ifストーリー 楽しい学園生活㉖
それから、車はリウとリアの自宅に到着した。
すると、起きていたリアはリウを起こし、レインもレイシェは見送りくらいはしたいだろうと起こす。
レイシェの方はすっと目覚めたのだが、リウはダメだった。
「お姉さま、お姉さま。お家ですよー、起きてください。……お姉さまー? 叩いて起こしちゃいますよー。……えいやっ。……あー、起きない……」
ぺちぺちとリウの頬を軽く叩いたりしてリアがリウを起こそうと試みたものの、リウは起きてはくれなかった。
起きそうになる素振りもなく、これは助けを呼んで運んでもらうしかないか、と息を吐く。
「起きないの?」
「はい。なので、お父様でも呼んで……」
「リアがいいなら僕運ぶけど。レイシェかリアが運ぶのが一番いいんだろうけど……」
父親を呼ぶ、という発言からしてリアでは厳しい。
となれば、力量はそこまで変わらないレイシェでも難しいだろう。
なら、人を呼ぶかレインに頼むかの二択だ。
「……ダメです。呼んできます」
「そっか。じゃあ、お土産とか運ぶね? 玄関先でいいかな。あ、じゃあついでに人も呼んでくるから、軽いもの……駄菓子とか自分の荷物とか持っておいでよ」
「わたくしも手伝いますわ!」
「あ、ありがとうございます。でも、私一人でも……」
「えっと……こっちがリアのだよね。で、こっちがリウで……うん、両方持てそう。二人は他の荷物お願い」
「あ……行っちゃいました。仕方無いですね……あ、あれ、レイシェ? 私も持ちます!」
「わたくしにお任せくださいまし。リアだってお客様なのですから、休んでいていいんですのよ」
慌てながらリアが何か一つでも運ぼうとするものの、レイシェは運ぶと言って聞かず、そのまま玄関に到着してしまった。
「あああっ……運ばれた……」
「どうしてそこまで嫌がるんですの……?」
「ありがたいですが、申し訳ないじゃないですか。私のものなんですから、一つくらい……」
「おや、リア。おかえり、レイシェは久しぶりだね」
「お久しぶりですわ、おじさま。リウがまだ眠っていて……運んで欲しいのです」
「ああ、レインから聞いたよ。行ってくる」
「お父様……良かった、お仕事じゃなかったんですね。お姉さまをお願いします!」
リアがそう言って父親であるレクスを見送り、レイシェに向き直った。
そして、微笑みながらお礼を言い、レイシェに抱き着く。
「運んできてくれてありがとうございました。今日のお出かけ、すっごく楽しかったですよ!」
「まぁ、リアったら……珍しいですわね、抱きついてくるだなんて」
「ダメですか?」
「いいえ、とっても嬉しいですわよ。……でも……もしかして、わたくしたちと遊べて楽しかったから抱きついてきているのではなく……恋人さんが喜ぶ姿を想像して、嬉しくってどうしようもなかったのでは?」
「うっ、ど、どうしてわかるんですか! いえ、楽しかったのは本当なんですよ! 本当に本当に楽しかったです! ……ただ……想像したら、感情が抑えられなくて」
眉尻を下げながらリアが言うと、レイシェがくすくすと笑った。
そしてリアの頭を撫でると、身体を離して言う。
「わかっておりますわ。リウがいたから目立っていなかっただけで、今日のリアはとっても楽しそうでしたもの。……さて、わたくしはそろそろ車の方に戻りますわね。リウのことを見送ったら、帰りますわ」
「あ、そうですよね。……でも、あれ……レインさんは?」
「ここにいるよ。奥様に捕まってた」
「レインさんって、私たちのお母様のこと奥様って呼ぶんですね。前はおばさまって呼んでいましたよね?」
「うん。でも、ほら……立場的に……僕は将来的に父上の座を受け継ぐし……その場合、この家との繋がりは大事にしたいから。失礼な呼び方はできないよ」
「……道理で、最近お母様が、レインさんからおばさまって呼ばれなくて寂しいって言ってるんですね……」
「…………今度、どっちがいいか確認する。はい、この話は終わり! レイシェ、車の方に……あっ」
リウの姿が見えて、レインが言葉を止めた。
どうやら会話をしている内に目が覚めたらしく、レクスに支えられながらよたよたと歩いてくる。
「娘たちが世話になったね。何かトラブルは無かったかい?」
「あー……そうですね、ありませんでした。楽しそうでしたよ。ね、リウ」
「……たのし、かった……よ? ふふ……リアぁ〜……」
「はい、ここにいますよ。一緒に入りましょうね」
「では、わたくしたちはもう行きますわね。また今度、リウ」
そう言ってレイシェが離れると、リウが眠たそうに目を擦りながら手を振った。
数秒ほどレイシェの背中を眺めてから、レインも息を吐いて動き出す。
数歩進んでからレインが振り向くと、リウが手を振ってきていた。
目を丸くするレインに、リウは言う。
「また、ねぇ〜……」
「……うん、またね」
レインはまだ寝ぼけているリウにそう返し、踵を返すのだった。




