憐れな加害者
メイドが配膳してくれた食事を味わっていたリウ、ディーネ、リエラ。
しばらくは平和に食事を続けていたが、リエラが慌てて声を張り上げた。
「リウ様、ディーネ様っ……! これは毒です!」
食事には、毒が盛られていたのだ。
しかし、リウがそんなリエラの焦燥を一蹴するように微笑んだ。
「大丈夫よ。毒なんて効かないから」
『私も~』
魔王であるリウと、大精霊のディーネ。
毒など効かなくても不思議ではなかった。
では、リエラは大丈夫なのかと言えば。
「あなたも、毒属性の竜なのだから効きはしないでしょう?」
大丈夫なのであった。
リエラの髪色と瞳の色である紫色は、毒属性を示すもの。
毒を司る竜であるリエラには毒など効きはしなかった。
誰にも毒が効かないとは、毒を盛った人が少々可哀想にさえ思えてくる。
「それは、そうなのですが……猛毒のようですが、本当に大丈夫ですか……?」
「ええ、私は平気よ。ディーネは知らないけれど」
『私も効かないよ、りーちゃん! 知らないなんて言わないで少しは心配してよぉ』
ディーネが不満げに告げた。
信用されているからこその発言ではあるのだが、言い方が冷たいのでどうでもいいように聞こえたのだ。
無論、信用されているのは理解してはいるのだが。
「はいはい。毒なんて効かないわよね、無理してないわよね……?」
最初は雑にいなすように告げたリウだが、ディーネが頬を膨らますとその頬を手のひらで挟んで瞳を覗き込みながら心配するような言葉を発した。
少し驚いたあと、ディーネは嬉しそうな表情をしてリウに抱きつく。
『んふふぅ、ありがとりーちゃん!』
「……別に。本気で心配はしてないわよ」
『えー、ほんとぉ?』
「いいから食事しなさい」
ニヤニヤとした表情でディーネがからかえば、リウから冷ややかな声が発せられた。
怒らせたと思い慌ててディーネが口を噤む。
そんなディーネを見てリウが表情を和らげた。
ディーネがほっとして静かに食事をする。
『……りーちゃん、毒盛ったのって誰なんだろうね』
「んー……誰でしょうね。食事中にする話でもないしあとで話し合いましょうか」
「承知しました」
『りょーかい』
三人が食事を終わらすと、真剣な表情をして話し合いを始めた。
内容は勿論、毒を盛った犯人である。
「やはり、怪しいのは先ほどのメイドでは?」
最初に口を開いたのはリエラだ。
しかし、その言葉はリウが首を振って否定する。
「たぶん違うと思うわ。毒を盛ったのなら、あんなに震えないと思うから。あれじゃ、怪しまれるかもしれないもの。……まぁ、もしかしたらそう思わせるための演技なのかもしれないけれど。もしメイドがやったのだとしても、脅されているかやむを得ない事情があるかだと思うわよ?」
リウはメイドがやったのだとしても事情があってのことだと推測した。
次に、ディーネが元気に手を上げる。
『はいはいっ! りーちゃんの推測だと真犯人が居るってことだよね? りーちゃんの案を仮定するなら見境なくやった可能性は低いよね。だって自分でやればいいんだし。つまりは、私たちを狙ったわけで……私達を邪魔に思う人がやったってことだよね。なら、そこから絞り込めないかな? まさか私達がこの国に来てる話がこんなすぐに広まってるわけないし』
城にならとにかく、話が街にまで広がっている可能性は低いと締め括ったディーネ。
その言葉にリウが頷くと、犯人を少しでも絞り込むために口を開く。
「ディーネやリエラが狙いとは思えないし、たぶん目的は私でしょうね。私に毒が効かなくても、仲間が倒れれば……」
『解毒薬でもちらつかせて、りーちゃんを思い通りに動かせる?』
「全員に毒を盛った理由としてはそんなものじゃないかしら」
盛られていた毒は、非常に危険なもので摂取してしまうと長時間――それこそ、年単位で昏倒してしまうような代物だった。
栄養さえ保つことが出来れば、死ぬことはない。
なので、リウを昏倒させることが出来なければ仲間を昏倒させて解毒薬をちらつかせることで思い通りに動かそうとしていたのだろう。
奇しくも全員毒が効かなかったのでそれも叶うこはないが。
「狙いはリウ様だとしても……目的はなんなのでしょうか」
「んー……候補を上げるなら、私が魔王だから……そして、なんらかの個人的な恨み……あとは……同盟の阻止、またはルリアの企みを止められたくない……?」
『あー、最後のは企みの協力者がやったってこと? ルリちゃん悪魔だし契約でって線もあるけど』
ディーネの発言にリウがハッとした表情になった。
なるほどと頷き、苦笑いする。
「あり得るわね。……あの子、頭は回るはずなのに時々なにも考えず契約して私に泣きついてくるし……あの子、賢いけどたまに馬鹿なのよね……」
リウが遠い目になって呟くと、リエラは困惑し、ディーネは無言で目を細めたのだった。




