猫耳族にご挨拶
長めです
兎耳族の子供たちに凍結した故郷の景色と闇花火を見せたリウ。
子供たちがリウの国に住みたいと騒ぎ出したので凍らせていた周辺を魔法を解除することで元の景色に戻し、もっと子供が騒いだので少しひんやりする溶けない氷の結晶を子供達全員に手渡し、大人が羨ましそうにしていたので兎耳族全員に氷の結晶を渡したリウたちは兎耳族全員に認められて準備が整い次第移住する旨を族長より伝えられてネールの元に戻った。
それから数日後、純血竜と兎耳族の他に犬耳族、熊耳族、虎耳族への挨拶を済ませ、残りは猫耳族とドワーフ、エルフのみとなった。
ちなみに猫耳族の挨拶を遅れさせた理由は、猫耳族の族長が病を患っていたためである。
挨拶回りを行っている間に治ってくれればいいな、という感じで遅らせていたのだが今日の内に三部族全てへの挨拶を行うつもりなので挨拶だけでもしていくこととなった。
ネールが作った朝食を食べて仕事へ向かうヴァンを見送り、ちょっとだけヴァンとイチャイチャしていたネールをからかって出発した四人は、猫耳族の集落の前で集落を守る戦士だという者の一人と会話を行っていた。
その表情は険しく、少し焦っているように見えた。
「長老から軽く聞いていると思うけど、挨拶をしに来たの。族長さんは病を患っているらしいけど、挨拶は出来るような状態かしら? もしよければ挨拶をしたいのだけど」
警戒心をあらわに戦士が近付いてくると、リウは警戒心を解くためにそう口にした。
戦士は少しだけ表情を和らげて警戒心を解いたが、依然として険しい表情をしている。
「申し訳ないが、族長に会うことは出来ない」
「そう……詳しくは聞いていないけれど、症状はどんなものなの? もしかしたら、治せるかもしれないけれど……」
「分からない。族長は、喋ることが出来ないほどに苦しんでいる」
「そう、なの……一応確認するけれど、治せるかもしれなくても会うことは出来ないのね?」
「……いや。族長補佐に確認してみてもいいだろうか。すぐに戻ってくるが」
「ええ、大丈夫よ。移住はしてくれなくてもいいけど、話はしてみたいもの。ただの我儘だから、駄目だと言われても気にしなくていいからね」
「すまない。少し待っていてくれ」
戦士が走っていくのを見送ると、リウ以外の三人、フローガとセラフィア、レアがリウに生温い視線を送った。
いや、約一名ほど流石はリウ様と尊敬の眼差しを送る男が居たが、それはとにかく一緒に挨拶回りを行って、リウの性格を理解したのだ。
リウはかなりのお人好しであると。
そんな視線を送られているのをリウが理解してしまい、気恥ずかしそうに目を逸らしていると戦士が戻ってきた。
「監視は付くが、本当に族長を助けてもらえるのならいいと。本来ならばこんなことはしないが……長老が信用している者だからな」
「……そう。監視はあなた?」
「仰る通りだ。あなた方を監視させてさせていただくが……族長を、助けてくれ」
「出来るのなら、ね。少なくとも症状を軽くするくらいは出来るから、安心なさいね。案内して」
「申し訳ないのだが……あまり、多くの者を入れなくないそうで。魔王様一人でもいいだろうか」
「……三人共、族長の病を治してくるからここで待っていてね。出来るだけ早く帰ってくるわ」
「はい!」「承知致しました」「了解しました!」
左からレア、セラフィア、フローガの言葉である。
リウが夫婦の似たような返事にくすりと笑みを零し、元気に返事をしたレアの頭を優しく撫でてあげると戦士に付いていった。
◇
戦士に案内されて族長の家に入るととりあえず族長の顔色を確認したリウだが、寝込む族長の顔色は誰が見ても悪く、蒼白く染まっていた。
今は眠っているようだが、魘されているようで額には脂汗が浮かび、呼吸も浅い。
そして、族長はまだ年若い少女だった。
年齢は15程度だろうか。
薄桃色の髪が特徴の少女であった。
「予想より酷いわね。若いからまだギリギリ生きているけど、お年寄りの方だったら既に死んでいたわ。でも、この感じは……」
じっと族長を見つめるリウの服の裾が少しだけ引っ張られた。
リウが振り返ると、七歳ほどの翡翠色の髪色をした青色の瞳を持つ少年が不安そうな表情をして立っている。
「魔王さま……お姉ちゃん、死んじゃうの……?」
少年は族長の弟らしい。
リウは微笑むと、ぽんぽんと安心させるように少年の頭を撫でてあげた。
「大丈夫よ。私があなたのお姉さんを治してあげるから」
「ほんと……?」
「本当よ。あなたのお姉さんに少しだけ触らせてもらうわね。治癒するわ」
「あの、魔王さま、その。お姉ちゃんのこと、おねがいします」
「……ええ。任せて頂戴な」
にっこりとリウが微笑み、族長を見ると真剣な表情で露出した手首に触れて目を閉じた。
回復魔法は怪我も病気も治せる便利な魔法だが、病気の場合は治したい病気の知識が必要で、例えば頭痛を治すには頭痛を治すように念じることで頭痛は治る。
ただし、頭痛を治す時に腹痛を治したいと念じても何も起こらない、というわけである。
リウはこの病の知識はあったので、症状も理解している。
だがそれでも、完璧に治すには少々集中する必要があった。
約3秒ほど経って、リウが目を開く。
触れていた手を離してリウが数歩下がると、族長が目を開いた。
弟の少年と同じ青色の瞳だ。
「……苦しく、ない……?」
戸惑うようにそう呟いて、族長が横を向いてリウの姿を視界に収めた。
知らない人物にもしやと思い、治してくれたのかと尋ねようとして――
「お姉ちゃーん!!!」
半泣きの弟に抱きつかれた。
族長が慌てて泣き出してしまった弟を撫でて安心させようとする。
「お客さんも居るんだから」と口にした族長に、リウが優しく告げた。
「あなたの弟さん、とっても心配してたわよ。好きにさせてあげたら? 不安にさせてしまったんだから、ね?」
「やっぱりあなたが……」
「初めまして、族長さん。私はリウ・ノーテル。魔王の一人よ。この近くで国を作っているのだけど、人材不足でね。もしよければ協力してくれないかと思って。どういう形式でもいいから、移住か、人材の派遣で協力してくれると嬉しいわ。もちろん、資材の提供とかでもいいけど、優先順位は低いわね。……あなたの場合は病み上がりだから、遅くなってもいいわ。嫌なら断ってくれてもいい。他種族の方は好感触だし。とにかく、お大事にね。心配してくれる子も居るんだから、無理しちゃ駄目よ」
「ま、魔王……いえ、治してくれたのですから、あなたはいい人なのですよね。きっとそうです。この度はありがとうございました。みんなを説得して移住させてもらいますから、待っていて下さい」
「あら、ありがとう。でも本当に無理はしないでね?」
苦笑い気味にリウがそう告げて、その場を立ち去ろうとした。
だが、族長に声をかけられて足を止めて振り返る。
「少しだけでいいので、一緒に外に出てもいいですか? みんなにも、元気になったよって伝えたいですし」
「え、えーと……まぁ、いいんじゃないかしら」
驚いて了承してしまったリウに族長は嬉しそうにすると、立ち上がってゆっくりとリウの方に歩いてきた。
弟の少年が慌てて族長と手を繋いで支えながら歩く。
三人で外に出ると、様子を窺っていたらしい住民たちがすっかり元気になった族長を見て歓声を上げた。
集団の側にレアたちを見つけて、リウが手を振る。
レアはぴょんぴょんと跳ねながらリウに抱きつき、セラフィアはそんなレアに優しく微笑み、フローガは流石リウ様と頷いた。
族長とその弟にレアたちを紹介し、住民にリウたちが紹介され、少し騒いだあとに残りのドワーフとエルフに挨拶をするために猫耳族に別れを告げた。
余談だが、族長の家には行けないがと集落に案内された三人だが、レアはリウを布教して純血竜の時と同じように様々な組織を作り上げ、セラフィアはそんなレアに満足げに微笑み、フローガは子供に大人気になっていた。
のちにレアが謎の組織の創設者だということを知りリウが頭を抱え、無邪気にリウ様だのリウちゃん様だのと騒いでいたと関連性を尋ねてきたレアを思い出して怖くなり、リウがしばらくレアと距離を置いたりするのはまた別のお話。