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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
国を作りましょう
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なんでもない

『りーちゃん』


ディーネがリウに話しかけた。

青ざめた顔を下からそっと覗き込む。


『……大丈夫?』

「ぁ……だ、だい……じょうぶ……」

『悪いけど、大丈夫そうには見えないよ。聞いたのは私なのにごめんね』


ディーネが尋ねれば、大丈夫そうには見えない言葉が返ってきた。

リエラが無言でリウに寄り添い、ディーネは言葉を選びながら話しかけていく。

実際のところ、ディーネはどうしてリウがこんなにも動揺しているのか完璧に理解しているわけではなかった。

しかし、全てが分からないわけではない。

リウのことはある程度理解しているし、なにせディーネにはリウとレインの会話が聞こえていたのだ。

契約精霊だったディーネには、それで察せられることもあった。


「……大丈夫、だから。大丈夫。突然のことで、上手く整理出来てないだけ……」

『それもあるだろうけど、それだけじゃないでしょ? ……少しでも相談してくれないかな』

「……っ」


リウが唇を噛んだ。

苦しそうな表情をし、控えめに隣のリエラと目を合わせる。

少しして目を伏せて、リウがポツリと呟いた。


「ごめんね」

「リウ様っ!」

『りーちゃん、待って!』


二人の静止の声を背に、リウは城の中庭へ歩みを進めた。



中庭に辿り着くと、リウは壁に背を預けて腕で目元を隠した。

噛み締められた唇は既に血が滲んでいる。


「……ごめんね」


リウの口からか細い声が漏れた。

小さくて弱い、聞き取るのも難しいような声。


「ごめん、なさい……っ」


今にも泣き出してしまいそうな声が呟かれる。

見事なドレスが汚れることも気にすることなく、リウがその場に座り込んだ。

リウが膝を抱えていると、足音が近くで響く。


「……?」


疑問には思っても、リウは顔を上げない。

段々とその足音が近付いて、間近で葉を踏み締める音が響いて。


「可哀想」


呟かれた言葉に、リウの肩が跳ねた。

目の前で誰かが跪く気配がする。


「僕に委ねてくれれば、あんな酷いことしなくて済むのにね」


誰か――レインが、リウの頬を両手で包んで顔を上げさせた。

碧と翡翠の瞳と、悲しげな紫の瞳が視線を重ねる。


「――――――のに」

「え?」


リウがきょとんとする。

本当に小さな声で呟かれた言葉を聞き取ることが出来なかったのだ。

そんなリウを見て、レインが苛立たしげに舌打ちを零す。


「……なんでもない」


誤魔化すように告げ、レインがリウの手首を掴み壁に押し付けた。

何の感情も浮かばない紫の瞳がリウの瞳を捉える。


「っ、手は出さないんじゃなかったの……!?」

「手を出すわけじゃない。交渉するだけ」


空いている片手でレインがリウの髪を撫でた。

指で軽く梳くとリウの頬に手を添える。

頬を染め、レインは笑みを浮かべて告げた。


「君が僕のところに来てくれたら、誰も傷付かないよ」

「……え」

「僕は君を手に入れたら逃げ出せないように閉じ込めるつもりだからね。君が誰かを傷付けることは出来ないし、僕だって君を手に入れられるなら他なんてどうでもいい。生きていようが、死んでいようがね。だから……ね? 傷付けたくないんでしょ? 傷付いてほしくないんでしょ? いつだって君の傷の原因は僕だった。だから、僕が傷付けなくなれば誰も傷付かない。そうでしょ? ふふ、君の衣装いつもより豪華で、髪も飾られてて凄く綺麗。もちろん、普段だって綺麗だけど……うん、やっぱり欲しいよ。来てくれるなら誰よりも大切にするよ」


レインの瞳がだんだんと狂気に染まっていく。

口元に浮かんだ笑みが歪んでいく。


「閉じ込めて、たくさん拘束具を付けて、動けないようにして、そしたら、逆らえないようにして。いーっぱい愛でたら、きっと認めてくれるよね? ねっ? だから、ねぇ、おいで? 僕の元に来て? そしたら、終われる。この地獄みたいな時間を終わらせられるから」


ゆっくりとレインが目を細めた。

宝物を見るような、そんな目で。

リウが口を開こうとして――


『りーちゃんから離れろ!!』


言葉を発する前に、怒声が響いた。

同時に、レインに強力な魔法が大量に降り注ぐ。

それを一瞥したレインは一瞬だけ顔を顰めた。


「……〝聖剣召喚・〈闇祓(やみばらい)〉〟」


レインが降り注いだ魔法を全て突如現れた長剣で受け止めた。

しかし、その間にリウに手が伸びてレインの元から離れさせられる。

ぱちくりと瞳を瞬かせたリウが水色の瞳を見ながら呟く。


「ディー、ネ……? どうして……」

『追いかけないわけないでしょ』


それだけ言って、ディーネは再びレインに向かって魔法を放った。

しかし、それは全て躱され、いなされ、受け止められて攻撃が届くことはない。


「……あーあ、残念。……まぁ、どうせ断られてただろうからいいけど。じゃあ、次は三年後の悲劇で会おうね」


微笑みながらレインが告げて、どこかへ去っていった。

それを忌々しげにしながらも見送ったディーネは思い切りリウに抱きつき、泣きじゃくるのだった。

私レインのこと結構好きです

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