リエラの確認
セラフィアとレアを見送りリエラに向き直った二人は、静かに話を促した。
「先ず、イルム王国に向かった際の注意点として。入国に時間が掛かる場合があります。小国とはいえ、国は国ですから。そして、身分を証明出来るものがなければお金が掛かりますし、色々と審査があります。よろしいですか?」
「まぁ、国である以上仕方無いわよね」
『うー……面倒だけど、そうだよね……我慢する』
リエラが口にした注意点に仕方無いとリウが頷き、ディーネは少し嫌そうにしながらも我慢すると頷いた。
魔王と大精霊。
入国について知る機会があったのかは不明なので、念のためである。
「それと、イルム王国は情報国家ですので、情報関連の魔道具が発達しております。なので、不用意に嘘を吐くと警戒されてしまうかもしれません。ですから出来るだけ真実に沿った筋書きを用意しておきたいのですが……」
「……そうね。どうしましょう……」
『りーちゃんそういうの得意だよね~』
「得意ではないわよ。でも、そうねぇ……少し遠い場所にある里からやってきたくらいでいいでしょう。あとはまぁ、ほら。友達とか。あぁ、それかもうディーネとリエラが一時的に契約してしまいましょうか? 私は元契約者ってことで一緒に、みたいな……」
途中からリウが適当になった。
が、別に悪い案ではない。
この筋書きであれば、一応嘘は吐いていないのだ。
里から来たという部分も、ここは里だった場所であるし契約してしまえば嘘ではなくなる。
リウが元契約者なのも真実なのである。
『一時的になら別にいいよ~。帰ってくるまででしょ? 長くても数日間だよね?』
「い、いえ、そんな、大精霊様に一時的とは言えど契約させていただくわけには……」
「いいわよ、別に。戦うわけでもないし、必要なくなったらすぐに契約を切るんでしょうから。ねぇ?」
『まぁ、そうだねぇ~。必要なくなったら切るよ。必要だから、契約しよ? リエラのこと気に入ってないわけじゃないから大丈夫だよ』
ディーネがそう告げてリエラの手を取った。
水の大精霊としての風格を全面に押し出し、穏やかに微笑む。
『さぁ、合意して?』
「……は、はい」
『ん、契約完了。少しの間だけ契約精霊としてよろしくね~』
「よろしくお願い致します……」
リウが満足げに笑みを浮かべ、話を再開した。
今度は入国の際に必要となるお金のことだ。
「お金は私が払うわ。稼いでいたわけではないけど、手に入る機会はあったから持っているの」
「ですが、リウ様に払って頂くわけには……」
「いいの。さっきから遠慮しすぎよ? リエラには他の面で頑張ってもらうからお金は私が払わせて」
リウはリエラをそう説得すると、他に話はあるかと尋ねた。
返ってきた答えはリウの名前についての話。
そう、リウという名の魔王は有名なのである。
なので、三人でリウの偽名を決めることにした。
嘘はあまり吐けない?
リウの魔法で少しだけ弄れば解決である。
罪悪感に襲われるので出来ればやりたくなかったが仕方無い。
魔王だとバレるよりかはいいのだ。
『りーちゃんの偽名かぁ……ん~……リエとかどう? リエラのエから取った』
「リエラからなのね……うん、まぁそれでいいわ話は終わり?」
「あっ、はい、そうですね……」
「じゃあ、えっと……明日はよろしくね」
「よろしくお願い致します」
二人は頭を下げるリエラに微笑み、お城の方へ帰っていった。
◇
そして、リウの自室にて。
『りーちゃん、暇ぁ』
「そうね。私は寝るわ」
『わわっ、ちょっとちょっとぉ! 少しくらい付き合ってよ!』
「何するのよ……」
ベッドに潜り込んだリウに暇なディーネが馬乗りになった。
頬を膨らませてディーネがリウに抱きつくと、上目遣いで告げる。
『昔みたいに構って?』
「……はぁ……ほら、これでいいんでしょう」
リウが溜め息を吐き、ベッドの隙間を空けた。
毛布を手で持ち上げれば、すぐさま隙間に入ってくるディーネ。
毛布に包まれながらリウに抱きつき、常に頭を擦り付けた。
『んふふ~……懐かしい……』
「そうね」
『あれ、なんか冷めてる。あ、撫でて?』
「はいはい……」
リウが呆れながらディーネを撫でた。
ディーネはリウをきつく抱き締めると、リウの頭を撫でた。
元から寝ようとしていたこともあり、うとうととしてしまうリウ。
『えへへ、気持ちいい? ……お返し』
「ん……」
『良かった、安心してくれるみたいで。私が出来なかったら、誰も安心させられない』
「……そんなことない……」
ボソリと呟かれた言葉にディーネが苦笑いする。
ディーネは完全に大精霊としての顔をしており、同時に彼女の元契約精霊としての言葉を見せていた。
『少しは安心出来ると思うよ。でもね、心の底から安心出来る? リウは強いけど、だからこそ周りがか弱く見える……分かるよ。だから、対等である私がリウを安心させる。……ね?』
「……うん」
ディーネの優しい言葉に、リウが嬉しそうに答えた。




