公爵子息
リウ、レア、ディーネ、メイリー、ルリアの五人は案内人エクセレンテに連れられ学園を見学していた。
何故かルリアまで見学に加わっているが、エクセレンテを含めた五人は気にしないようにしている。
「ここ、シェイタンガンナ学園は五年で卒業です。五歳から入学することが出来ますが、十歳からの入学が多い傾向にあるようですね。入学費さえ払えたら庶民でも入学することが出来るようになっていて、数は少ないですが現在も庶民が数人通っています。なにか質問はございますか?」
エクセレンテがリウたちに尋ねた。
誰も質問してこないことを確認して、エクセレンテが案内と説明を再開する。
「学園に通う方法は二つあります。そのまま家から通うか、学園の寮から通うかです。家から通うのは学園から比較的近い距離にある家に住まう人で、寮から通うのは学園から遠い場所に住まう人です。学園は立地的に周囲には貴族の屋敷が多いので、寮から通う人は家から向かう人に比べると少なめです。寮には食堂があり、基本的にはそこで食事を摂ります。ですが、寮の部屋にはキッチンがあるので食材は自前になりますが料理をすることも出来ます。寮は全て個室、貴族が各自で連れてきた召使いの部屋もあります」
そこで、11歳ほどの少年が歩いてきた。
リウたちを一瞥し、綺麗に礼をする。
顔を上げると、少年が少し緊張した面持ちでエクセレンテに尋ねた。
「エクセレンテ先生、この方々は?」
「右から順に、最古の魔王であらせるリウ・ノーテル様、リウ様の配下のメイリー様、水の大精霊のディーネ様、メイリー様と同じくリウ様の配下であるレア様、この国、魔国シェイタンガンナの国主である姫様……ルリアスタル・アーシャンレート様です」
「っ! お初お目にかかります。私はヴァリエンテ公爵家第一子、フォース・ヴァリエンテと申します。以後、お見知りおき下さい」
少年、フォースが自己紹介をしながらもう一度礼をして顔を上げると、ルリアがフォースを眺めながら何度も頷いていた。
納得顔のルリアにフォースが内心首を傾げていると、ルリアが口元に笑みを刻みながら口を開く。
「なんか見覚えあると思ったら、そっかそっか、元帥の息子君かぁ。うんうん、顔立ちとか似てるねぇ」
「え、は、はい……?」
「第一子ってことは、次期公爵だね。将来は確実に僕に仕えるわけか。楽しみにしてるよ。あ、元帥にも伝えとくね。寮からだから会えなくてどうとかうるさかったし……元気そうだったって言っとくよ。あ、なんか伝えて欲しいことある? 遠慮しなくていいよ。というかしないで」
ルリアに迫られると、フォースは後ずさりながら紅色の瞳を彷徨わせた。
後ずさった拍子にサラサラとした艶やかな黒髪が揺れる。
「……えっと……では、お体に気を付けて、と」
「了解了解、伝えとくねー。にしても、出来た子だねぇ。話したいこともあるだろうに、親への心配を優先するとか……将来が楽しみ。どんな風に成長するかなぁ」
ルリアが楽しげな笑みを浮かべながら軽くフォースの頭を撫でた。
フォースの身体がピシリと硬直する。
そんな様子を見て、レアがフォースに駆け寄った。
「あれ……? なんか固まってますよ? 大丈夫ですかー?」
「え、なんで固まっちゃってるの!?」
「国主と出会って、しかも撫でられたってなったら驚くに決まっているでしょう。その内復活するわよ。……たぶん」
ルリアとリウがそんな会話をしていると、レアがフォースの頬をつんつんと突っつき始めた。
かと思えば、突然軽く頬を引っ張ったりする。
レアがそんな行動を繰り返していると、フォースが復活した。
リウのその内復活するという言葉は本当だったようだ。
「……へ? は?」
戸惑うような言葉がフォースの口から発せられた。
気が付けば自分より少し下に見える幼女が自分の頬を弄くり回していれば誰だってそんな反応をするだろう。
先ほどまでフォースの頬を触っていたレアだが、フォースが復活すると気まずくなったのか空色の瞳をあちらこちらへ泳がせていた。
じっとフォースがレアを見つめていると、じわりとレアの瞳から涙が滲み出す。
「あっ、ちょっ」
「……ふぇ……」
「お、怒ってない! 怒ってないから!!」
「……ごめんなさい……ふえぇ……」
直前で慌てて怒っていないと告げたフォースだが、それでもレアは謝りながら泣き出してしまった。
どうすればいいのか分からないながらも、フォースがそっとレアの銀髪に手を伸ばしてそっと撫でる。
しばらく嗚咽を漏らしていたレアだが、撫でられていると落ち着いてきたのか次第にそれは収まっていった。
現在はフォースからレアを受け取ったリウに抱き抱えられている。
「……あの、その……ごめんなさい……あと、撫でてくれて……ありがとう、ございました」
おずおずとレアがそう言うと、フォースは一気に真っ赤になって一気に頭を下げ、〝失礼しますっ〟と勢い良く告げて去っていってしまうのだった。




