羽交い締め
「うぅあぁああ……!! ふぐぅうう……」
寝惚けてディーネとリエラにこれでもかというほど甘えていたリウは、現在ベッドに突っ伏して悶絶していた。
隣では二人も身悶えている。
『んんッ……りーちゃん、大丈夫だから。忘れよ?』
「むりむりむりむりッ! ばかばかぁっ、私の馬鹿!! 頭打って記憶喪失になれぇッ!! うあぁあああ!!」
『りーちゃん駄目駄目壁に頭打ち付けようとしないで! 私たちは忘れるからりーちゃんも忘れて!』
急に立ち上がったかと思えば壁に頭を打ち付けようとしたリウを慌ててディーネが羽交い締めにして止めた。
身長が届かないので精霊パワーで宙に飛んでから羽交い締めにしている。
「むり、やだやだやだぁ……」
『えっと、えーと……りーちゃん! こっちの方が恥ずかしいから忘れよ!?』
「……こっちの方が恥ずかしい?」
『うん!』
ディーネが力強く告げれば、リウがベッドに倒れ伏した。
枕を抱き締めて恥ずかしそうな表情をしている。
「……全部忘れて……」
消え入りそうな声で告げて、リウが撃沈した。
◇
それから数十分後、リウが復帰した。
まだ少し恥ずかしそうにしているが、一応平静にはなっている。
リウがベッドに腰掛けて二人に声をかけた。
「あとしなきゃいけないことってなにがあったかしら……」
『まだあったっけ?』
「あの、メイドさんのお母様の件がありますが……」
『「あ」』
今思い出したようで二人が声をあげた。
リウは申し訳なさそうな表情をし、ディーネは、
『い、いや、別に覚えてたし。わ、私はりーちゃんと昔から居るし、褒められた回数もリエラより多いから役目を譲っただけだし。うん。む、むしろリエラは私にか、感謝してほしいくらいだよ』
震えた声を発しながら忘れていたという事実を消し去ろうとしていた。
一方申し訳なさそうな表情をするリウはというと。
「ううぅ、申し訳無いわ。まさか忘れてしまうだなんて……いえ、先日は色々あったし、無理はないのかもしれないけれど……それでも、忘れていいものじゃないわよね。反省しないと」
物凄く真面目に反省していた。
〝次は忘れない!〟と意気込んでいる。
そんなリウを見て、ディーネが硬直した。
『……うん、私も反省しよ』
反省するリウを見て出来もしないのに事実を消し去ろうとしていたことが馬鹿らしくなったのだ。
次からはちゃんと忘れないように意識しようと決意する。
そんな風に和やかに過ごしていると、部屋の扉がノックされた。
「例のメイドからの伝言です」
あのメイドが毒を盛った以降三人に食事を持ってきてくれていたメイドの声だ。
伝言を伝えに来てくれたらしい。
リウは噂をすればと微笑んで入室を許可し、伝言を聞く。
「〝母の病はとても重く、ベッドから立ち上がることも難しい現状にあります。ですので、もしいいのであれば母を治癒して下さると嬉しいです〟……と。あのメイドよりメモを預かりましたので、これを見ながら行けば家に行けると思います」
そう言ってメイドがリウにメモを手渡した。
そこには、簡易的な地図のようなものが描かれている。
綺麗な文字で地名なども書かれているので、迷ったりしても周りの人に聞けばなんとかなるだろう。
リウが頷き、メイドにお礼を言ってから退出させた。
「えーと、城下町の居住区の……?」
『りーちゃん、〝情報網羅〟したら?』
「……そうね」
リウが目を閉じた。
すぐにメイドの家の場所を把握し、目を開く。
「ついでに調べたけどメイドは今家に居るみたいだから、もう行ってしまいましょうか」
『え、でもびっくりさせちゃうんじゃない?』
「別にいいじゃない。魔王だからすぐ来るかも、みたいな感じで想定してるかもしれないわよ」
『ありえないと思うけど……まぁいっか』
最終的にディーネは諦め、反対していたリエラは問答無用で連行して三人は城を出た。
◇
「ええと……あった、ここだわ」
小さな家の前に立ってリウが呟いた。
扉の前に立ち、そっとノックをする。
すると、明るい茶髪と青色の瞳の少女が出てきた。
例のメイドである。
「はーい……ま、魔王様!?」
「ん。あなたの母親の状態はどう?」
「え? あ……えっと、立てはしないですが短時間の会話程度なら出来るくらいで、症状は確か……」
「とりあえず、中に入りましょう。症状は歩きながら教えて頂戴な」
「あ、は、はい! 上がって下さい」
三人で中に入り、メイドから話を聞きながら母親が居るという部屋についた。
メイドが扉をノックし、声をかけてから入室する。
三人もそっと入り、扉を閉めた。
ベッドに寝転がっている女性は茶色の髪に青の瞳。
その隣に居る幼い少年も同様だ。
メイドとその弟は母親に似たらしい。
「お母さん、魔王様が病気を治してくれるんだって」
「魔王様……?」
呟く母親にリウが近付き、微笑んだ。
リウはメイドの母親を治癒するため、先ずは警戒心をほどこうと話しかけるのだった。




