学園改造大作戦⑪
「来ちゃった♡」
「出てけ!!」
リウの部屋の扉を開け、猫撫で声でふざけたことを言うレインをリウが蹴り飛ばそうとした。
しかし、レイシェがその腕に抱えられているのを見て、直前でピタリと止まる。
「……」
「……」
「レイシェ、渡して」
「やだ。こんなにかわいいのに。ほら見て、照れてる」
『お、お兄様……リウのお部屋に行くのは、だめ……ですわ……』
ふにゃふにゃとした声で、それでもレイシェが制止しようとする。
甘やかされたのかなんなのか、ふにゃふにゃになっているレイシェを取り戻すため、リウは溜息を吐いてそっと腕を広げた。
そして、とびっきり優しく微笑むと、レイシェに語りかける。
「レイシェ、こっちにいらっしゃいな。ちょうど、レアが仕事に戻っていったから……今度はあなたに、膝枕をしてあげましょうね」
『リウぅ〜……』
「ええ、ソファーに行きましょうか。……こほん、それじゃあレイン……帰れッ!!」
リウが顔を顰めてレインを蹴り飛ばし、バタンッと勢いよく扉を閉めた。
嫌なものを追い払うことには成功したので、リウは上機嫌になってソファーを腰掛けると、レイシェに膝枕をした。
そして、いざ会議を再開しよう――というところで、ディライトがやってくる。
「リウちゃんリウちゃ〜ん、ちょっとお届け物〜」
「ん? ディライト……? 何……あ、私がレイシェに預けた紙。レインが持っていたの?」
「そうそう〜。じゃあボクは行くね〜。レインくんのこと、治癒してあげないと」
「……待ってディライト、治癒? あの、もしかして、私……」
「くふっ……嫌だったからってちょっとやりすぎだね〜。酷いところは骨がいくつか粉々になってた。ちゃんと見てないけど、肋骨辺りは全部最低でもヒビは入ってるんじゃない?」
「ご、ごめんなさい。そこまでするつもりじゃ……」
「伝えておくね〜、わざとじゃないよって。治癒はボクに任せて、リウちゃんは仕事の話に集中して。じゃあね〜」
ディライトがそう言って手を振り、扉から出ていった。
完全にやりすぎた、とリウが慌てていると、ルリアが咳払いをして妙な空気を払拭する。
「あー、リウ? えと……とりあえず、向こうは任せても良さそうだし。リウが気になるなら後で謝ればいいと思うから、とりあえず再開しよっか。ね?」
「……ルリアぁ」
「えっと、とりあえず、あの勇者からもらった紙確認しよっか。えーと……わ、凄い細かく書いてある」
「再現は……できそう……よね?」
「えーっと……専門家じゃないから詳しいことはわからないけど、行けると思う。たぶん。転移で送って、秘書ちゃんに確認してもらうね」
ルリアがそう言い、隅々まで紙を確認してから転移させた。
そして、秘書であるシーアに連絡を取っているのか、しばらく黙り込んでからこくりと頷く。
「よし、これで確認はお願いできたから……じゃあねぇ、実践授業の内容かな! 魔法関連は元から一応あったんだけど、折角だからリウにも監修してもらって内容を強化したい! それから……悪魔の契約の実践。魔力を貯蔵できる人形でもあれば試せるよね! 他の種族には、やりたい人だけ願いを叶えてもらう役をやってもらって……」
「ああ、そうね。悪魔の数は、きっとこれから先も減ることはあんまりないでしょうから……うん、いいと思うわ。悪魔側にとって悪質な契約もあるし、その辺りちゃんと教えないといけないしね」
「そうなんだよねぇ、ほんと困る! リウみたいに魔力がたっくさんある契約者なら無理矢理徴収できるからいいんだけどさぁ、魔力が少ないのに、必死に召喚して……それで契約しろって言われたって、無理だもん。身を削って働けってことでしょ! 文字通りさぁ! 代わりのものも用意してない場合とかっ、本当にもう!」
机をぺしぺしと叩きながらルリアが愚痴を吐き出した。
ちょくちょくそういう報告が来ているらしい。
悪魔が契約し、活動するには、贄が必要だ。
それは魔力であれ、人であれ、とにかく悪魔が動くための養分になるものが。
当然、それが無ければ悪魔は動けない。
だが、大抵の場合悪魔の契約という滅多に行われない儀式への理解度は低く、贄が用意されていない場合が多いらしい。
そうなれば必然、契約は完遂できない。
悪魔は無駄に召喚され、エネルギーを消費し、人はただ悪魔を喚び出すだけの無駄なことをすることになる。
最悪の場合は、魔力の徴収により、願いも叶えられないまま死ぬ人もいる。
「……悪魔の契約、その召喚で死ぬのはさ。こっちとしても、寝覚めが悪いじゃん」
「そうねぇ」
「だから……僕は、人にも悪魔の契約っていうものを、ちゃんと知ってほしい。契約はそんなに簡単に手を出していいものじゃないし、簡単に願いを叶えられるものじゃないから。……悪魔は、普通には人の世界を出歩けない。できないわけじゃないけど……シェイタンガンナで……僕の国で普通に、何の心配もなく出歩けるのは、あそこが悪魔の楽園だから。……そういうの、人にも知ってほしいんだ。だから、悪魔以外にも来てもらうって決めたんだよ。……リウは、この世界が……変わってくれると、思う?」
「……。……ふふっ。ええ……その努力を続ければ、いつかの未来、そうなると思うし、そうなってほしい。保証はできないけれど……応援しているわ。そして、なんだって、いつだって頼って頂戴な。……あなた、ちゃんと女王様、やれているのね。私にも頼らせてね、〝先輩〟」
からかい混じりの声でリウがそう言い、ルリアの頬を撫でた。




