精霊の愛し子
ディーネを連れて国へと帰るリウ、レア、セラフィア、フローガの四人。
じゃれているリウとディーネを眺めていたレアは、ふとリウに尋ねた。
「そういえば、リウ様特産物を作らせるお仕事をウンディーネ様にさせようとしてましたよね? どうして働くって聞いて嫌がってたんですか?」
「恥ずかしいし、国は見られないようにあそこで監禁でもしておこうと思ってたから……」
『えっ、りーちゃん酷い! あっ、あと、レア……だっけ? じゃあれーちゃんだね、れーちゃん、私のことはディーネでいいよ』
「レア、よかったわね。ディーネがあだ名で呼ぶのは気に入った証拠よ」
「へ? え、えと、ありがとうございます?」
レアが首を傾げながら告げた。
ディーネがニコニコとしながらレアの頭を撫でる。
ついでとばかりにリウの頭も撫でようとして殴られていたが、既に反撃を始めているので平気だろう。
そうして時々ディーネがリウに殴られたり回避されて撫でられリウが照れたりしていると、いつの間にかリウたちの国に到着していた。
『ふわぁー! 凄い! りーちゃん凄い! 綺麗だねぇ!』
「……ありがと。えーっと、特産物も決まったから……それを売らなきゃいけないのよね」
『ねぇねぇりーちゃん!! 国の名前! 国の名前は!?』
「……考えてなかったわ」
ディーネの問いかけにリウがボソリと呟いた。
確かに、国の名前は早めに決めておいてもいいかもしれない。
『えー! 決める時は呼んでね? 考えるから!』
「勝手にして。ディーネ、みんな見てるから自己紹介なさい」
『ん、ほんとだー。えーっと、じゃあ~……』
ディーネが宙に舞い上がり、一回転して口を開いた。
『はじめまして~! 私は水の大精霊! 気軽にディーネって呼んでね! りーちゃん……あなたたちの主の元契約精霊だよ~!』
「あっ、こらディーネ!」
『ちなみにねぇ、りーちゃんは精霊に好かれる体質だから私たちの間では精霊の愛し子とか呼ばれてるんだよ~。りーちゃんは精霊から見ても凄い人だから、ちゃんと敬わなきゃ駄目だからね~』
「ディーネ!? なによそれ私知らないのだけど!?」
リウは精霊の愛し子らしい。
ちなみに、契約精霊とは誰かと契約した精霊のことであり、契約した者は精霊を召喚しその力を自由に借りることが出来るというものである。
あくまでも力の主導権は精霊にあるので悪事に使われることはない。
精霊側が悪いことをしようとしているようならばその限りでもないが。
ディーネは元と付けたので契約は既に無いのだろう。
『知らなくて当然だよ、りーちゃんは精霊界に興味無いんだから』
「体質のことは認めざるを得ないけど、その呼び名は納得出来ない……!」
『りーちゃん凄いよね、ギフトでもなく好かれちゃうんだもん。だからそう呼ばれて当然だよ?』
ギフトでもなんでもない体質のことは認めるらしい。
だが、呼び名の方は認められないようでディーネに訴えかけている。
そう呼ばれて当然と一蹴されてリウが頬を膨らませた。
周囲がとても和んでいることには気付いていないらしい。
「もうっ……! ディーネは今日から一緒に過ごすから、覚えておいて。役職の方は後で決めておくわ」
リウが諦めたようにそう口にすると、ディーネが急に抱きついた。
顔を赤くして離そうとするリウの胸に顔を埋めると、国民の方を向いて笑みを浮かべながら口を開く。
『りーちゃんを裏切ろうとするなら、私が相手になるからね?』
表情は明るいのに、その声だけが酷く冷め切っていた。
昔は彼女を庇護していた大精霊の、彼女の身を案じた故の行動。
だが、それを理解しながらもリウはそっとディーネを止めた。
「駄目よ、ディーネ。威圧しないで」
『……りーちゃんは、心が弱いもん』
「そのつもりのない人を威圧しては駄目。冤罪は駄目よ」
『うー……』
優しく、責めることはなく。
ただ、リウはディーネを諭した。
ディーネが心の弱い自らを守ろうとしていることは、リウも理解していた。
だからこそ、責めることはしないのだ。
「守ろうとしてるのは分かっているから。でも、仲間なんだから仲良くしないと、ね?」
『わ、分かってるよ』
「……ディーネはちょっと私に対して過保護なところはあるけど、優しい子だから。仲良くね?」
リウが笑顔でそう告げると、国民が大声で歓迎の意を示した。
ディーネが嬉しそうに頬を綻ばせる。
『……りーちゃん、相談事があれば私に言ってね』
「やっぱり過保護ね。その時はそうさせてもらうかもしれないけれど」
『過保護じゃないよぉ。色々抱え込んでるから言ってるの~!』
「はいはい」
そんな文句を軽く流しつつも、非常に嬉しそうなリウを見てディーネはまぁいいか、と考えを改めリウのことは私が守るんだと決意する彼女であった。
ディーネはリウちゃんに対してだけ過保護です