舞踏会
リウちゃんの二つ名〝悲惨女王〟を〝悲劇女王〟に変更しました。
最初からずっと間違えてました、すみません。
宴――豪華絢爛な舞踏会が始まってから約三分。
リウ、ディーネ、リエラは――見事に囲まれていた。
女性も居るが、男性の方が多いようだ。
リウは営業スマイルで上手く受け流しているが、経験皆無のディーネとリエラは慌てている。
しかし、リウは受け流しているとはいえ数が多く、中々助けに行くことが出来ず困っていた。
リエラだって慌てているが、一番大変なのはディーネだろう。
ディーネは見た目が見た目なだけに、年が近く見える十歳前後の貴族の子息、令嬢が多い。
そして、まだ幼い故に悪意や打算というのが希薄なためダンスのお誘いなどを断りにくいのだ。
断りたいのは山々だが、悪意があるわけでもないのに断るのは心苦しい。
そんな思考に陥ってしまい不馴れながらに受け流すことしか出来なくなっているのだ。
上手く受け流すことが出来なくて時々踊ってもいる。
会話の隙間にひっそりとディーネの様子を窺っていたリウはなんだかんだ楽しそうだと安堵し、リエラに瞳を向けた。
リエラは大人っぽい雰囲気を纏っているからか、青年から中年くらいの人が集まっているようだ。
打算や欲望が見え隠れしているので断りにくいということはなく、失礼のないように気を配りつつもきっぱりと色々なお誘いを断っているようだった。
貴族の相手は大変そうだが、雰囲気自体は楽しんでいるらしいとリウがこっそりと笑みを浮かべた。
「――どうです、素晴らしいと思うでしょう? リウ様」
二人の様子を窺っていたリウだが、そんな言葉で我に返り目の前の人物に視線を固定した。
一度瞬きを挟み、リウが微笑む。
「ええ、とっても素晴らしいわ。けれど、私は人間という種族よりもとても長寿なの。それに、常に戦いというものに身を置いている。あなたの子息との婚約というもの自体は魅力的だと思うのだけど、ごめんなさいね」
一瞬だけ目を閉じ、〝情報網羅〟を発動して目の前の人物が話していたことを把握し丁重に断りを入れた。
嫌だから断ったわけではないのだと思わせるために、ちゃんとした理由も添えて。
目の前の男がリウにしていたのは、自らの息子との婚約のお誘い。
リウが口元に微笑みを浮かべたまま密かに目を細める。
男の目的はリウをモノにして言いなりにすることであった。
無論、リウの可憐さが目的ではないとも言い切れはしないのだが……とにかく、リウを側に置いておきたかったのは確かである。
そんな男の思考を正確に読み取ったリウは、営業スマイルを浮かべながら男から離れた。
しかし、その場から距離を取ることは出来てもディーネやリエラに助け舟を出しに行くことは叶わない。
今度は興味の視線を送ってくる令嬢たちに囲まれてしまったのだ。
「リウ様は不思議な目をしておられますのね。生まれつきですの?」
一人の令嬢に話しかけられると、リウは美しさを意識した笑みを作り答える。
「いえ、生まれつきではないの」
令嬢たちは特に害意があるわけではない。
リウが話しかけられていたのはどちらかといえば打算的にリウを欲しがる中年の貴族なので嫉妬などされるわけがないのだ。
無論、若い男性からも話しかけられてはいたのだが……リウがきちんとした理由を述べつつもあまりにきっぱりと断るので婚約者の座を取られることはないだろうというのが令嬢たちの判断なのである。
「つかぬことをお聞きしますけれど、本当にお強いんですの? とても強そうには見えないのですけれど」
「見た目のことは自覚しているわ。でも、そうね……人間相手なら基本的には余裕で勝てるかしら。数が多ければ時間は掛かるかもしれないけれど」
先ほど男性陣に群がられていた時よりは柔らかな表情で答えていくリウ。
同性であること、そして向けられるのは欲望や打算ではなく純粋な興味であるため比較的気が楽なのである。
そこで、チラリとディーネとリエラに視線を向けるリウ。
ディーネは少し仲良くなったらしい貴族の子息と円舞曲を踊っていた。
ディーネは大分慣れたようで楽しそうにしており、対して貴族の子息は顔を赤らめながらも一生懸命ディーネをリードしようと頑張っていた。
リウが微笑ましげな表情をし、リエラに視線を向ける。
スッとリウの双眸が鋭く細められた。
「あら……? リウ様、どうか致しましたの?」
「……ええ。少し、不躾な方が居て。私の仲間に手を出させるわけにはいかないから、失礼するわ」
リウが一礼してリエラの元へ歩く。
舞踏会の場ではしたなく走るわけにはいかず、もどかしい気分に苛まれながらもリウがリエラの元に辿り着いた。
リエラは中年で小太りの男に目立たないところに追い詰められていた。
会場の端。
早々気付かれることはないだろう。
しかし、この場には仲間思いのリウが居る。
確かにここは目立たないが、一度気付いてしまえば誤魔化すことは難しい。
目立ちたくないという人も居るだろうが、今リエラを追い詰めているのは目立ちたがりの貴族だった。
リウはわざと大きな声をあげて騒ぎにしてしまおうかと考え、
「……リエラ」
それはやめて静かな声でその名を呼んだ。
紫色の瞳がリウの姿を捉える。
「リウ様……!」
リエラに微笑み、貴族に視線を向けたリウは邪悪に嗤う。
「さて、どう調理してくれようかしらね?」
悲劇の体現者が、明確な怒りをあらわにした。




