事件の関連性
リウ、ディーネ、リエラが昼食と夕食に毒を盛られた日の翌日。
早起きの部類であるリエラが目覚めたとき、リウは無言で窓から外を眺めていた。
ディーネは隣で爆睡している。
「……リウ様……?」
黒のネグリジェを纏った彼女がリエラを振り向いた。
まだ起きたばかりらしく、どこかふわふわとしていて緩んだ空気を放っている。
リウがにこりと微笑み、告げた。
「リエラ、おはよぉ……ふあぁ……」
「あ……おはようございます」
あくびをし、目を擦りながら朝の挨拶をしてきたリウに向かってリエラが挨拶を返した。
リウはリエラに向かって微笑むと、枕を抱き締めて爆睡するディーネの側に行き声をかけ始めた。
「ディーネ、ディーネ。起きて?」
しかし、ディーネは中々起きない。
ぷくっとリウが頬を膨らませ、ディーネの頬をつついた。
「起~き~て~……むぅ」
リウが膨らませていた頬を元に戻し、不満げな表情をしながら枕を没収し、ディーネに跨がった。
顔同士をギリギリまで近付かせ、頬に手を添え、
「――起きろこの馬鹿ぁああああッ!!」
『いひゃあっ!?』
至近距離で思い切り叫びながら掴んだディーネの頬を勢いよく引っ張った。
頬を引っ張られたせいで上手く喋れず変な悲鳴が出たディーネが呆然とする。
『りーちゃん……? え? なんで、え、なんで跨がって……? どういうこと……?』
ディーネからしたら突然叫ばれて飛び起き、目を開いたら何故かリウが自分に跨がっていたというわけの分からない状況なのである。
しかし、そんなことは気にせずにリウが疑問符を浮かべるディーネの方を向きながらこてんと首を傾げた。
「ディーネ、起きた?」
『お、起きたけど……叫ぶ必要あった……?』
「だって起きないんだもの」
『いや、ほっぺ引っ張るか叫ぶかのどっちかだけで起きるよ……? 普通に声もかけてくれたんだよね……? と、とりあえず退いて?』
ディーネがリウに向かってそう告げると、大人しくディーネの上から退いてベッドから少し離れた。
ディーネがあくびを漏らしながら立ち上がり、リウとリエラに挨拶をする。
二人もディーネに向かって挨拶を返し、のんびりと朝を過ごした。
ずっとパジャマでいるわけにもいかないので既に服は着替えてある。
適当な雑談を交わして三人が過ごしていると、先日のメイドとは違うメイドが朝食を運んできた。
代表してリウがお礼を告げれば、メイドは一礼して去っていった。
それから食事を終え、メイドが食器を回収したあとにウィズダムが三人の元へやって来た。
「申し訳ない」
ウィズダムがやって来て早々に告げた言葉である。
何に対して謝っているのかと言えば、もちろん毒を盛られたことについてだろう。
しかし、三人としてはリエラが少し体調を崩した程度で特に被害があったわけではない。
被害を受けてもいないのに謝罪され気まずくなってしまったので慌ててリウが顔を上げさせ、怒っていないと告げた。
「……謝罪よりも。毒を盛ったのは昨日のメイドで確定なのかしら?」
リウがそう尋ねると、ウィズダムは静かに頷いた。
毒を盛ったのはあのメイドで間違いないらしい。
「メイドが自首したのだ。ただ、指示を出した者が居るとも言っていたらしい」
「……そのメイドは、今は?」
「処刑は受け入れると言っていたが、まだ事情が把握出来ていないし指示を出した者も分かっていない。今は一先ず保留としている」
淡々とした感情の籠らない声での質問に丁寧に答えるウィズダム。
まだ処刑されていないという言葉を聞いて、リウは少しだけ表情を和らがせた。
「よかった……あんなに震えていたのだから、自分からやったわけではないわよね。あのメイドに怒っていないと伝えてくれる?」
「分かった。伝えるように指示を出しておく」
「ありがとう。……メイドに指示を出した者の候補はあるの?」
「まだ調査中だ。気になるのなら候補リストのコピーを渡すが……」
「いいの? なら、完成次第お願いね」
リウが微笑み、それにしてもと呟いた。
「この件とルリアの件。……関係あるのかしらね」
匂わせるような言葉を呟いたあと、リウはひっそりとウィズダムの様子を窺った。
リウの言葉を受けて考え込んでいるようだ。
「……無い、とは言い切れないな」
「でしょうね。ルリアがこの国にちょっかいをかけようとする理由も分からないし……なんというか、大変そうねぇ……」
リウが苦笑いした。
〝私の国まで巻き込まれないといいのだけど〟なんてことを呟き、溜め息を吐く。
もっとも、ノルティアナの存在は知られていないはずではあるのだが。
「同盟の締結は準備中だが、商人の紹介に関しては今日中か遅れても明日には出来る。準備が終わり次第報告し商人の元へ連れていくように指示を出しておく」
「あら、そうなの。ありがとう」
リウがにっこりと微笑み、ウィズダムを見送った。




