言い訳
シーアに強制的に幼女にされ、自室に閉じ籠ってしまったリウ。
レアはこれ以上誰かに幼女の姿を見られたくはないだろうとリウの部屋の扉に体重を預け、他の人がリウの部屋に入らないように警備をしていた。
そこへ、リウに用があるらしいディーネがやって来る。
『あれ? れーちゃんどうしたの?』
「あ……ディーネ様。リウ様になにか用事ですか?」
『ん~……りーちゃんが暇だったら遊びたいなって思ったんだけど……』
「リウ様はお休み中ですから、今は無理だと思います」
『そっかぁ……残念だけどしょうがないね。りーちゃんいつも頑張ってるし、休ませてあげないと。じゃありーちゃんのお休みタイムが終わったら、私がりーちゃんに暇ができたときでいいから遊びたいって言ってたって伝えてくれる?』
「分かりました! ちゃんと伝えておきますね」
踵を返して歩いていくディーネの後ろ姿を見て、レアがそっと安堵の溜め息を吐いた。
咄嗟にお休み中という言い訳を使ったが、なんとか疑われなかったようだ。
ちなみに、ディーネは内心でお休み中ではなくお休みさせられ中なんだろうな、とか思っていたりしたのだが、それをレアが知ることはないし関係もない。
閑話休題。
次に人が来たときに違う嘘を吐いてバレたら困るので、レアはリウ様はお休み中という言い訳を貫き通すことにした。
もっとも、嘘を吐くことに罪悪感があるのでレアとしては誰も来ないで欲しいのだが。
とはいえ、そんな願いが叶うわけもなく。
まさかのレアの母親、セラフィアがリエラと共にやって来てしまった。
「お、お母様!?」
「あら、レアじゃないですか。どうしてリウ様のお部屋の前に居るんですか?」
にこりと優しく笑い、そして不思議そうな表情をしてセラフィアがレアに尋ねた。
レアは少したじろぐが、慌てて表情を取り繕って告げた。
「リウ様がお休み中なので、誰かがリウ様のお部屋に飛び込まないように警備中です」
「そうなのですか。レアはいい子ですね。では、報告はあとにしておきましょうか」
「報告……ですか? なにかあったんですか?」
レアが首を傾げた。
詳細は説明していないが、レアにはセラフィアが危険なこともしないといけない役職に就いていることは説明されている。
そんな仕事に就いている母親が報告というので、レアは少し心配になってしまったのだろう。
そんなレアを見て、セラフィアが微笑んだ。
「大丈夫ですよ。こういうことをしたら、こういうことが起きたので……という感じの説明ですから。ね、リエラ」
「はい。なのでレアは心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうなんですか……大丈夫ならよかったです。いつもお仕事お疲れ様です」
そう言ってレアが微笑んだ。
二人がそれに和んで帰っていった。
レアが任務達成っと小さくガッツポーズをする。
ちなみに、空気を読んでなにも気付いていないふりをしたものの二人はリウになにかがあったことは察している。
だって、物凄くレアがたじろいでいたので。
情報統括機関のトップの二人である。
例えレアがたじろがなくても気付いたことだろう。
レアの様子からして命の危険は無さそうなので空気を読んでなにも追及しなかったが。
しばらく経って、周りを気にするようにきょろきょろしながらルリアがやって来た。
リウの部屋の前に佇むレアを発見すると、小走りで駆け寄ってくる。
「レア。リウは大丈夫?」
「へ? ……リウ様ですか?」
シーアから話を聞いたのか、それともなにか他のことで心配しているのか判断がつかずレアが尋ね返した。
すると、ルリアが周りの様子を窺ってからレアに告げる。
「リウが、その……秘書ちゃんに幼女にされちゃったって聞いたから。ごめんね、あのロリコンにはあとでちゃんと言い付けておくから。それで、リウには会える?」
「ええと……治せるんですか?」
ただ代わりに謝るとか、話をしたいとかであればリウは確実に会うことを拒否するだろう。
しかし、治せるのならリウも会ってもいいと考えるかもしれない。
そう思ってレアがルリアにそう確認した。
「治せるよ。シーアはああいう悪戯をよくするんだけど、治せるように魔方陣を組んだことは一度も無い。当然、最初はリウも普通に自分で解除できてたんだけど……シーアはそれが面白くなかったみたいで、自分自身では解除できないように色んな仕掛けを施したんだよ」
「仕掛け……ですか?」
リウが魔法を扱う姿はたくさん見たわけではないが、ルリアとの模擬戦などで使っていた魔法は恐らくかなり高位の魔法だ。
そんなリウが、仕掛けを施されたくらいで解除できなくなってしまうのだろうかとレアが首を傾げる。
魔法を使ったことはないが、その仕掛けとやらを解除すればいいのではないのだろうか、と。
「まぁ仕掛けくらいリウなら解けるんだけど……内容が問題でね。その仕掛けは呪いみたいなものなんだけど、内容が解除しようとすると壮絶な痛みに襲われるってもの。で、リウは魔王に至ったときからずっと痛覚が存在しないの。でも、魔法で痛みを発生させられるとリウでも痛みを感じる。精神攻撃みたいなものだからね。リウは長生きだから……僕が公開するのは悪いから実年齢はやめとくね。リウは少なくとも数億年は生きてる。つまり、数億年間ずーっと痛みなんて感じてなかった。そんな状況で壮絶な痛みなんて感じさせられたら……」
「……そういうことですか」
「そういうこと。魔法の解除をしようとすると痛みを感じるならってことで、リウは仕掛けを解除したんだよね。そしたらその次の悪戯でシーアは魔法を解除しようとすると痛みに襲われる仕掛けの他に、その仕掛けが解除されたら痛みを生じさせる仕掛けを追加した」
「……魔法が解除されたら痛みを生じさせる仕掛けを追加すればよかったのでは?」
「それだと痛みを我慢すれば解除されちゃうから」
そこまでする必要があるのかとレアが若干引いた。
ルリアが溜め息を吐き、レアに告げる。
「あれはリウがやろうとすると発動しちゃうから、僕なら発動しない。僕も魔方陣は解読できるから治せるよ」
「……リウ様に確認して来ます」
レアが一旦リウの部屋に入り、軽く説明をして許可を得てからルリアを部屋に招き入れた。
ちょっとキリ悪かったかもしれないですね。
すみません。




