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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
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戦い方

リウから奴隷についての説明を受けたレアはしばらく不安そうな表情をしていたものの、もし奴隷にさせられてしまってもリウが助けてくれるからと不安を鎮めた。

心配そうにレアのことを見つめていたディーネがレアに近付き、そっと抱き締める。


『私も、もしれーちゃんが奴隷にさせられちゃったらりーちゃんと一緒に助けに行くね。私、これでも大精霊だし! それに、ルリちゃんもきっと手伝ってくれるよ』

「……はい」


レアが嬉しそうに微笑んだ。

確かに、ルリアはなんだかんだでレアのことを気に入っているようなので手伝ってくれるだろう。


「……まぁ、捕まらないのが一番なのだけれどね」

『そうだけど、油断はしないようにしないとね』

「……」


レアが沈黙した。

なにやら深く考え込んでいるようだ。

二人が首を傾げ、そして。


「――決めました!」

『「えっ?」』


レアが突然大きな声をあげた。

そして、決然とした表情で口を開く。


「私に、戦い方を教えて下さい!」


二人がぽかんとした表情でレアを見た。

あまりにも突然だったので上手く状況を理解できなかったのだ。

数秒ほど経ち、最初にリウが復活する。


「た、戦い方って……戦いは危ないのよ? 優しいレアには向いてないわ」


戸惑うような表情をしながらリウがそう説得しようとするが、レアは意思を曲げない。

続いてディーネが復活し、困惑の表情を浮かべながらレアに尋ねた。


『教えるか教えないかは一旦置いといて、なんで急に……?』


ディーネの質問を受けて、レアは真剣な表情をした。

そして、戦い方を教えて欲しいと言った理由を語り始める。


「リウ様のお話を聞いていて思ったんです。私、守られてばっかりだなって……私が非力である以上、それは仕方のないことなのかもしれません。でも、もし私が攫われたのなら、その時は絶対にリウ様やディーネ様……私を守れる人が傍に居ない時になるはずです。戦いはよく分かりませんが、リウ様は魔王で、ディーネ様は大精霊です。お二人はきっと強いはずです。だから、お二人が傍に居るときに狙われるとは考えられません」


レアの話を聞いて、リウが考えを改めた。

確かに、守るだけでは駄目だ。

できる限り守りはするが、レアが言う通り、レアを守れる人が居なければレアでは恐らく簡単に攫われてしまう。

レアは、戦い方を知らないから。


「だから、せめて自衛くらいはできるようになるべきだと思ったんです。倒すことはできなくても、時間稼ぎくらいにはなります。その隙に誰か、リウ様やディーネ様じゃなくてもいいから強い人を呼べばなんとかなるはずです。間に合わなくても、攫われたあとの所在は多少分かりやすくなるかもしれません。だから、お願いします。私に戦い方を教えて下さい」


レアが頭を下げた。

真剣に考えた末の発言だったことを理解して、リウがディーネと視線を交わす。

無言の相談を行い、リウが溜め息を吐いた。

そして、レアと視線を合わせて尋ねる。


「分かったわ。ちゃんと考えてのことなら、教えてあげましょう。……でも」

「で、でも?」


レアが尋ね返した。

リウはじっとレアを見つめながら言う。


「猶予がどれくらいあるのかは分からない。あなたという聖女を見つけたら、勇者はあなたを執拗に狙い始めるでしょう。だから、できるだけ早く戦い方を教え込む。休息は最低限よ。きっと苦しいと思うわ。……それでも、やる?」

「はい。それもちゃんと考えて決めましたから」

「……力は、人に危害を加えることもできてしまうわ。あなたが力に溺れることはないと思うけれど……事故がないとも限らない」

「はい。分かっています」

「……そう。なら、教えてあげる。ついてきて。……ディーネも、手伝ってくれる?」

『うん!』


ディーネが頷いたことを確認すると、リウが壁に触れた。

そして、呟くような声で開錠のための鍵言葉(キーワード)を口にする。


「〝宵闇よ、今ここに〟」


すると、リウが触れていた壁が消えて真っ暗な道が現れた。

リウが振り返り、驚いている二人に声をかける。


「凄いでしょう。一応逃走経路でもあるから覚えておいてね」

『うん……でも、一々詠唱しなきゃいけないの?』

「私だけなら普通に通れるわ。でも、今回は二人が居るから詠唱が必要だったの。認められていない人はまた違う詠唱をしないといけないのだけどね。ふふっ」


リウが楽しげに笑った。

あの詠唱がバレても、侵入者はあの詠唱では入れないらしい。

逃げ込めばかなりの時間を稼げそうだ。


「あ、あの、リウ様……暗いんですけど、灯りとか無いんですか?」

「無いわね」

「ううぅ、おばけとか出てきそうで怖いです……」

「お、おばけ!? 出てきたことはないけど……え、居ないわよね……?」


リウがきょろきょろし始めた。

ディーネは子供っぽいリウに少し呆れたものの、なにも言わずにリウについていくのだった。

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