同盟
魔王としての名乗りを上げたリウはイルム王国国王を座るように促し、自己紹介を求めた。
「私はウィズダム・イルム。よろしく頼む」
「ええ。危害を加えるつもりはないから、そこは安心してくれていいわよ? ……出来ないかもしれないけれど」
ぼやくように呟かれた言葉にウィズダムと名乗ったイルム王国国王は意外そうな表情をした。
リウは漏れてしまった呟きを誤魔化すように口を開く。
「それで、どうして私をわざわざお城に呼んだの? 連れてこなくとも監視させておけば良かったのに」
不思議そうな表情でリウが首を傾げた。
リウは最古の魔王であり、様々な噂はあるものの大抵は〝敵には容赦しないが、敵対しなければ友好的〟というものだ。
それを知っているので、リウとしてはわざわざ城に呼んだことについては不思議に思っていた。
「それは……」
「……なにか、困り事?」
困ったようなウィズダムの表情を見て、リウがそう尋ねた。
どこか楽しげな様子のリウを見てディーネが呆れて溜め息を吐く。
「私の国は、ただの情報国家なのだが。……原初の魔王の一人に目を付けられてしまったらしい」
原初の魔王は三人存在している。
一人は、最古の魔王でもあるリウ。
そして、二人目は――
「ルリア。……ルリアスタル・アーシャンレート。悪魔姫」
リウが静かにその名を口にした。
同じ原初の魔王なので、会う機会はそこそこあり性格も熟知している。
もう一人は性格的にあまり興味がなさそうなので除外である。
「その通りだ」
「ふぅん、ルリアねぇ……また、おかしなことを企んでいるのかしら」
物憂げにリウが呟き、一瞬だけ視線をディーネに送った。
ディーネもリウの方を見ていたようで、目が合うとにっこりと微笑む。
そんな不思議なやり取りを行うと、リウは再びウィズダムに視線を固定した。
「目的は不明だが、もしよろしければあの魔王に直接話しては頂けないだろうか」
「んー……別にいいけれど、しばらく先になるかもしれないわよ? それに、条件もある」
「……条件、とは」
「私、国を創っているの。労働力は足りているから、イルム王国と私の国、魔国ノルティアナとで同盟を結んでほしいのよ。それと、もう一つ。こちらはお願いなのだけれど、信用出来る商人を紹介してほしいの。特産品を売るためにも、商人は必要でしょう?」
リウは、騎士に包囲されていると気付いたその時からこれを目論んでいたのである。
せっかく向こうから頼み事をされているのだ。
利用しない手はない。
帝国から守るためにも、先ずは魔国ノルティアナを国として確立させなければならない。
故に、小国ではあるものの影響力はあるイルム王国の後ろ楯を欲していた。
必要不可欠というわけではないだろうが、あった方がいいのは確かなのである。
商人の方も確かに欲しいが、自分たちだけでもどうにか出来ないことはないし自分たちで出来ないのなら他国に紹介を頼めばいいだけのことだ。
なので、今回は同盟を優先した。
「本当に同盟と商人の紹介だけでいいのか? 出来ることならなんでもするが……」
「別にいいわ。私からしたら、ルリアと話すだけのことだもの。仲が険悪なわけでもないし」
リウの正直な感想はそれだった。
本当に、話をするだけなのである。
それだって、国を創った報告のついでにすればいいだけのことなのだ。
大した労力でもないのに色々と貰うのは気が引けるというものだ。
同盟と商人は欲しいので躊躇はしないが。
「分かった、条件を呑む。商人も紹介しよう」
「ありがとう。同盟の方は今度詳細を話し合うとして……商人の紹介は、今すぐ出来そうかしら? 無理ならそれでもいいけれど……」
「申し訳ない。今すぐにはとても……」
「そう。なら別にいいわ」
リウが微笑み、紅茶を飲み切った。
申し訳なさそうな表情のウィズダムを眺め、リウが思考に耽る。
考えるのは同盟の詳細と特産品の価格だ。
(先ずは、同盟による支援。資材なんて無限に創造出来るし、資金が一番嬉しいかしら。なら、引き換えに私側は何を差し出す? この国には何が足りない? ……戦力かしら。となると、私側はイルム王国を守護することになるかしら……純血竜のみんなはそうだけど、他種族だって鍛えれば強くなりそうだった。きっと戦力としては申し分ないわね。それと、特産品の値段。薄めるとはいえ、あれは普通の回復薬よりも安くするわけには行かないわよね。普通のは飲まなきゃ回復しないけど、掛けても回復するし、美肌効果あるし、なんなら普通のよりも回復力が高いわけだし。美味しいけど普通の回復薬と同じなんじゃきっと売れない。不味いのは我慢してでも安い方を買うはず。だから、少しだけ回復力を普通の回復薬よりも高くなるようにすれば……)
思考を巡らせたリウは、城にある部屋に泊まっていいと告げたウィズダムに愛想良く微笑むのだった。




