本性
王国騎士に包囲されたリウ、ディーネ、リエラ、ついでにナンパ。
リウは騎士に向かって柔和に微笑み、ディーネはそんなリウに呆れ、リエラは混乱していた。
ナンパは包囲していた騎士の一人に連れ出され、周りよりも豪奢な鎧を纏った中年の男性がリウに話しかけた。
「魔王様で御座いますね」
「……ふぅん、正体はバレてたってわけね。といっても、隠しているつもりもあまり無かったけれど。それで? 牢にでも連行する?」
「いえ。……あなた方には、城にご同行頂きたく存じます」
あくまでも丁寧な騎士の言葉に、リウは笑みを深めた。
チラリとディーネとリエラを振り返る。
ディーネは相変わらず呆れたような視線を送っているが、特に文句を言うことはない。
リエラは混乱しているが、別に拒否することもない。
リウは騎士に視線を戻すと、優しげな声をかけた。
「同行はいいけれど、そちらから敵対された場合は反撃させてもらうわよ?」
「はい。もしもそのような馬鹿が居た場合は自業自得ですので、構いません。責任も取らせて頂きます」
「ならいいわ、連れて行って。……配下も行っていいのよね?」
リウからほんの僅かな威圧が放たれた。
ディーネは元契約精霊であり大切なのは当然のことで、純血竜を助けたことは気紛れではあったが今は全員大切な配下なのだ。
蔑ろにすることを許すはずも無かった。
だが、それは王国騎士や騎士を遣わせた者だって百も承知である。
「勿論で御座います。では、こちらへ」
王国騎士の言葉に従い、リウたちは城の方へと歩いていくのだった。
◇
お城へ案内された三人は、現在来賓用の客室でおもてなしを受けていた。
リウは手慣れた様子で椅子に座り、ディーネは嬉々としてリウの隣に腰掛け、リエラも二人に促されたものの自分は配下だからと遠慮していた。
何度か二人が説得を試みたものの、リエラが意思を曲げなかったため既に諦めている。
『りーちゃん、このお菓子美味しいよ。リエラもほら!』
「んむっ!? ん、んん……! た、確かに美味しいですが、配下でしかないわたくしはご遠慮します……!」
「あら、美味しいわ。リエラも、座らせるのは諦めるから茶菓子くらいは堪能なさいな。勿体無いわよ? リエラは甘いのは好き? こっちのプレーンクッキーはとっても甘くて美味しいわよ。でも、苦手ならこっちの抹茶クッキーが甘さ控えめでほろ苦いからオススメよ? 私はどっちも好きだけれど」
ニコニコとリウが微笑みながらリエラに茶菓子だけでもと勧めた。
そっと上品に差し出された二枚のクッキーをリエラが迷うように眺め、意を決したように二枚を手に取った。
迷うような素振りを見せてから、リエラがプレーンクッキーを口に含む。
ふわりとリエラが頬を綻ばせた。
次に、抹茶クッキーを口に含む。
再び美味しそうに頬を綻ばせた。
リウが微笑ましげな表情をしながらリエラに紅茶を手渡す。
リエラは遠慮がちにそれを受け取り、そっと口を付けた。
再び幸せそうな表情をするリエラ。
数秒してハッとすると視線を彷徨わせ、紅茶に視線を落とすとゆっくりと味わうようにしながら飲み干した。
カップソーサーにコトリとカップを置くと、リエラはおずおずと机にそれを置いて恥ずかしそうに背後に控えた。
「女の子らしい一面もあるのね?」
からかうようにリウが告げれば、リエラは恥ずかしそうにそっぽを向いてしまった。
リウが少し困ったような表情をしつつもリエラに微笑み、扉に視線を投げた。
それとほぼ同時に扉がノックされる。
「国王陛下が参られました」
王国騎士の言葉を確認すると、リウは笑みを深めた。
そして、落ち着いた声色で返事をする。
「どうぞ」
リウは堂々としながらイルム王国国王を出迎えた。
国王の護衛らしき騎士の警戒の視線も、凪に風と受け流す。
ふわりと笑みを浮かべ、リウはゆっくりと紅茶を口に含んだ。
「そなたが魔王の……」
国王の確かめるような呟きにくすりと笑みを零し、リウは国王を見据えて魔王としての名乗りを上げた。
これまでの経験で、リウは少女の姿をしている故に舐められることを知っている。
そういえば、とリウはレアと出会ってからを思い返す。
リウにとって魔王としての名乗りとは、ただの様式美であり定型句。
だが、レアのときやセラフィアの故郷での挨拶では、軽く挨拶をしていただけだった。
正式な魔王としての名乗りではない。
勿論、正式な名乗りをしていないのはその必要が無かったからなのだが。
「私はリウ・ノーテル。悲劇女王の名を冠する、原初の魔王が一柱。この私が、最古の魔王よ」
リウは知っている。
悲劇女王が原初の魔王であり、また最古の魔王であることを知る者は少ないことを。
だからこそ、交渉の場ではとても役立つことを。
この私、などと口にしたがリウは別に魔王であることを誇ってなどいない。
冷静沈着、異常なまでに合理的に行動するのが、最古の魔王である彼女の振る舞い方なのだ。
実際は、自由気ままに行動した結果そんな風に話が広がっただけでしかないのだが。
リウはその話を利用しようとしているのだから、結局のところその話も全てが根も葉もない噂というわけではなかったのだろう。
それが彼女な本性なわけでも、ないのだが。




