精霊竜グアルディア
翌日、リウは一人精霊竜グアルディアが眠る洞窟へ向かっていた。
じめじめとした暗い雰囲気の洞窟、その地下にグアルディアは眠っているのだ。
「久しいわね、グアルディア。前は挨拶も無しに力を利用するような真似をしてごめんなさい。今は私の国の特産物としてとっても活躍しているから、それで許してくれないかしら?」
暗い洞窟にリウの声が響き渡った。
それと同時、色とりどりの鱗を持ち、そして様々な宝石が散りばめられたような虹彩を持つ巨大な竜がリウの目の前に現れた。
そして、脳内に響くような声がリウの元に届く。
『本当に、お久しぶりでございます。リウ様も息災のようで、我は本当に安心致しました』
「あなたも元気そうね、グアルディア。……それにしても、昔と比べると随分大きくなったわねぇ……これが地上に居たなら、有名になるのも納得だわ。討伐隊とか組まれなかったの?」
『創世神様が我を安全な存在として広めて下さいましたので』
「良くも悪くもあなたはイレギュラーだものね。あいつの庇護対象として認識されるのも当然なのかしら」
しばらく雑談に興じていた二人だが、ふとグアルディアがリウに尋ねた。
『そういえば、今日は水姉上はいらっしゃらぬのですね』
「水……ディーネのことね。あなたも大精霊の枠ではあるのだから、ディーネの弟とも言えなくはないか。水姉上というのは少々変だけれど」
『一属性に一柱とはいえ、姉上も兄上もたくさんおりますので属性で判別することにしたのです。ディーネ姉様と呼ぶのも考えたのですが……水姉上の方が短くて分かりやすいでしょう。水姉上からは好評だったのですよ』
「昔は四元素の他に特殊属性の光と魔だけだったのに、氷とかの派生属性の大精霊も生まれたものね。確かに多いわ……」
リウが苦笑いした。
そこで、リウが本題を思い出す。
「忘れてた、今日はあなたに頼みたいことがあって来たの」
『リウ様が我に頼みたいこと、ですか。どうぞ、なんでも仰って下さい』
頼もしいグアルディアの言葉を聞いて、リウが笑顔を浮かべた。
そして、今国を創っていることなど、現状を説明していく。
「――それでね。国家中立議会に国として認められるために必要な条件の一つ、国民十万人以上というものだけがまだ達成できていないの。普通に創っているだけなら、増やす努力をしつつ待てばいいだけなのだけれど、私の国の場合帝国に狙われているから、三年以内に創らなければならないのよね。そこで、グアルディアの知名度を利用したいの。どうかしら、協力してくれる?」
『なるほど、宣伝というわけですね。……では、我のお願いを聞いてくれるなら喜んで致しましょう』
「あら、交換条件? お願いね……なにかしら」
『我をリウ様の国で働かせて下さい。昔はいつの間にかリウ様がいなくなってしまわれて、大変悲しかったので傍に居たいのです』
グアルディアのそんな言葉を聞くなり、リウはきょとんとした表情をした。
そして、すぐに優しく微笑むとリウが所有するギフトの一つ、〝黒翼〟を発動して空を飛び、グアルディアの頭を撫でた。
『リウ様?』
「ふふ、そんなことでいいの? むしろ、こっちからお願いしたいくらいなのだけど。ええ、いいわ。私の元で働かせてあげる。ちゃんと働きなさいね?」
ついグアルディアが歓喜の咆哮をあげてしまい、リウが慌てて防音の結界を張った。
「グアルディアっ……! 少しは周りを気にしなさい! 変に怪しまれると面倒なのよ!」
『……申し訳ありません、リウ様』
「反省したならいいわ。……とりあえず、人の姿になってくれる? その巨体じゃそもそもここから出れないわよ」
『了解致しました』
グアルディアが頷くと、その巨体が見る見るうちに縮んでいく。
少しして、そこには高身長の美丈夫が立っていた。
角度によって色々な色に見える不思議な長髪に、竜の時と同じ宝石を散りばめたような瞳。
整った顔立ちなのも相まって、とてもとても目を引く容姿だった。
「……大きくなったわねぇ」
まるで親戚のお婆さんのような感想を漏らすリウ。
リウが最後に見たときは大人びた少年という雰囲気だったのだ。
『前は見上げていたのに、すっかりリウ様の身長を越してしまいました』
「そうね。とりあえず、ディーネは騒ぐでしょうから先に挨拶させましょう」
グアルディアが頷いたのを確認して、リウがディーネを呼び出した。
リウがグアルディアと談笑して時間を潰していると、ディーネがやってくる。
そこにいた美丈夫を見て、少し驚いたような顔をしたがすぐにディーネが笑顔になってグアルディアに向かって手を振った。
『おー、久しぶりだね、精霊竜くん。りーちゃんのところで働くことにしたんだってね?』
『はい。お久しぶりでございますね、水姉上。仰る通り、リウ様の元で働かせてもらうことに致しました』
『うんうん、仲間としてよろしくねー。で、私には一応事前連絡しておいた感じ?』
「ええ。たぶん騒ぐんじゃないかと思って」
『騒ぐって……まぁいいや。みんなに紹介するなら早く行こ! ほら! グアルディアもついてきて!』
やっぱり騒がしいとリウが微笑み、グアルディアも尊敬する姉の無邪気な姿に笑みを浮かべて二人はディーネについていった。




