学園改造大作戦⑯
資料室が光に包まれ、そうしてそれが収まる頃には、資料室の様子は一変していた。
真っ白で、近未来的な光の走るその場所。
本は変わらずたくさん置かれていて、そして、何よりの変化は、部屋の中央にある台座である。
『……ここは……あの台座は? い、一体何が……』
「ルリアっ! もしかしてもしかしてもしかしてっ、本の中に自分を投影できるの!? そもそもこの場所も、瞬間的に意識空間の中にっ……思考加速によって外の時間も気にしなくていいくらいになってる!?」
「ふふん……実践授業の内容を考えてる時にね、僕は思ったんだ……経験は、何よりも糧になるって! 僕の経験則でもあるけど! それで考え付いたのがここ! リウの言った通り、本の中に入って、本の中の出来事をそのまま追体験できるんだ! 研究の資料だったら、ちょっと簡略化してるけど実験の過程とか、資料から読み取れる限りの著者の思考過程を経て……後は実際に完成したものを、自分自身の能力に関わらずに体験できるんだ! 凄いでしょ! ここは限りなく現実に近い、妄想の世界なんだよ! だから、ここでの経験はきっと、すっごく為になると思うんだ! あの台座に本を置くことで、本の中に入れる……ん、だけ、ど……ごめんね」
ルリアがそう言って、申し訳なさそうに肩を落とした。
目を丸くするリウとレイシェに向かって、ルリアは深々と頭を下げる。
「どうしても、この場で教えたくて……期待させちゃったと、思うんだけ、ど……ごめん!! 本の中に入るのは、最終調整中で……本当は今日に間に合わせるつもりで、みんなで頑張ったんだけど……間に合わなくて。本当にごめん……リウなら大丈夫ってわかってるし、もし万が一のことがあっても、僕のこともレイシェのこともなんとかしてくれるんだろうけど……二人はお客様だから。秘書ちゃんの許可は降りなかったし……僕も、ダメだと思う……本当にごめん。話さない方が、良かったよね……」
「なるほど……安全上の問題ね。例え何も問題が無くても、私は国王で……レイシェはその友人。難しいでしょうね。……そんなに申し訳なさそうにしないで頂戴な。ルリアの気持ちも、そして事情も……よくわかるから」
『ええ。わたくしも、ちゃんと理解しておりますわ。友達に凄いものを共有し、自慢したい気持ちもわかります。事情は、今理解いたしましたわ。だから、どうかお気になさらず。また機会はあるでしょうから、その時にまた改めてお誘いしてくださいまし』
ルリアに優しい声でそう言い、二人は微笑んだ。
それにルリアは少し涙目になりながらこくりと頷き、最後にもう一度だけ謝罪の言葉を口にして、俯く。
数秒して、次にルリアが顔を上げた時にはその顔には明るい表情が浮かんでいた。
「うんっ。僕はもう大丈夫だよ! えっと、見せたいものはこれだけだから……もう、帰る? リウは、長くは時間取れないよね」
「……もう少しくらいは大丈夫。だから……ふふっ、折角なら体験したいものね?」
「えっ、いや、それは無理……」
「安全ならいいんでしょう? 私が一から組み上げて、再現してあげる。……それとも、私の腕を信用できない?」
にんまりと笑いながらリウがそう訊くと、ルリアはふるふると首を横に振った。
レイシェは無言のままに目を輝かせ、リウを見つめる。
「……や、でも、さ……やっぱりリウはお客さんなんだし……学園内だし……ダメじゃない?」
「むぅ……じゃあ、学園内じゃなければいいのね? そういうことよね?」
「えっ、いや、それは――」
「えいっ」
可愛らしい掛け声とともにリウがルリアとレイシェに触れた。
すると、一瞬だけ視界が暗転する。
しかし目の前の景色は、先程までのものと寸分も変わっておらず、珍しく失敗したのかと二人はリウを見る。
リウは、とても楽しそうにニコニコしていた。
「……失敗したのかな、って思ったでしょう。ふふん」
『していないんですの……? 景色は変わっていませんけれど……』
「ええ、そうでしょうね。景色は完全再現したもの」
「……え? ここ、違う場所なの?」
「ふふっ……ここは私が創った空間よ。それで、間取りを覚えて魔力で再現したの。本の中に入る魔法は今からちょっと新しく作るから、少しだけ待ってね。急ぐから。……ええと……なんとなく見えた限りだと、こんな感じで……ああ、なるほど。意識を肉体から引き剥がして……ふむふむ……となると……」
「ひ、引き剥がすとか物騒なことはしてないつもりなんだけどな……?」
物騒な表現をするリウにそう言い、ルリアが戸惑いながら周囲を見た。
どう見たって、周りの景色は変わっていない。
寸分違わず、先程までと同じ景色だ。
だが、ルリアは、リウにとってこれくらい造作もないことだということも知っている。
もうしばらくは遊びに来れるのだから、ここまで本気になる理由なんてないとルリアは思うのだが。
「……ねぇ、時間も掛かるだろうし、やっぱり後日に……」
「できたわ!」
「え!?」
「一応、現実では時間が過ぎないようにはしているけれど……念の為、短い絵本とかで……あっ、でも、絵本は持ってないから……作るしかないわね」
『作る……!?』
「よしっ。じゃあ早速行きましょう!」
「あっ、ちょっと待ってリウ! ……あっ!?」
一人で事を進めたリウが、ニッコニコの笑顔で魔法を発動した。
体調不良により、しばらく更新をお休みいたします。
よろしくお願いします。




