メイド長
魔国ノルティアナで働くことになったメイド、ルファの母親マヤの病気を治癒した日の翌日。
リウ、ディーネ、リエラの三人はマヤとルファ、そしてその弟であるニルと共に国を出るために門へと向かっていた。
軽く談笑をしつつ歩いていくと、門が見えてくる。
滞りなく門をくぐり、外へ出た。
「……そういえば、マヤは何かお仕事はしていたの?」
ふとリウが尋ねる。
すると、マヤが少し微笑みながら答えた。
「はい。実は、実家が高級なレストランを営んでいて。貴族様御用達のお店だったんですけど。幼い頃からお店を眺めていて、12歳を越えた辺りから手伝い始めて……嫁ぐまではずっと実家で働いていました。従業員と同じ仕事をしていたので、ちゃんとお給料も貰って。嫁いでからは専業主婦をしていましたけど」
「……そう。なら、仕事をするなら是非料理関係の仕事に就いてほしいわね。まぁ、ニルのお世話をしなければならないでしょうし、お金もきっとルファが稼いでくれるでしょうから働かなくても結構だけれど」
マヤの嫁いだという言葉を聞いて、そしてその言葉を発した際のマヤの緩んだ頬を見て。
子供は居るのに家にマヤの夫が居なかったこと、そしてルファの口からもマヤの口からも夫、または父親の話が全く出てこなかったことから他界してしまったのだろうと察した。
「……夫は、数年前に他界したんですけどね。とても優しくて……幼い女の子を、通り魔から庇って死んだらしいです」
マヤの言葉に、リウは驚いたように目を見開いた。
そして、遠慮がちに尋ねる。
「話してて、辛くないの……?」
「辛くないと言えば嘘になります。でも、あの人の死で苦しむよりも死に際まで素晴らしくて、格好よかったって思っていた方があの人が喜ぶかな、と」
「……そういうものなのかしら」
少しきょとんとした表情になりながらリウが呟いた。
微笑みを浮かべ、くるりと後ろを振り返る。
「さて、雰囲気も暗くなってきたし切り替えましょう! 今から私のギフトで国まで転移するわ。だから、出来るだけ私に近くで固まってくれるかしら? 範囲が狭ければ狭いほど負荷が少ないの。ほら、早く!」
笑みを浮かべたままリウが軽く五人を促した。
その表情はとても嬉しそうで、早く国に帰りたいらしい。
三人に自分の国やお城を見せたいというのもあるかもしれない。
五人がリウの近くで固まると、リウが五人に向かって片手を伸ばした。
「〝瞬間転移〟!」
碧色の混ざった金色の魔方陣が六人を包み込んで、その場から姿が掻き消えた。
「……あーあ、行っちゃった。同じ国に居るってだけで幸せだったのになぁ」
金色の髪が風に靡き、紫眼は名残惜しそうな光を帯びていた。
◇
「ふわぁあああ……! 綺麗な国ですね、魔王様!」
国に転移が完了すると同時にルファが思わずというように告げた。
その言葉にリウが嬉しそうに頬を綻ばせ、微笑む。
「ふふ、ありがとう。……それと、魔王様はやめてね?」
「分かりました、リウ様!」
「は、早いわね。三人共、とりあえず行くわよ」
三人を促し、リウが歩いていく。
途中で薄緑色の髪と瞳のセラフィアと合流し、国民を城の大広間に集めるように告げると再び別れて城へ歩いていった。
「ふわぁあああ、お城綺麗ぃ……」
「ルファのそれは口癖なのかしら……?」
「はい!」
お城を歩きながら呟かれた言葉に嬉しそうにしつつも、先ほども聞いた言葉にリウが首を傾げた。
〝ふわぁあああ〟は口癖らしい。
階段から二階へ登り、一回の大広間を見下ろせる位置に向かった六人。
ルファとニルは目を輝かせ、マヤはそんな二人を微笑ましげに眺め、リウはルファとニルの反応に満足げな表情をした。
「り、リウ様っ。も、もしかしてここ、特別席みたいな……!?」
「んー……まぁ、〝席〟ではないけれど、特別ではあるわね。あなたたちも主役だもの、目立つ位置に居ないとね。国民が集まるまで少し待っていて頂戴な。ほら、一旦戻るわよ」
「も、もう少しだけっ……!」
「駄目。ほら、行くわよ」
リウがルファを引き摺ってドレスルームへ向かう。
ニルは名残惜しげにしつつも我儘言うことなくついてきていた。
「ここでなにをするんですか……?」
「メイド服のデザインの相談。あなたにはメイド長として働いてもらうつもりだから」
「め、メイド長……」
「とりあえず、意見は遠慮せず言って頂戴ね」
メイド服のデザインはまたのちほど説明するとして、大広間に国民が集まった。
先ずはリウ、ディーネ、リエラの三人が大広間を見渡せる場所に立ち帰ってきたという報告をする。
当然、国民はとても沸いた。
歓声に紛れて〝リウちゃん様尊い〟とか〝リウ様に踏まれたい〟とか聞こえたが無視である。
続いてルファ、マヤ、ニルに登場してもらい、メイド長に就いてもらう予定の元お城で働いていたメイドとその家族と紹介し、その場で解散となるのだった。
なお、ルファは国民が居なくなったあといつまでも特別席だとはしゃぎ倒していたのであった。




