刺客
ディーネに寝言について話されたあと、羞恥心で正気を失っていたリウ。
数分ほどしてやっと復帰したリウは作っておきたい部屋を完成させ、ディーネの部屋に立っていた。
その部屋は青系統の色で揃えられていて、リウは現在ディーネの指示で微調整を行っているところだ。
『ベッドの枕、もうちょっと淡い色に……』
「えっと……このくらい?」
『うん、それくらい! あとは、壁がちょっと単調だから……明るめの色で波模様って作れる? 無理だったら大丈夫だけど……』
「別に出来るから大丈夫。こんな感じでいい?」
リウがディーネの指示に従って家具や壁紙を変えていく。
ディーネは少しだけ申し訳なさそうな表情をしながらああだこうだと指示を出していた。
『……うん! もう大丈夫、理想通りだよ! ありがとうりーちゃん!』
「ふふ、どういたしまして。あぁ、それとディーネ」
『んー?』
リウが数百枚はありそうな量の紙束を創り出した。
それをディーネに差し出すと、笑顔で告げる。
「部隊についての報告はその紙に書いて提出なさいね。とりあえず今は、部隊の総人数と決まっているなら役職を与えた者の名前を。もちろん役職名も込みでね。それと訓練メニューが出来ているのなら訓練を行う時間とその内容も記載して。その他、報告があればその紙にお願いね? 別で執務室が欲しいなら用意するわ」
『へ? え、えっと、部隊の人数と隊長とかの名前と、訓練メニュー? あ、え、えっと……部屋はリラックス出来る場所であって欲しいから、執務室はお願い……』
「了解。隣でいい?」
『あ、うん……』
リウが一瞬でディーネの執務室を創り出した。
ディーネは戸惑いながらそれを眺める。
「期限は一ヶ月以内。さっき言ったもの以外は自己判断でいいわ。お願いね」
『え、あ、うん……あ、そうだ。りーちゃん、深夜に忍び込んで寝言聞いてもい――』
「寝言なんて言ってないしあなたは寝言を聞いていない。い い わ ね ?」
思い切り肩を掴まれながら告げられた言葉に、ディーネは目を逸らし頬を引き攣らせながら震える声で返事をする。
『ナ、ナニモキイテマセン……』
「よろしい。じゃ、書類お願いね」
一気に優しげな笑顔になったリウに少しだけ癒されれながらディーネはご機嫌で去っていくリウを見送り、癒しを求めてレアの元へ急ぐのだった。
◇
ディーネが癒しを求めてレアを構い倒していた一方で、リウは自室にて小さめなシェルフに小物を置いていた。
寝言のことは自分にとって都合が悪いので綺麗さっぱり忘れている。
現在はシェルフに置いた小さな花瓶に入れる花を決めていた。
「……うん、これでいいかな」
リウが花瓶にそっと入れたのは白と淡い桃色の二種類のカスミソウ。
リウの手で創られたもので、確かにカスミソウではあるのだが枯れて欲しくなかったため枯れないようになっている。
枯れるのも風情があって素晴らしいのはリウも理解出来るのだが、それはそれとして寂しくなるのでリウはあまり好きではないのだ。
リウが微笑みながらそっと花を指先で撫でた。
それから数十分ほど掛けて小物を置き終わると、リウはベッドに寝転がる。
「んん……ふかふか。暖かい……」
眠たそうな顔をしながらリウがごろごろとくつろぐ。
しばらくそうしていると、いつの間にか眠りについていた。
◇
「ん、んぅ……?」
すやすやと眠ってしまっていたリウは、ふと深夜に目を覚ました。
ごしごしと目を擦り、口元を隠しながら眠たそうにあくびをすると起き上がる。
「なに……?」
困惑気味に呟かれた言葉。
それが静かな部屋に響くと同時に、リウに殺気が叩きつけられた。
「……だれ……?」
寝起きで呂律が回っていないままリウが尋ねた。
濃密な殺気を向けられていても、リウは少しだって動揺しない。
「寝てたのに……どこからの刺客……?」
怒りを孕んだ低い声。
それと共に侵入者を睨み付けたリウが向けられていたものとは比較にならないほど濃密な殺気を叩き付けた。
常人ならば気を失っていてもおかしくないほどのもの。
ディーネと何故か一緒に寝ているレアが起きてしまわないようにと結界は既に張り巡らせていた。
「そう、答える気はないのね。ならいい。――さっさと死ね、ゴミ共が」
闇が、部屋を覆い尽くし。
気が付けば、リウの周りに血溜まりが出来上がっていた。
「……掃除しないと」
ボソリとリウが呟き、血溜まりに手を伸ばそうとする。
『りー、ちゃん……?』
ピタリとリウの手が止まった。
「……ディーネ。起きたのね」
『これ、は……?』
「……刺客……だったもの、かしら」
『私、また守れなかった?』
「……平気。人を殺すなんてこと、もう何度も経験しているから。もう、なんとも思わない」
『……そっ、か。……そう、なんだ』
悲しそうな、複雑そうな表情でする二人だけが理解出来る会話が、僅かに開いた扉から部屋の外へと漏れた。
僅かな、本当に僅かな足音と共に、その会話は空気に溶けていく。