同じベッドで
イルム王国の城の一室にて、リウとディーネがリエラに詰め寄っていた。
城で寝泊まりを提案された三人は、せっかくだからとそれを了承したのだが、そこでディーネが三人で一緒に寝たいと言い出した。
リウは少し迷う素振りを見せたものの嫌ではないからとそれを許可。
しかし、リエラは自分は配下だからと遠慮したのだ。
それを見たリウが、にっこりとした笑みでウィズダムに三人で眠れるようなベッドを一つ用意するように告げ、準備が出来た途端に部屋へ移動しリエラの説得を開始したのである。
「ねぇ、リエラ。一緒に眠りましょう? きっと楽しいわ。たくさんお話をして、眠くなったらみんなで眠るの。……ね?」
「で、ですが」
『私、リエラと一緒に寝たいなぁ。それに、ベッドは一つしかないし……』
時刻はお昼前。
まだまだ時間はあるが今の内に説得しておかないと床で寝ようとしそうなので二人は一致団結してリエラを説得しようとしていた。
リウは控えめにベッドに腰掛けるリエラの側で寝転がることで上目遣いで見上げ、ディーネはその反対側でリエラに抱きついていた。
無論、二人がリエラと一緒に眠ろうとするのには理由がある。
入国するために並んでいる時に気付いた気配を警戒しているのだ。
狙いはリウなのだろうが、そのためにリエラを人質にでもされたら堪らないというわけで側に居させたいのである。
それを説明してしまえば早いのだろうが、そんなことをしてしまえばリエラはリウとディーネが側に居ようとも気が気でないだろう。
変に責任感を持たれるのも嫌なので二人はリエラには話さないと決めていた。
ちなみに、提案された当時はリウは忘れていた。
ディーネはしっかりと覚えていてみんなで寝るという提案をしたらしい。
リウは後でディーネを褒めることを決意しながらちょこんとベッドに座っているリエラの膝に頭を乗せた。
ディーネと契約していた頃に何度か突然膝枕をさせられていたので、説得に使えると踏んだのだ。
「リエラぁ、みんなで一緒に寝るの暖かくて安心出来るのよ? 私だってたまには甘えたいのよ?」
『あっちょっ、りーちゃんもリエラもずるい! 私もりーちゃんを膝枕したいしリエラに膝枕されたい!』
見た目だけは幼い二人に甘えられてリエラが慌てている。
だが、二人はリエラにとって仕えるべき存在なのでどうしても遠慮してしまうらしい。
「わ、わたくしは一人で眠りますので……!」
『やだぁ。リエラと寝るぅ』
「リエラ、そうは言ってもこの状態じゃ動けないでしょう? きっと、仕えるべき方を退かすわけにはとか思っているんでしょう? 遠慮するくらいなら一緒に寝ましょう? 別に恥ずかしいことじゃないんだからいいじゃない。ね?」
「そ、それは……」
自らの膝に頭を乗せたまま優しく微笑むリウを見て、リエラが目を彷徨わせた。
それをチャンスと見て、ディーネがリエラの瞳を覗き込んだ。
『リエラ、一緒に寝よ……?』
「……ご命令とあれば……」
観念したようにリエラが告げた。
ディーネとリウが不満げに口を尖らせる。
「命令はしたくないのだけど……はぁ。リエラ、命令よ。私とディーネと一緒に寝なさい」
『ううー……じゃあ、私からも! 一緒に寝なきゃ駄目だからね!』
「承知致しました、リウ様、ディーネ様」
リエラがそう口にすると、二人がより不満げな表情をした。
やっぱり命令に従ったという形は不満らしい。
不満ではあるものの、目的は達成したのでリウがリエラの膝から退いた。
それを見て今度はディーネがリエラの膝に頭を乗せ甘える。
甘やかしてと駄々を捏ねるディーネとそれを微笑ましげに眺めるリウを見て、リエラはおずおずとディーネを甘やかした。
リエラの不慣れな手付きにリウが更に微笑ましげな表情になりつつ過ごしていると、扉がノックされた。
「食事をお持ち致しました」
「あら……ありがとう、入って頂戴な」
メイドらしき者の声を聞いてリウがそう答えた。
静かに扉が開かれてワゴンを押したメイドが入ってくる。
メイドは机に食事を置いていった。
しばらくそれを眺めていると、リウはその肩が震えていることに気付く。
「……やっぱり、魔王と聞くと怖いものなのかしら」
リウの呟きにメイドの肩が跳ねた。
お皿は持っていなかったのでアクシデントが発生することはなかったが、少し軽率だったとリウが反省する。
「ごめんなさい、怖いわよね。でも、襲わないから少しだけでもリラックスしてくれると嬉しいわ。多少の無礼じゃ怒ったりしないから」
怖がらせないようにと少し下がりながらリウが告げた。
困ったように目尻を下げるリウを見て、メイドが慌てて声をかける。
「い、いえっ……! その、えっと、き、緊張しているだけですから!」
「そう……? あまり、無理はしないようにね」
リウが優しく声をかければ、メイドは慌ててお皿を机に置いて頭を下げ、扉から出ていった。
食事を届けてくれたメイドを見送り、三人はのんびりと食事に手を付け始めるのだった。




