魔力喪失
公爵子息であるフォースと別れたあとも見学を続けていたリウ、レア、ディーネ、メイリー、ルリアと案内エクセレンテ。
その道中で分かったことは、エクセレンテは人気者という事実だった。
無論、他にも色々と各々思ったことはあるが。
しかし、それにしてもエクセレンテは生徒とすれ違う度に話しかけられるのである。
ちなみにリウが気になってエクセレンテと会話をしていた生徒に尋ねてみたところ、学園に勤めている教師は全員授業が分かりやすいがその中でも特に授業が分かりやすく、時間がある際は授業が終わったあとでも分からなかったところを教えてくれるということで人気らしい。
それを抜きにしても凛とした顔立ちや雰囲気、そして時々見せるさりげない気遣いなどに惚れてしまう男子生徒や、純粋に憧れる女子生徒なども大勢おり大層人気があるそうだが。
それに対してエクセレンテは、
「教師が生徒のために尽くすのは当然です」
と答えていた。
エクセレンテのその言葉を聞いて、リウたちは彼女の人気の理由に納得するのだった。
そんなわけで学園の見学も終わり、リウは頭の中でノルティアナに建てる学園の構想を練り。
城に帰ってきたリウ、レア、ディーネ、メイリーの四人は秘書に連行されていったルリアを見送り、部屋に戻ると学園見学の感想を言い合っていた。
「学園って、色々なお勉強が出来るんですね……あと、優しい人ばっかりでした!」
「よかったですねぇ、レアちゃん。衣装関係のお勉強がしたかったら私を頼って下さいねぇ」
「そうね……メイリーは落ち着いていれば優秀だし、教えるのも上手らしいし……学園が出来て、衣服に関して学びたいって意見が多ければ教師としても働いてもらうのはありかもしれないわね。メイリーが望めば、だけど」
「むむむぅ……やりたいのは山々ですがぁ、衣装を作る時間が減るのは嫌ですぅ……」
「んー……まぁ、学園が建てられないと始まらないし、今は気にしなくていいわ」
『はいはいっ! 私大精霊だから精霊と魔法について詳しいよ!』
「ディーネは自分の部隊を疎かにしそうだから駄目。精々が特別講習で一日だけ講師になる程度のものよ」
リウの言葉を聞いてディーネがむすりとする。
そんなディーネを見て、リウは〝教師になりたいんだったら部隊の訓練ばっかりして書類を疎かにしないように〟と正論を突き付けた。
ディーネが肩を落とし、沈んだ声で返事をする。
「疎かにしないって証明出来たら、教師になることを検討してもいいわよ」
『ほんとっ!?』
「証明出来たら、ね。もっとも、毎日は行かせないけれど。それに、責任も伴うわ。それを理解して、なお教師になりたいと思うなら。疎かにしないことを証明出来たら、週に数日くらいは行ってもいいわよ。まだ建設は決まってもいないのに、気が早いというものなのだけれど」
『頑張るから、学園出来たら約束だよ!?』
「分かったから、耳元で叫ばないで」
リウが溜め息を吐いた。
そんなリウを見て、レアがふと告げる。
「リウ様って、色々と甘いというか……飴と鞭の飴の比率が多いですよね」
「あなたよくそんな言葉知ってるわね……」
「お父様がよく言ってたので。お母様は鞭の比率が多いとかなんとか」
「……物理的な方じゃないでしょうね……」
フローガには少し優しくしてあげようと決意するリウであった。
そんなリウの決意には気付かず、ディーネがリウに尋ねる。
『りーちゃん、ここにはいつまで滞在できるの?』
「んー? ああ、そうね……準備が整い次第国交を結びますって宣言したら目的は達成出来るから、それまでになるかしら。もう少しかかるそうだけど。もう数日は滞在するわよ」
『そっか……ルリちゃんといっぱいお話しておかないと』
「ふふっ、そうね。相変わらず仲良いわね、あなたたち姉妹は」
「え? 姉妹?」
「……あ」
リウが慌てて自分の口を塞いだが、時既に遅し。
目を輝かせるレアとメイリーに取り囲まれ、ディーネからは不穏な笑みを向けられていた。
焦るリウだが、暴れればレアやメイリーに怪我をさせてしまうことになりかねず……リウは、内心でディーネとルリアに何度も謝罪をし、泣く泣く二人の秘密を暴露し始めた。
「二人は、姉妹というより双子だったのよ……水の大精霊の双子。同じ魔力から生まれたから、お互いのことをよく分かっていて、仲が良かった。……でも、ディーネがとある病気を患ってしまったの。魔力喪失と呼ばれる病気で、じわじわと保有魔力が減っていくという病気なの。人間なら、魔法が使えなくなるだけ。でも、精霊は魔力の肉体を持つ種族。魔力喪失を患ったディーネは、日に日に衰弱していった。……でもね、本当は大したことなかったはずなの。精霊、しかも大精霊となれば患ったとしてもすぐに治るはずだった。無くなった魔力も、時間はかかるけど再生はするはずだった。……再生するのは、魔力喪失という病気は保有魔力が減っていくのではなく、魔力を内側に取り込む力が、魔力を外側に放出するように変質してしまうという病気だから。でもね、ディーネは抗えなかった。……精霊が双子として生まれるのは、一つの魔力が内側で分裂して、二つになってしまうから。その魔力で精霊が生まれると、〝二人で一つ〟の精霊が生まれるの。つまり、ディーネとルリアは二人で一つ、つまりは普通の大精霊を半分ずつに分けたような状態だったの。一人なら、上位精霊を少し上回るかという程度。全ての能力が、均等に半分に分けられて生まれた双子精霊。それがディーネとルリアだった。だから、ディーネは普通の精霊の半分しか再生能力や抵抗力を持たない。だから、抗うことは出来なかった。そのまま、ディーネは衰弱死を待つような状態だった。でもね、一つだけディーネを救う方法があったの。……片割れであるルリアの精霊としての力を、全てディーネに移す。それがディーネを救うたった一つの方法だった。当然、ルリアは迷ったわ。迷ったけど……救いたいと思ったから、実行した。その結果、ディーネは救われて、一人の大精霊になって。ルリアは、生きることは出来たけど精霊としての力がなくなって、周囲にあった魔力を取り込んで……たまたま、そこには悪魔の魔力が満ちていたの。残滓ではあれど、精霊としての力、つまりは魔力が枯渇した状態のルリアだったからそれは全身に染み込んだ。結果、ルリアは悪魔になったのよ。当時は無知の悪魔だとかって馬鹿にされたそうだけれどね。他の大悪魔に大層愛されて、現状に繋がるらしいわ」
「……じゃあ、ルリア様は……」
「元精霊よ」
暗い雰囲気になってしまったのを感じて、リウはゆっくりと俯くディーネを抱き寄せる。
「……ルリアは、後悔してないそうよ。今も幸せだって」
優しく微笑んで、リウはそっとディーネの頭を撫でるのだった。




