学園改造大作戦⑤
それから、城に帰ってきたリウは、自室でくつろぎながら考え事をしていた。
数日間学園のことを考えていて、流石にそればっかりに思考を占拠されすぎているので、今はレイシェのことを考えている。
レイシェの働く場所。
そもそもレイシェが今ここにいるのは、リウの我儘だ。
レイシェは、精霊に転生し、全ての記憶を失って生きることを、苦しく思いながらも受け入れていたのだから。
だから、レイシェにはちゃんとしたところで働いてほしい。
そんなことを思って、リウはぼんやりと空を眺めながら、レイシェに提供できる働き口は無いかと考えていた。
「……レイシェの……んん〜……」
「やっほーリウ! 元気?」
「ひゃっ!? な、何!?」
「わ……び、びっくりさせてごめん。大丈夫……?」
「あっ……え、ええ、大丈夫……その、ごめんなさい」
突然現れて元気よく挨拶をしてきたルリアにリウが驚くと、ルリアが驚いたような顔をして謝った。
それにリウは謝り返すと、咳払いをしてにこやかに笑みを浮かべ、首を傾げる。
「それで……どうしたの、ルリア。また学園のことで相談?」
「あ、うん。寮の増築をするんだけど、多種族用のはどれくらい用意すればいいかなって。募集してくれた?」
「あ……ええ、そうね。希望者が……十人くらい。まだ完全に周知はできていないけれど……最初だし、大幅には増えないと思うわ。多く見積もっても、集まるのは二十人くらいじゃないかしら」
「ん〜、そっかぁ〜……じゃあどうしよ……仮で完成だけさせといて、悪魔たちと一緒に……いや、十人しかいないのにそれも、ちょっと心配だよねぇ。うーん……秘書ちゃんに相談しよ。じゃあもう一つ相談、いい?」
「もう一つ? ええ、いいけれど……」
リウが頷くと、ルリアが困ったように眉を下げ、目を逸らした。
そんなルリアの様子にリウが不思議そうにしていると、ルリアは口を開く。
「そんな数しか集まってないのに、申し訳ないんだけど……寮の管理人も、リウの方で用意してほしくって。僕のところで用意すると、どうしても悪魔になっちゃうから。しかも大人……っていうか、結構強い悪魔になっちゃいそう……」
「ああ……学生がそれは……そうね、こっちで準備した方が良さそうね。具体的な業務内容は?」
「簡単に説明すると、諸々の事務と、それから寮生が門限を破ったりしたら叱ったりする役目。あまりに遅ければ探しに行ったりしてもらうよ。後は……所属してる寮生が喧嘩したりしたら、その仲裁とか? あとは他の寮の管理人との交流、かな。これはできればだけど」
「……それは……中々、条件が厳しくなりそうね?」
「てんこ盛りで申し訳ないけど、こうなっちゃう。どうかなぁ……? あっ、具体的な業務内容は書類に纏めてもらうから、できたら持ってくるよ!」
「強くて、悪魔にも物怖じしなくて、事務もこなせる人……尚且つ、転移があるとはいえ異国に……」
そんな人がいるのか、とリウが首を傾げた。
更に言えば、転職を考えているか、もしくは今働いていない人――なんてことを考えて、リウがあっと声を漏らす。
心当たりのありそうなリウにルリアが目を輝かせていると、リウはルリアの手を掴んで立ち上がる。
「えっ何!?」
「ちょうどいい人材がいるわ! 会いに行きましょう!?」
「会うの!? 僕も!? ちょっリウ、話聞いて――」
ルリアの言葉も耳に入っていない様子で、リウはルリアを巻き込んで転移をするのだった。
◇
洞窟に戻ってきたリウは、すぐに二人の家に向かうと、扉を開け放った。
「レイシェ〜〜〜!! いるぅ〜〜〜!?」
『リウ!? い、いますけれど……一体どうしましたの?』
「あっレイシェ! あのね、働き口を紹介したくって!」
「レイシェ? レイシェって確か、あの勇者の妹の……確かどこかで……あ! そうだ、舞踏会で挨拶したんだ! 久しぶりだね!」
『まあっ。お久しぶりです、ルリア様。ディーネ様にはいつもお世話になっておりますわ。……それで、リウ……働き口というのは……?』
「ルリアの国には学園があるのだけれど、そこは悪魔の学園でねっ。でも、多種族も受け入れることにしたから、新しい寮が必要で……そこの管理人が必要なの!」
「ご、ごめん! 今のリウ、なんかはしゃいでて、その……うぅ……一旦落ち着いてよ……」
大はしゃぎで説明するリウの手を引きつつ、ルリアがそう謝った。
リウはそんなルリアにきょとんとすると、ハッとして咳払いを挟む。
羞恥で頬を赤く染めつつ、リウが今度は冷静な声で言った。
「ええと……とにかく。学園の寮の管理人はどうかと思って。悪魔以外の所属する寮とはいえ、悪魔と接触することは多いでしょうけれど……あなたなら大丈夫だと思うから。もちろん、今決めなくて大丈夫よ。提案に来ただけだから」
「今度、詳細な業務内容を纏めた書類を渡すからね! 返事はその時でいいよ! あ、嫌なら今断るのは大丈夫!」
『……わたくしは……ぜひ、引き受けたいですわ。業務内容を知ってから、また判断は致しますけれど……今のところは、とても気になっていますし――』
「――国外なんてダメ! 絶対嫌! 行かないでレイシェ!!」
「……鬱陶しいのが来た」
部屋の奥から飛び出してきて、大声で言うレインにぼそりとリウが呟いた。




