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魔王様の隠し事  作者: 木に生る猫
番外編
1097/1102

学園改造大作戦⑧

 数日後、ルリアから魔法で寮の管理人の仕事内容を纏めた資料が送られてきたので、リウは洞窟に出向いていた。

 ルリア本人は、サボっていたことを少しだけ反省した結果、それを示すために執務室に閉じ込められているらしい。

 休憩こそあるが、無理矢理やらされるのは辛い、という愚痴の手紙が添えられていた。


「……さて、レイシェは……あっ」

「あ、リウ。……レイシェに用? 中にいるよ、入る?」

「ええ……そうするわ。……その、資料の書き写しの方はどう?」

「結構楽しい。というか、リウの頼まれごとってだけでなんでも楽しめるんだけど……普通に読んでて興味深い。僕は死んでから生まれ変わるまでに時間が空くからなぁ……どうしても集めきれなくて、読んでないのも結構ある」

「あ……そう? 苦痛でないのなら良かったわ。たぶん無いと思うけれど、渡した分を書き終わったら言ってね。新しいのを渡してあげる」

「うん、その時は言うね。……リウとしては、僕には苦しんでもらった方がいいんじゃないの?」

「わかっているくせに聞かないで。お前はみんなに誠意を示して働いて、それで償っていればいい。苦痛なんて与えて不安定になられでもしたら、迷惑を被るのはこっちなの」


 つん、と顔を背けるリウにレインが頬を緩め、扉を開けた。

 リウが溜息を吐きつつ中を覗き込むと、レイシェが紅茶を飲んでいた。

 どうやらのんびりしていたらしい。


『……。……あら、リウ? どうしましたの? ……あっ、もしかして……』

「ええ、ルリアから仕事内容の資料が送られてきたから。生憎、ルリアは来ることはできなかったのだけれど……」

『そうですのね……では、拝見いたしますわ。……ふむふむ……あら、結構なお金がもらえますのね……? 目安ですから、変動はするでしょうけれど……』

「ああ、それは……たぶん……わ、私が、凄くレイシェのことを褒めたから……かも、しれない……わね?」


 目を逸らしながらリウがそう言うと、レイシェがきょとんとした顔をした。

 リウはレイシェの知らないところで、レイシェのことを褒めまくっていたらしい。


『わたくし、リウに仕事をしているところとか、見せたこともありませんのに……? というより、仕事は今までしていませんわ』

「見ていればわかるもの。普段の生活からして手際がいいし……研究員たちの評価も、たまに聞いているわ。時々興味のあるものを覗いては、的確なアドバイスや指摘をしていくって。それで前進した研究もあるくらい」

「なにそれ知らない。レイシェ? いつの間にそんな研究員どもと交流を……?」

『お兄様、口が悪いですわよ。……主に……お兄様がお仕事に熱中していらっしゃる間に、ですわね。一度集中すると、声を掛けても中々気付かないのですもの。わたくしとしては、退屈で退屈で……だから、時々顔を見せに行っているのですわ』


 にこ、と微笑むレイシェにレインが呆気に取られた顔をする。

 全然、全く、気付いていなかったらしい。

 ちゃんと真面目に仕事に打ち込んでいる証拠でもあるので、リウは少し上機嫌になりながらぽんとレインの背を叩く。


「誰とも関わっていないより、ずっといいでしょう。じゃないと、レインに依存した状態になってしまうわ」

「僕は別にそうなってもお世話するけど……まぁ、そうならないに越したこともないか……教えておいて欲しかったけど……」

『それは……わたくしが共有し忘れておりました。申し訳ありません、お兄様』

「ああいや、別にそれで怒ってるわけじゃないから……びっくりしただけ。……ん、レイシェ、やっぱり喧嘩の仲裁やらないといけないんだね。怪我とか怖いなぁ……」

「補足説明の資料があるわよ。そこに、怪我をする恐れがある場合は、報告や後処理さえしてくれれば別の寮の管理人さんや、他の先生に任せてもいいって。ほら、こっち」


 リウがそう言いながら資料を手で示すと、レイシェがふむふむと頷きながらそちらにも目を通した。

 格式張った書類のような資料ではなく、あくまでもレイシェに向けたアドバイスらしい。

 ルリアが手書きしたらしく、丸い字でああするといいよ、こうするといいよ、なんてことを普段と同じ口調のまま綴られている。


『……とっても親切な方ですわね、ルリア様は』

「親切だからこれを作ったわけじゃ……いえ、そうね。ルリアは優しい子よ、仲良くしてあげてね」


 恐らくは仕事から逃げるために作ったのだろう資料に、リウがルリアが親切で作ったわけではないと言いかけて、やめた。

 優しいのは事実だし、わざわざそんなことを言わなくてもいいだろう。

 しかし、書類を作らなければいけないからという理由を付けて仕事から逃げたはいいが、ルリアの言う〝秘書ちゃん〟――シーアは、また別で仕事の時間を作ったのだろうな、とリウはルリアを憐れむ。


『……リウ。やっぱり、わたくし……学園で働こうと思いますわ』

「そう。じゃあ、ルリアに伝えておくわね。改装期間中だから、始まるのはいつになるか……私はまだ知らないのだけれど。まぁ、その辺り、その内説明に来るでしょうからのんびりと待っていてね」


 リウは微笑みながらそう言い、洞窟から立ち去った。

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