんの世話を焼きたいだけだから、素直に受け取った方がいいよ。たぶん、なにも言わずに離れたことについて責任感じてるんだと思う』
『は、はぁ……』
『まぁ、ちょっと過保護気味になるだけだと思うから。これもその一環だと思えばいい』
『……そう、なのですね。分かりました』
ディーネがルリアに向けるような姉の顔で微笑んだ。




