リウの勘
リウに抱きついたディーネが泣きじゃくる。
『うわぁあああん……りーぢゃあん……』
「わ、わ、わ……ちょ、ちょっと、ディーネ……？」
『ばかぁ、りーちゃんのばかぁ……うぇええええん……！』
そんなディーネを見て、リウは慌てて泣き止まそうと頭を撫でる。
余計に泣いてしまったディーネにどうしていいのか分からなくなり、リウは頭を撫でる手は止めずに困り果ててしまった。
『ぐすっ、ひっぐ……ごめ、りーちゃ、ん……』
「だ、大丈夫……私のせい、なのよね。……なら、気が済むまで泣いていいから」
『……ぅぅ～……』
しばらくするとディーネも落ち着いたようで泣き腫らして目元を赤くしながらも歩き、リエラとも合流して一旦部屋に戻った。
三人でベッドに腰掛け、リエラはリウの側に寄り添いディーネはリウの肩に額を押し付けていた。
『……あのね、りーちゃん。私、怖かったんだよ。りーちゃんは、あの場から動けそうになくて、アイツの目的はりーちゃんだから、連れていかれるかもって思って……』
「ごめんね」
『んーん。……りーちゃん、なにを聞かれてたの？ なにを提案されてたの……？ アイツ、断られるだろうからって、言ってたから……』
リウが一瞬だけ目を伏せる。
迷うような素振りを見せてからリウが口を開いた。
「……私が来てくれるなら、誰も傷付けないって」
『……じゃあ、りーちゃんはどう答えるつもりだった……？』
「それ、は……」
『教えて』
ディーネの真摯な瞳に射抜かれてリウが瞳を彷徨わせた。
あと一押し、とディーネが促せば、おずおずとリウが本心を口にする。
「……アリではあるとは思ったわ。でも……でも、そうしたら、みんなは……悲しんで、くれるのよね」
『うん』「もちろんです」
「……だから。だから、最終手段としては考慮するけど……少なくとも、それをするのは今じゃない。……だから、あの時ディーネが来なくても断ってたわ」
ふわりとディーネが微笑んだ。
手を伸ばし、そっとリウの頭を撫でる。
『普段の調子、取り戻してきた？』
「……そうね」
微笑みを浮かべていたディーネがふと真剣な眼差しを送った。
その眼差しに首を傾げるリウ。
『りーちゃんは、どうして逃げなかったの？』
「……」
『逃げれた、よね』
ディーネの言葉に、リウは答えを返さなかった。
否、答えられなかった。
しばらくして、考え込むような仕草を交えながら口を開く。
「そうした方がいいと思ったから、かしら……なんとなくの、ただの勘で」
『勘……？』
「そう、勘。……私も、自分のことだけれどよく分からないの。でも、逃げない方がいい気がして……」
『……そっか』
ディーネが呟いた。
リウの勘は当たるのだとディーネは知っている。
故に、その勘を信用することにしてディーネは話を切り上げた。
今度はリウがリエラに話しかける。
「リエラ、ごめんね。……心配させたでしょう」
「い、いえ……心配でしたが、リウ様なら大丈夫だと思っていましたので……」
「あら……ふふ、ありがとう。でも、あまり信用しすぎないでね？」
くすくすと微笑んでリウが告げ、ベッドに寝転がった。
ついでとばかりにディーネとリエラも巻き込んでいる。
「私はもう大丈夫だから、寝ましょう？ 心配してくれてありがとう。おやすみ」
『ちょっ、りーちゃん……！』
「お・や・す・み」
「……リウ様、ディーネ様、おやすみなさい」
『リエラの裏切り者ぉ！？』
ディーネの叫びが部屋中に響き渡った。
◇
そして翌日の朝。
「んんぅ……ディーネぇ……」
『ちょっ、りーちゃん！ リエラ助けて！ 手伝ってよぉ！ 寝惚けりーちゃんが甘えてくるぅ！』
「よかったですね」
『リエラの目が死んでるよぉ！ ごめんね、もっと早く起きればよかったね！』
今日はリエラ、リウ、ディーネの順に起きたのだが、リウが寝惚けて物凄い甘えん坊になってしまったのだ。
誰かに抱きつき、上目遣いでなでなでを要求してきてそれはもう大変だったのだ。
リエラはそれに数十分ほど付き合っていたので、例えディーネが助けを求めていようとも流石に距離を取った。
破壊力が凄いのだ、色々と。
「ディーネぇ、撫でて？ 昨日撫でてくれたでしょ……？」
『わぁあああっ！！ うんうんもちろんしてほしいならしてあげるよ幾らでも！！』
ディーネがリエラに助けを求めていると放置されていると感じたのか、リウが上目遣いのまま涙目になってしまった。
その破壊力にディーネが叫び声をあげてリウの頭を撫で始める。
すると、リウがあっという間に上機嫌になった。
〝ふぐぅっ！〟とディーネが変な声をあげながら身悶える。
「んふふ、ディーネ好きぃ。リエラも好き～」
寝惚けて甘えん坊になったリウはディーネに撫でてもらいながらリエラに手を伸ばし、届かなくて涙目になってしまい結局リエラもリウを甘やかすことになってしまった。
なお、数十分後に正気に戻ったリウはディーネ以上に悶絶して涙目で顔を真っ赤にし、無自覚に二人を可愛さで身悶えさせるのだった。
