魔王二人が恐れる人物
しばらくルリアの愚痴を聞いたり逆に愚痴を言ったりしていたリウだが、ふとルリアに尋ねた。
「そういえば、条約のこととか色々決めなくていいの?」
「……あ」
完全に忘れていたルリアであった。
リウが溜め息を吐き、雰囲気を真面目なものへの変貌させる。
「とりあえず、不可侵条約。これは確定でいいわよね?」
「んー、戦争するメリットもないしねぇ……というか戦争してもデメリットしかなさそう。だってリウ居るもん。絶対負ける」
「賛成してくれるならどうでもいいわ。で、あとは……技術提供くらいになるのかしら……」
「融通も出来るだけした方がいいよね」
二人でゆっくりと話し合い、色々なことを決めた。
そしてそのあと、ルリアはリウにとある提案をしていた。
「ここって、唯一学園がある国なわけだよ。で、リウって明らかに興味持ってたよね。よかったら見学してく? 別に出来るけど」
「興味はあるけれど……いいの?」
「いいよいいよ。普及すれば色々と発展しそうだから建てて欲しいくらいだもん。そのためにも見学して行って」
「まぁ、ある程度国民が集まれば……まだ条件達成してないのよね」
条件と聞いて、ルリアは一度首を傾げたがすぐにあぁ、と呟いて納得したように頷いた。
国家中立議会の国として認められるための条件である。
「あれねぇ……達成してないのって国民のやつだけ?」
「ええ、城はあるしルリアが認めてくれるなら2ヶ国目だから認められるのも達成出来るし……あとは国民さえ集めることが出来ればいいのだけど」
「えー、それ魔王側の審査じゃ駄目なの? 二世代目辺りを一人選考人として選べばよくない?」
ルリアの言葉にリウが溜め息を吐いた。
そして、悩ましげに呟く。
「二世代目はいいでしょうけど、新参組は荒れるわよ」
「そんなの情報収集しないのが悪いんだから武力で黙らせればいいのにぃ。というか逆になんで魔王のとこじゃ力示さないの?」
「必要性を感じないから」
「舐められてる時点で駄目なんじゃ……」
そう、リウは新参魔王たちの間でとてもとても舐められていた。
曰く、虎の威を借る狐。
曰く、原初の魔王の恥さらし。
魔王が集まれば、新参からはこそこそとそんな言葉が飛び交う。
そんな風に呼ばれる原因としては、リウが魔王たちの間では必要に駆られない限りは同じ原初の二人かルリアが先ほど言った〝二世代目〟に任せているからだ。
ちなみに、二世代目とはリウやルリア、もう一人の原初の魔王が生まれた約数千年後、大量に魔王が発生し争い合いになり、何人も死んでいく中で生き残りなおかつ原初三人に認められた二人の魔王のことである。
ちなみに魔王が大量発生した原因はリウの魔法実験だったりする。
魔法を開発した際にリウの濃密な魔力が広がり、魔王がポンポンと大量に発生してしまったのである。
当時リウは焦りすぎて適切な対応が出来ず、そのまま広がってしまったのだ。
ただし全力でリウが原因が自分だということを隠したので創世神にはバレていない。
「とにかく、魔王側の審査ではやらないから。というかやった結果新参組が私にキレたら……」
「あー、ルエリアが暴れるね。リウのこと大好きだもんね」
「……そういうこと」
「ああ、それは僕も面倒くさいかも。うん。だったら間違いなく国家中立議会の方がいいね」
ルエリア・リリアスフィナ。
原初の魔王の一柱であり、〝神聖悪帝〟の名を冠している。
リウのことが途轍もなく大好きで、よくリウの悪口を言う新参組に圧をかけているらしい。
ちなみに、二つ名はとにかく外見は可愛らしい少女である。
「嬉しいことは間違いないのだけど、それはそれとして面倒なのよね……暴れられたら後始末するの私だし」
「えっ、手伝ってないの?」
「手伝ったらもっと後始末が大変になるの。だからいつも気持ちだけ受け取ってるわ」
「あ、そうなんだ……」
リウがとても遠い目をしていた。
ルリアは〝たぶん手伝ったら家具とか壊されるんだろうなぁ〟とか思っているが、実際は壁と床が破壊される。
後始末の手伝いなのに。
リウは未だにあの現象を不思議に思っていた。
どうして後始末の手伝いなのに床とか壁が壊れちゃうんだろう、と。
リウと一緒に後始末が出来る喜びで張り切りすぎた結果である。
「……今度、後始末手伝おうか?」
「やめときなさい。リアが嫉妬したらなにするか分からないから」
リアとはルエリアの愛称である。
ちなみに、リアが嫉妬するととりあえず一旦殴ってから連行して嫌がることをし続けるという悪質なことが為される。
昔に嫉妬し連行して拷問していたところをリウに見つかり、みっちりと説教された結果今の形に落ち着いた。
リウはそれを知らないのでリアが嫉妬しないように頑張っているのだった。
ちなみにリウへの陰口を言ってリアに制裁されていても、それは自業自得だと思うので特に止めていない。
「……ルエリアって、怖いよね」
「私もそう思う」
乾いた笑みを零しながら、魔王二人はしばらく遠い目をしていた。




