ifストーリー 楽しい学園生活⑳
今回の試食会は、レインの父の会社、その子会社の一つが運営する、海の家の管理者が主催したものである。
新しい海の家のスイーツを開発したので、実際の海の近くで食べてみてどうなるかの感想が欲しくて、今回の試食会は開催された。
もっとも、主催者とてこんな雲の上の人に四人も会うことになるなんて、想像もしていなかっただろうが。
「さて、説明してなかったことがあるから、そこも説明しておくね。先ず、ウチの会社が経営してる海の家だけど、一般向けではないんだ。それなりにお金を持ってて、だけどプライベートビーチなんてものは持ってない、っていう層向けに貸し出してるビーチにある海の家。基本はビーチごと貸し切りで、まぁお客さんはそれなりに地位のある人になる。要するに、スイーツもそこそこ高級ではある。リウの口に入れるにはちょっと質が悪いけど……食材を変えるわけにもいかないし、まぁ許容範囲ってところかな」
「ふぅん。それって需要あるの?」
「まぁまぁ儲かってるみたいだよ。景色良いところだし、有名人だとほら……人目を憚らずに遊べるからね」
レインがそう言って肩を竦め、三人に目を向けた。
レイシェはこくこくと頷いていて、リアはあまり興味が無さそう。
リウは、少し楽しそうにしながらじっと話を聞いていた。
「で……まぁ、とにかくそれなりの地位の人が客として来るから、それに相応しいかどうかを評価に入れてほしいんだよね。舌が肥えてるから、多少酷評にはなるかもとは言ってあるから、あんまり気にせずに評価してね。あ、はいこれ、紙。直接言うのはちょっと……ね? だから、少しでもマシになるように準備してきたんだ」
「……項目がたくさんありますね。ここに評価を書けばいいと……ふむふむ。……わざわざ作ってきたんですか?」
「うん」
「えっ……? もう、お兄様ったら! 言ってくれたら手伝いましたのに!」
怒ったようにレイシェが言うと、レインが目を逸らした。
どうやら、こう言い出すとわかっていたから今日まで黙っていたらしい。
レインはぷくりと頬を膨らませているレイシェの頭を撫でて宥めると、厨房の方へと視線を向ける。
するとちょうど、試食会のスイーツが運ばれてきた。
「お待たせいたしました。こちら、クッキーサンドアイスです」
「あら、美味しそう……!」
アイスを挟んだクッキーが運ばれてきて、リウが目を輝かせた。
待ち切れない様子でスイーツの説明を聞き、それが終わるとリウは慎重にそれを口に運ぶ。
「ん……! お塩の効いたクッキーなのね。美味しい! どちらが強すぎるということも無いし……うん……! もっと食べたいくらいだわ!」
「喜んでもらえて良かった。本当に甘い物好きだよね」
「リア、リア! 早くリアも食べてみて!」
感想を言い合いたいらしく、リウがレインをガン無視してはしゃぎながらリアに早く食べるよう催促した。
溶けてしまうのも勿体ないので、言われた通りにリアが口を運ぶ。
「美味しいですね。中は、見た目通りのバニラアイスですけど……拘っているのは感じます。……なんとか、ヴェルジアさんにお土産として持っていけないでしょうか……」
「たぶん、必要な分しか用意していないと思いますわ。残念ですけれど……また次の機会があればになりそうですわね」
「そうですか……そうですよね。残念ですが、仕方がありません」
「うぅ……もう無くなっちゃった……少ない……これ、試食用の量?」
「うん。昼食もあるのにそんなたくさん食べさせるわけにはいかないでしょ?」
次があるかもわからないスイーツなので、リウがしょんぼりと肩を落とした。
しかしすぐに気を取り直すと、ペンを手にしてすらすらとこのスイーツを評価していく。
「うわ、あんなに褒めてたのに酷評……」
「批評と言って。もちろん美味しかったけれど、その上でもっと良くできるはずなのにできていなかったところがあるというだけの話よ。指摘をすれば、きっと改善に努めてくれるはずでしょう? もしかしたら次は無いかもしれないけれど、美味しいものは少しでも多い方がいい。私が食べられなくてもね。本当に美味しかったから、こう書いたの!」
「あー、うん……良いところも忘れずに書いてあげてね……?」
「もちろん! ええと……何から書こうかしら……」
リウが楽しそうに足を揺らしながら紙に感想を書いていき、ペンを置いた。
リウよりも先に他の三人は感想を書き終わっていたらしく、既にペンを置いていた。
するとすぐに次のスイーツが机に置かれ、全員が美味しそうにそれを口に運ぶ。
「美味しい?」
「美味しい! 誘ってくれてありがとう、今すっごく幸せよ! レインもほら、早く食べなさいな!」
「食べるけど。楽しんでくれてるみたいで、本当に良かったよ。ほら、改善点色々書いてるから心配になって……」
「美味しいのは本当だって言っているでしょう。これも美味しいわ」
「……そっか」
本当に幸せそうに微笑むリウを見てレインが苦笑いし、それでも淡々と改善点を指摘はするのだろうな、と思いながらスイーツを口に運んだ。
 




