学園改造大作戦⑮
パラパラと、紙を捲る音がする。
「へぇ、魔人形の研究……中々良い線を行っているのね。これはレティが提供してくれたものかしら……あ、悪魔のことも載ってる。だから提供したのね。……ふむ、確かに……受肉の手段として、人形の身体に宿るのは無い話ではないものね。豆知識的な位置にはあるけれど、有益ではある」
『……あ! この資料、お兄様の名前がありますわ! 魔法の……』
「魔法!? ……んっ? それ……レインの名前なんてどこにも……」
『これですわ。これ、お兄様が良く使う偽名なんですの。綺麗なお名前でしょう?』
「……あいつ。わざと私には聞こえないようにしていたのね……」
嫌そうにリウが顔を顰めて呟いた。
今のレインには偽名など使う理由も無ければ、リウに隠すわけがないので、昔のことではあるのだろうがリウとしてはこれまでそれを隠し通されていたという事実が嫌で嫌で堪らなかった。
これはリウが提供したものではないが、魔法研究の資料などレインが用意した罠に違いないので。
ここに置いてある以上は、内容はちゃんとしているのだろうが。
「……はぁ。今度レインにこういう昔に罠目的で使ったもの、何か話していないことがあるか聞いておかないと……」
『お、お兄様がごめんなさい。お兄様に、リウがこういうことを知りたがっていたって伝えておきますわね。思い出して報告してくれると思いますわ』
「うん、お願いね。……あ、懐かしい。これ、私が書いた……こっそり書いた上に、大昔のものなのに。一体誰が……いえ、既に一度滅びた文明でのことだから……リアかしら?」
「うへぇ、そんなもの提供してたの? 大丈夫? ヴェルジア様に確認とか取った方がいいかな」
ルリアが顔を顰めてそう言うと、リウが少し考える素振りを見せた。
そして、少ししてからリウはふるふると首を横に振ると、安心させるようにルリアに微笑みかける。
「大丈夫よ、ルリア。魔法は、どの時代でも……何度滅びても、変わらないものだから。別に特別なことは書いていないし……偽名も使ってるから、置いていても大丈夫」
「ほんと? リウのことだし、無自覚にとんでもないこととか書いてない? 一応、確認はしてるはずなんだけど……心配」
「大丈夫だと思うわ。魔法陣の解析……読み取りに関するものだから。今はそれなりに、魔法陣の意味は専門家であれば読み取れるでしょう? ……それに……これ、リアの文字ね。たぶん、ダメなところは抜いて書き直してある。そうなると……恐らくは、ヴェルジアがちゃんと確認してあるから……うん、問題無いわ」
「……ヴェルジア様が確認したなら……大丈夫、かな。うん」
ルリアが少し不安そうにしながらもそう言い、ふぅっと息を吐き出した。
リウは当然のようにとんでもないことを口走ったりするので、とても心配だったらしい。
ずっと昔からの付き合いであるルリアには特にそれが顕著に現れているので、尚更ルリアは心配しているのだろう。
「……当たり前ではないことを、当たり前に言ってしまうことがあるのは……私の悪い部分ではあるけれど。……そんなに心配しなくても……私、常識が無いわけじゃないのに」
「知ってるよ。楽しくなると全部吹っ飛ぶんだよね」
『魔法のことを話している時のリウ……とても目を輝かせていて、楽しそうに笑って話していて……とても可愛いのですけれど……何を言っているのか何もわからないところが、難点ですわよね。リウに追い付くために必死になっていたお兄様ですら、完全には理解できないと仰っていましたわ……説明する理性があればいいけど、興奮が最高潮になっていたらどうにもできない、と』
「……ふぅぅ……っ、レイシェ……ルリア……! わ、わかってるから、その話はもうしないで……これでも努力はしてるの……で、でも、これまで一人で居たことが多くて、好きなことを話す機会も無かったからぁ……」
もじもじしながらリウがそう言うと、ルリアが小さく笑い、レイシェがその頭を撫でた。
そして、ルリアは苦笑いしながら言う。
「嫌ならもうしないよ。……ふっふっふ……資料室を楽しんでもらったところで、そろそろここの本命を見せちゃおっかなー!」
『本命……ですの?』
「ああ、やっと……! 来た時から感じ取って、気になっていたの! 大規模な魔法の気配がするわ! 実に精巧な魔法陣、緻密に計算された魔法……ふ、ふふっ、ふふふふふふっ……大悪魔全員で作り上げたのね?」
「うー、やっぱりリウにはバレちゃうんだなぁ……まぁいいや! じゃー起動!」
ルリアがそう宣言すると、資料室が光に包まれた。




