御守り
リウからのお土産できゃあきゃあと騒いでいた三人は、しばらくすると落ち着いてレアがセラフィアとフローガに渡すお土産の話に移っていた。
『手作り御守りキット? へぇ、こんなのあるんだ。いや、ルリちゃんが頑張ったのかな?』
「それは別になんでもいいけど、レア、どうする? 今日の内にやる? それとも明日? 早めに観光を終えれば作る時間は充分にあると思うけれど」
「あ、えっと……とりあえず、今日やれそうなところまでやってみたいと思います。今日の内に完成出来たら、明日も観光いっぱい楽しめますし」
「そう。眠くなったらすぐにやめるのよ? 私の〝空間創造〟で亜空間にしまえば中途半端なところでやめても大丈夫だから」
「はい、ありがとうございます」
『……りーちゃん? 私にとってはなんでもよくないんだけどっ! れーちゃんもぉ! ううぅ……いや、確かにれーちゃんのお土産の方が大事だけど……大事だけど……!』
ディーネはなんでもいいで終わらせられたことに少し納得行かないらしい。
しかし、レアのお土産に比べればどうでもいいというのも事実で……と、わざわざ邪魔にならない場所に行ってからジタバタし始めた。
よく分からない場所で律儀なのは何故なのだろう。
「……とりあえず、それ出してみましょうか」
そう言って、リウがレアに〝手作り御守りキット〟と書かれた紙袋の開封を促した。
レアが頷いて袋を開き、中身を取り出していく。
最初に取り出したのは綺麗に折り畳まれた紙だ。
恐らく作り方であろうものが絵で分かりやすく示されている。
その上には文字も書いてあり、文字を読める人はそれを読んで作ればいいということだろう。
次に取り出されたのは、空色の布地だ。
恐らくこれで御守りを作るのだろう。
「……思ったより本格的なのね」
ボソリとリウが呟いた。
もう少し簡単なものを想像していたらしい。
次にレアが取り出したのは木製の小箱。
そっと蓋を開くと針が入っていた。
このキットには裁縫針まで入っているらしい。
次に取り出されたのは、小さな紙切れ。
用途は不明である。
他に入っているものは、縫うときに使う糸など。
それを確認したあと、落ち着いたディーネも参戦して四人が説明書を覗き込んだ。
『私うろ覚えだからりーちゃん文字読んで』
「えーっと……中に入っているもの。説明書、布地、針、メッセージカード、糸。必要な道具、針、はさみ。って書いてあるわ。針はあるけれど……」
「あ、私はさみ持ってますぅ」
「……そ、そう」
どことなく嫌な予感がしたようで何故はさみを持っているのかと聞くのはなんとか押し留めたようだ。
リウがこくりと頷き、はさみはメイリーのものを借りることにしてレアが御守りを作り始めた。
作るにあたって、リウが説明を読み上げていく。
「えーっと、初めに御守りの中身を選んでおくことを推奨します。御守りの中身は、パワーストーンや押し花、メッセージカード、あるいは思い出の品などをオススメ致します。御守りに込める想いを形にすると良いでしょう。……らしいわ」
「……御守りに込める想い……」
「例えば、健康祈願とかね。あなたは、なにを想ってこれを買おうと思ったの?」
「……お父様とお母様に喜んでもらいたくて、です」
「そう。なら、それでいいのよ。宝石だったら、琥珀とか。花なら、確か……ピンク色の薔薇とか、あとはピンク色のチューリップもだったかしら。それと……タンポポもそうね。赤いポピーなんかもそうだし……あぁ、ブルーデイジーも確かそうだったわ。本当に色々あるわよ。レアはどうしたい? あなたの願いは、喜び。一応幸福とも繋がるから前述の花の名前を出してみたのだけど。あなたが好きなものを選べばいいわ」
そう言ってリウが微笑むと、レアが迷うように声をあげた。
しばらくして、レアが口を開く。
「全部……とか、ダメですかね」
「ん~、御守りに入りきるかしら……結構小さいわよ、これ」
リウが布地を指差しながら首を傾げると、レアが頷いた。
そして、更に首を傾げるリウに向かって尋ねる。
「リウ様のギフト……〝物質創造〟って、自由度はどれくらいなのでしょうか?」
「〝物質創造〟の……? ええと、結構なんでも創れるわよ。この世界に存在するもので、物質であること。これをクリアしていれば基本的に創れるわね」
「ええーっと……琥珀って確か、樹液が固まったもので、その中にたまに虫さんとか入ってたりするんですよね? だったら、花もいけるんじゃないかな、と」
「よくそんな方法思い付くわね……たぶん出来るわよ。でも、花は一、二種類に絞った方がいいわね。多すぎると見栄えがよくないし、御守りの大きさ的にあんまり大きなものには出来ないし。じゃあ、入れる花を選びましょう。あと、メッセージカードも入れるの?」
実物を見た方がいいだろうとリウが花を創り出しつつ尋ねた。
すると、レアは少しだけ迷うような素振りを見せてから首を振った。
「そこまですると、流石にしつこそうなのでやめておきます。……あ、琥珀が黄色系統だから黄色はあんまり見た目的に……タンポポはやめます」
レアがタンポポを机の脇に寄せ、また花を眺め始めた。
リウが気を遣って琥珀も創り出す。
「リウ様、ありがとうございます。ん~……薔薇は、綺麗だけど私のイメージには似合わないような……除外です」
「!?」
〝私のイメージには似合わない〟という自分が周囲にどう映っているかを理解している言葉がレアの口から飛び出してリウが驚いたようにレアを見た。
そんなリウの姿を見て、レアが首を傾げる。
しかし、すぐに花に視線を戻して選び始めた。
「んー……決めました! ブルーデイジーと赤いポピーにします!」
「……あ、そ、そう。ちなみに理由は?」
「なんとなく、綺麗だと思ったからです!」
「……そう……分かったわ。じゃあ琥珀を作るわね……ん、こんな感じ」
「綺麗です! えへへ、あ、二つお願いします」
「あ、そうね。二人に渡すんだものね」
リウが琥珀を作り出し、レアに対して少しだけ恐怖心が芽生えたことを誤魔化すように微笑みながら手順を読み上げていった。




