ifストーリー 楽しい学園生活㉙
まだ時間があるので、お家デートを満喫している最中。
ソファーで隣同士に腰掛けていたのだが、リアがふと立ち上がり、もぞもぞと自分の身体をヴェルジアの腕の間にねじ込み、膝の上に収まった。
ヴェルジアはスマホを下ろすと、微笑みながらリアの頭を撫でる。
「どうしたの? あ、スマホばっかり見ちゃってたかな」
「……し、嫉妬じゃないですよ。無機物に嫉妬は……しません」
「ん……ふふ、そうなんだね。そっかそっか……寂しかったね」
「ち、違うと言っているでしょう! もう、ヴェルジアさんったら……そ、それで、何をしていたんですか?」
「ああ……植物増やそうと思って。何育てようかなって、色々情報見てた。ごめんね、今はリアに構うべきだったね?」
「からかっていますよね! 違います!」
耳先を赤くしながら必死に嫉妬していないことにするリアをからかいつつ、ヴェルジアが軽く息を吐き出した。
そして、近いからとりあえず降りてもらおう、と口を開きかけて、リアがやけに赤い顔をしていることに気付く。
「……どうしたの、リア? 赤くなって……暑い?」
「……ヴェルジアさんは……この状況に、何も思わないんですか?」
「ん……? 近いなーって思うかな。それが?」
「……ヴェルジアさんのばかぁ。こ、こんなに恥ずかしかったのに……効かない……」
「……。……色仕掛け?」
「!?」
図星だったのか、ヴェルジアの呟きにリアが大げさに肩を跳ねさせた。
どうやら恥ずかしいのを我慢して至近距離まで行ったものの、効かないどころか気にする様子もなく、思わず悔しがってしまったらしい。
言わなければバレなかったのに、なんてことを思いつつ、ヴェルジアはリアを膝から降ろす。
「何度も言うけど、僕はリアが大人になるまで、ずっと待つつもり。だから、そんなに逸らなくていい」
「……うぅ……だって……ヴェルジアさん、私を子どもみたいに扱うでしょう。対等に見られていない感じがします」
「一応は、恋人関係だよね。つまり僕は、君を異性としては見てる」
「ぅ……は、はい」
「だから、対等に扱えないんだよ」
「……え?」
「対等に扱っちゃダメなんだよ。付き合ってるけど、大人になるまでそれらしいことはするわけにはいかないから。リアが大人になるまでは、大人と子どもっていう構図を崩さない」
「……万が一のことが無いように、ですか? 間違いがあっちゃいけないから……」
「大体そういうこと。だからリアも……」
ぷく、とリアが頬を膨らませるので、ヴェルジアが途中で言葉を止めた。
明らかに不満がある顔に苦笑いしつつ、ヴェルジアは引き続き頭を撫でてリアを宥める。
「そんな不満そうにされても……リアの両親とも約束したことだし」
「いつの間にそんな約束を……むぅぅ……」
「……ああ、そうだ。リア、もう一年もせずに高校生になるでしょ。このまま高等部に上がることになる……のかな」
「えっ? あっ、はい……そのつもりです。でも、それがどうかしたんですか?」
「高校生になったら、もう少し遠出してもいいって言われてるんだよ。日帰りだけど……それこそこの前海に行ったみたいに、ちょっとした旅行なら」
「ヴェルジアさんと旅行……!?」
リアが頬を押さえて目を輝かせた。
そして、嬉しそうにニマニマと笑い、ヴェルジアを見上げる。
「……あ、あの。それって、二人きりで行っても……?」
「言っておくけど、日帰り旅行だけだからね。あと……二人きりって言っていいのかなぁ。うーん……」
「……姿を現さず、邪魔をしないのでしたら、例え家の人……護衛さんがいても二人きりと判定します」
「じゃあ二人きり。一応どこに行くにしても護衛が必要な立場だからね、リアって……はぁ、なんで昔の僕は折れちゃったんだろう」
「あまりにも真剣で、必死で――と、昔のヴェルジアさんは言っていましたよ? 押し切ったのは申し訳ないと思いますが、後悔はありません! 何より今は両想いでしょう、どうしてそんなことを言うんですか!」
「時々凄く申し訳なくなるからだよ。リアに対しても、リアのご家族に対してもね」
困った顔で言うヴェルジアに、リアはきょとんとした顔をした。
そして、同じように困った顔をすると、優しい声で尋ねる。
「どうしてですか? ヴェルジアさんが折れるまで、お付き合いしましょうと言い続けたのは私です。それなのに、ですか?」
「それなのに、だよ。僕が、リアの将来を奪ってしまっているんじゃないかって思ったらね……僕と出会っていなかったら、リアはリアに見合う家に嫁ぐなりしてたんでしょ。それが……僕みたいな一般人に心を奪われたせいで。ふふ……笑えない現状だよ、本当に」
「……。……ヴェルジアさんは、一つ勘違いをしています。私の家族が一番私に望んでいることは、私が幸せであることです。他は二の次。関係構築や維持のために嫁ぐなんて、以ての外ですよ。私に見合うところ……となると、その辺り必ず絡んできますからね。……だから……ふふ」
リアはそこで言葉を切り、微笑んだ。
そして、嬉しそうにヴェルジアの顔を眺めながら言う。
「だから、私がヴェルジアさんの人生を奪っているんです。ずっと年下の私が成人するのを待っているヴェルジアさんが、貴重な時間を奪われているんです」
「……なんかぞわっとした。やめてよ……」
「ど、どうしてですか!? ヴェルジアさんは悪くないって伝えたかっただけなのに……」
「言い方がおかしいでしょ。……人生だけじゃなくて、結果的には心まで奪われたわけだから……いくらでも待てるけどね」
ヴェルジアの言葉にリアが頬を赤らめ、俯きながらもこくりと小さく、嬉しそうに頷いた。




