ifストーリー 楽しい学園生活⑮
五日後。
海に行く日がついにやって来て、リウとリアは家の中で迎えが来るのを待っていた。
「……お姉さま、大丈夫ですか?」
「……うぅ……スイーツに釣られた……」
「ああ……凄く釣られていましたね。後悔してるんですか?」
「少しだけ……でも、スイーツは楽しみよ。試作とはいえ、悲惨な出来のものはレインにだって食べさせられないでしょうから。……そろそろ、時間ね……荷物の最終確認をしておかないと……水着と、飲み物……暑さ対策……日焼け止めも持ってる。あとタオル……ちゃんとある。……こうなったからには、ちゃんと楽しまないと。リアもちゃんと確認した?」
「しました! 使用人がチェックリストを作ってくれたので、完璧ですよ!」
「荷物を全部ひっくり返して確認とか、していないわよね?」
「私をなんだと思っているんですか!?」
時々うっかりやらかす愛しい妹、と心の中でだけ答えつつ、リウが沈黙を貫いたままその頭を撫でた。
ふわりとリウが微笑んで、リアと手を繋いで息を吐き出す。
正直なところ、レインに水着姿を見せることになるのは、嫌である。
元々リウは露出の多い水着は絶対に着ないが、それでも嫌だし恥ずかしい。
どうして行くと言ってしまったのだろう、と今更かつわかりきった問いを自分の中でまた繰り返して、リウが目を伏せた。
と、その時、家のチャイムが鳴る。
「リウ様、リア様。レイン様とレイシェ様のお二人が迎えに来られました」
「あっ……ええ、すぐに向かうわね! リア、ちゃんと荷物は持った?」
「大丈夫ですから! 早く行きましょう!」
ニコニコと微笑みながらリアがそう言って、リウの手を引いた。
パタパタと玄関から出ると、そこにはレインが立っている。
車の中からはレイシェが手を振っていた。
「おはよう。荷物は持つね」
「盗聴器とか、仕掛けない……?」
「僕をなんだと思ってるの。やらないよ、後が怖いから」
「理由……はぁ、まぁいいわ。はい、落とさないでね?」
「もちろん。リウの荷物を落としたら……僕は……」
「別にその程度でもっと嫌ったりはしないから、戻ってきなさい。闇落ちしたみたいな顔になってるわよ」
「え、本当? 嫌いにならない?」
心底意外そうな顔でレインがパッと俯かせていた顔を上げると、リウが頷いた。
そして、運転手に軽い会釈をしてからレインに顔を戻して微笑む。
「だって、これ以上嫌いになりようがないほど嫌いだもの」
「ゔっ……り、リウぅ……うー……の、乗って、いいよ。……お手をどうぞ……」
「ん、ありがとう」
「リアも……」
「そんな風に紳士的なだけなら、お姉さまも……お付き合いは拒否するでしょうけど、嫌いにはなっていなかったはずなのに」
「リア、レイシェの隣に座らない?」
「そういうところですよ。……というか、この車って……」
リアが小さく呟いて、レイシェと目配せをした。
レイシェが小さく頷き、隣の席に移動する。
それを確認してから、リアはリウの隣に乗り込んだ。
すると、外から悔しそうな、悲しそうな声が聞こえてくる。
「レイシェ!? さ、さっきまで、こっちの席だったのに」
「煩悩に塗れたお兄様のお願いは聞けませんわ」
「……うぅ。はぁ、わかったよ……どうせ対角線上にいるんだし、いいや……実質隣。実質隣、だから……」
そんな声を聞きながら、リウはお行儀良く座りながらきょとりと首を傾げる。
時々鈍い時があるリウに、リアは苦笑いしながら言った。
「この車、確か座席を回転させられるはずです。今か、もしくはどこかで休憩するのか……どこかで回転させて、無理矢理隣に座るつもりだったんだと思います。なので、レイシェにちょっとずれてもらいました。これで、回転してもお姉さまはレイシェの隣ですよ」
「そ、そうだったの? ありがとう、リア……レイシェも。隣は嫌だから。鬱陶しいもの」
「鬱陶しくないよ! 無害だよ!」
「執拗に手を繋ごうとしたり、顔を見てきたり、鬱陶しい」
「……全員の顔を見て話せるように、座席の向き変えるね!」
レインがそうゴリ押して座席の向きを変えた。
リウとしては癪ではあるが、操作の権限は向こうになる。
一応、海そのものは楽しみなので、険悪ムードにもならないようにとリウが溜息だけを吐き出した。
座席の回転が終わり、全員が座り直すと、車が出発する。
「リウ、今日の格好も可愛いね。涼しそうなワンピース……ノースリーブって珍しいね?」
「……絶対似合うから、って……その……使用人に……押し切られて。潮風に吹かれてきてください、って。……本当に、似合ってる……?」
「似合いすぎてその使用人を褒め称えたい。天才なんじゃないかな」
「私は写真撮影を頼まれました。景色の良いところってありますか?」
「そうだな……どこでも景色は結構良いし、様にはなるだろうけど……あ。砂浜の手前に、ちょっと高台になってるところがあるんだ。海も空も良く見えるし、いいんじゃないかな。着いたら案内するよ」
レインがそう言い、談笑しながら四人は海へと向かった。




