学園改造大作戦④
その後、リウは謝ってきたレインを満足するまでシメて、そのままレインを足蹴にしていた。
嫌だった気持ちの分はお返ししたが、それでもまだやめないらしい。
からかわれて、とても拗ねている。
「痛い、痛いってばリウ、リウぅ……?」
「うるさい。置き物風情が喋らないで」
「口悪い口悪い、聞かれたらまずいよ。好きなだけ罵るなりしてくれて構わないけどちゃんと対策して……」
「……これは信憑性に欠けてる……こっちは難解過ぎ。これは……渡せる資料……」
「もう聞いてない……」
レインを足蹴にしながら資料の整理を行っているらしいリウにレインが悲しそうに呟いた。
一応、ここに人が来ることは滅多に無いが、ゼロというわけでもない。
国王として、その辺りきちんとしてくれないと心配で仕方が無いのだが。
『お兄様〜、戻ってまいりまし……た?』
「あ、レイシェ、おかえりー……とりあえずリウに遮音とか、あとは見られないように何か対策をするよう言ってくれない? 僕の話、聞こうともしてくれないから……」
『……もう、お兄様ったら。今回は何をしましたの……? リウ、リウ? わたくしの声、ちゃんと聞こえていますこと?』
「……ん、なに……レイシェ? お出かけでもしていたの?」
『ええ、少しお買い物に』
リウの言葉にレイシェはにこやかに微笑んで頷いた。
するとリウは優しく表情を和らげると、そっとレイシェを呼び寄せてその頭を撫でる。
「おかえりなさい。楽しかった?」
『とっても! 先日、お兄様がもう少しおしゃれができるようにとお小遣いを渡してくれましたの。ですから、今日はアクセサリーを買いに出かけていたのですわ!』
「あら、どんなものを買ったの? 見せて頂戴な」
『はい! 先ず、これが……』
「レイシェ? レイシェ?? ねぇ、僕まだ蹴られてるんだけど。本当に心配だから早く伝えて……」
『……あっ。そ、そうですわ……リウ、楽しいお話もまだまだしたいところではありますけれど、その前に……お兄様が、誰かに見られてしまうのではととても心配しておりますわよ。遮音や、見られないように対策をしてほしいそうですわ』
うっかりリウとの話に夢中になって忘れていたので、レイシェが慌ててレインの言葉をリウに伝えた。
きょとんとした表情をしたリウがレインを見下ろし、ぎゅっと眉を寄せる。
とても嫌そうな顔だ。
しかし、リウは何も言わずに息を吐き出すと、軽く腕を掲げた。
周囲が透明な膜に包まれ、結界が展開されたのがわかると、レインが安心したような表情を見せた。
「……ところで僕のことはまだ無視?」
「無視してないわよ」
「いやしてるよね」
「少し違うわ。聞こえていないだけ」
「……あんまり変わらないよね……?」
無視はしていないと無理な主張をするリウに、レインが困った顔をした。
そして、ずっと蹴られていた脇腹を押さえつつ立ち上がって、身体を伸ばす。
話してくれたので、もう許されたと判断したらしい。
リウはまだ拗ねていたが、やりすぎなのはわかっているので渋々何も言わずにただ目を逸らしておく。
「……これ、資料」
「あ、うん。作業しておくね〜」
レインがそう言って資料を受け取り、室内へと向かった。
その背中を見送って、レイシェがきょとりと首を傾げる。
『リウ? お兄様に何か新しい仕事でも……?』
「ええ、それで来ていたの。一時的だけれど。大丈夫、ちゃんと報酬は用意するから」
『……お兄様って、一応は奴隷……ですわよね? そんなにぽんぽんとお金を渡してしまって、いいんですの……?』
レイシェがそんなふうに確認をすると、リウがきょとんとした表情を見せた。
そして、すぐに微笑むと、少しだけ悪い顔をして言う。
「レイシェ。あなたは少し、勘違いをしているわ。確かに私は、報酬としてお金を渡しているけれど……薄給も薄給。相手が奴隷でもなく、レインでもないなら、とっくに逃げられているわね。ふふ」
『まぁ……お兄様、そんな素振りも見せませんのに』
「生活費は別で出しているけれどね。レインが個人的に使えるお金は、報酬分のお金だけ。上手くやりくりしてレイシェにお小遣いを渡したりしているんでしょう。……私があげているのに……」
『……わたくしもそろそろ……一人で外出するのも許可してくださるようになりましたし、働かないといけませんわね。せめて、お小遣いを渡されないようにしませんと』
「私は渡すけれどっ。働かなくてもいいのよ? 生活費あげてるし。あとディライトが野菜とかくれるから……料理も、マリーツィアは天界のものを使うときもあるし」
負担になるほど生活費が嵩んでいるわけでもなく、迷惑でもなんでもないのでリウがそう言うが、レイシェはふるふると首を横に振った。
そして、両手で握りこぶしを作って言う。
『そんなわけには参りません。ちゃんと働きますわ!』
「……レインが作った薬の分で、むしろ前よりお金入ってきてるのに……奴隷だから贅沢させるわけにはいかないだけで、全部あげたら贅沢三昧できるくらい」
『そんなものは必要ありませんわ。大丈夫です、わたくしのためですから。あっ、でも、良い働き先があれば紹介してくださいましね!』
レイシェがそう言うと、渋々といった様子でリウは頷くのだった。




