メイドの種類
リウの自室にあるベッドに、小さな人影があった。
毛布の中に籠り、蹲って小刻みに震えている。
「れあこわいむちこわいでぃーねかわいい……」
リウだった。
レアに怒られて幼児化しているリウだった。
『りーちゃーん?』
「……ぐすっ」
ディーネが様子を見にやってくると、リウが無言で抱きついた。
まだぷるぷるしている。
『大丈夫?』
ディーネが首を傾げながら尋ねると、リウはふるふると横に首を振った。
リウは更にぎゅうっとしがみついた。
ディーネがリウを撫でる絶好のチャンスと見て幼児化して甘えてくるリウをたくさん撫でる。
「ディーネぇ……レアが、レアが怖いよぉ」
『見てた私も怖かった』
「鞭怖いよぉ」
『凄い音鳴ってたもんね』
リウがレアの肩に顔を埋めた。
しばらくリウがディーネに甘えていると、扉がノックされる。
「リウ様、召し使いになりたい者を集めました」
リエラの声が部屋に響いた。
冷静になったリウがかああっと顔を赤く染める。
状況を整理して、ディーネから距離を取り、
「ちょ、ちょっとだけ待ってて!!」
ほとんど悲鳴のような声でリエラに向かって叫んだ。
◇
顔の赤みが引いたあと、リウはディーネとリエラを伴って召し使い候補の者を見に行った。
リエラはリウに総人数などの情報を報告し、セラフィアは候補者を整列させてからメイド長であるルファを呼びに行く。
二人の仕事にリウは満足げに微笑み、ルファがやって来たあとに候補者をゆっくりと眺め始めた。
「ここにいる人たち全員が召し使いになりたいってことでいいのかしら?」
ふと、確認するようにリウが尋ねた。
バラバラに、だが確かに肯定が返ってくる。
リウはそれに頷くと、ゆっくりと話し始めた。
「召し使いとして採用される人は出てくるでしょう。けれど、それはつまり召し使いとして採用されない人も出てくるということ。でも、採用された人は採用されなかった人を見下さないで。採用されなかった人は、妬むなとは言わないけれど、危害を加えようとしないで。そんなことをする時間があるのなら、次の機会のために努力して。……これが出来ないなら、黙って部屋の外へ行きなさい」
威厳を感じさせる声色が、最後に優しげなものへ変わった。
しかし、誰も外へ出るものはいない。
リウは少し嬉しそうに微笑むと、再び口を開いた。
「仕事内容が違うから、先ずはメイドからね。男性は暇でしょうけど、メイドと関わる以上覚えていて損は無いでしょうから覚えておくといいわ。メイドの種類の一つとして、ハウスキーパーというものがある。これはメイド長であるルファのことね。メイド全員の管理などを担うわ。そして、一番多いハウスメイド。仕事内容は掃除や裁縫、主人への給仕などかしら。ここでは私に給仕することになるわね。基本的には雑用が仕事と思ってくれていいわ。次にパーラーメイド。お客様の対応や給仕がお仕事になるわね。そしてランドリーメイド。洗濯が仕事よ」
ちなみに、リウは先ほどから瞬き一つさえしていないので〝情報網羅〟は使っていない。
何故こんなに詳しいのだろうか。
「レディーズメイドは女主人、ここの場合は私の直属のメイドね。仕事内容は女主人の身の回りのお世話や外出時の同行よ。ウェイティングメイドは、本来は令嬢の身の回りのお世話をするのだけど……ここの場合はこのお城に住まう私以外の女性の身の回りのお世話をしてもらうわ。現時点ではディーネのみだわね。仕事内容は令嬢の身の回りのお世話と外出時の同行、そして部屋の掃除よ。スティルルームメイドはハウスキーパー、ルファの補助をしてもらうわ。スティルルームという部屋でお菓子やケーキを焼くのも仕事ね。キッチンメイド。コックの下につくメイドよ。調理の補助や台所の清掃などが仕事。スカラリーメイドはキッチンメイドの更に下につくメイドよ。お皿洗いや火をつけるなどのキッチンでの雑用が主な仕事だわね。オールワークスメイド。メイドオブオールワークとも呼ぶわね。この仕事は、本来全ての仕事を担うものなのだけど……全ての仕事におけるお手伝いという認識でいいわ。以上がメイドの細かな役職。えーと、そうね……」
リウが無言で九つの看板を作り出した。
そこにはそれぞれハウスメイド、パーラーメイド、ランドリーメイド、レディーズメイド、ウェイティングメイド、スティルルームメイド、キッチンメイド、スカラリーメイド、オールワークスメイドと書いてある。
「それぞれ、志望する役職の看板の前に並んで頂戴な。ゆっくりでいいわ。……さて、執事についてなのだけど。……先ずは、主人の着付け。ただ、この仕事はたまにしかないと思うわ。今のところは、だけれど。私もディーネも恥ずかしいから。そして給仕、食器や飲み物の管理、火の元管理、戸締まり管理など。あとは手紙や書類の簡単な仕分けね。一つ一つはあまり大変なものではないから、それぞれで分担してこなしてね。時間が空いたらメイドのお手伝いをしてくれればいいわ」
リウがにっこりと微笑み、メイド候補の方を見た。
するとそこには、レディーズメイド、そしてウェイティングメイドが圧倒的人気を誇っている光景が広がっていたのであった。




