レイン、行動を禁止される⑨
それから、一週間ほどして。
レインは未だ、魔力の器の修復を受けていた。
「……リウ。貸してもらった本、読み切っちゃった……暇……」
「ん。じゃあ、それは返してもらって、新しい本をまた貸してあげる。……修復自体は、今日で……うん、できた」
「え? 本当? 動いていい!?」
「仕事はダメ。動くのもここの中だけね。まだ不安定だから、魔力が多少揺らぐだけでも破れかねないわ。だから本を貸してあげるの」
「え〜……はぁ、わかった。でも、普通に椅子に座ってご飯とか食べたりするのはいいんだよね?」
「ええ。ただ、動けるようになったからってはしゃぎすぎないように。破れたらまたこの生活に逆戻りだから」
リウがそう言うと、レインが頬を引き攣らせた。
そしてこくこくと頷くと、ゆっくりと慎重に身体を起こし、そっと床に足を付ける。
「久々でしょうし、一応見守るわね。歩ける? 補助がいるなら、レイシェを呼んできましょうか?」
「いいよ、呼ぶならディライトでいい。レイシェはお昼寝中なんでしょ。いるかどうかは、やってみないことには……ん……」
「まぁ、そうね。……大丈夫?」
「違和感がありすぎて気持ち悪い。なにこれ」
「ずっと歩いてなかったからでしょう。筋力も落ちてるでしょうし」
「あ……そうか。うわ、やだなぁ……ちょっと、一瞬だけ手借りてもいい?」
「……下心が無いなら」
じっとりとリウがレインを睨みながら言うと、レインはそんなリウを見つめ返した。
そんなことは考えていません、みたいな顔をしているが、信用できずにリウが黙り込む。
そういう顔をしておいて、普通に全然下心があるのがレインである。
今は体調も悪くないので、とてもわかりづらくなっておりリウが眉を寄せる。
「は〜いは〜い、レインくんはボクと手繋ごうね〜」
「あっ」
唐突に手を握られてその手を引っ張られ、レインが小さく声を上げた。
そこ瞳が少し残念そうな色を見せたので、リウがやっぱりと唇を尖らせる。
「も〜、リウちゃ〜ん? 疑ってないでさっさとボクを呼んだ方が早いのに〜……」
「あ……そうね。別に、嫌だからって拒否すれば……」
「それ、僕傷付くんだけど?」
「別にいいわよ。お前が嫌がったところで意味なんてないし、傷付いても関係ないから」
「体調不良の内は優しかったのに、二人して酷い……」
「ほら、レインくん? 手が借りたかったのは本当なんでしょ、とりあえず歩いてみるよ〜?」
「あ、うん」
ディライトの言葉にレインが頷き、そっと一歩踏み出した。
寝込んでいて筋力が落ちたせいか、歩けないことはないがやはり違和感が凄まじい。
ついレインがディライトの手を握り込むと、ディライトが振り返った。
ぎゅっと顰められた顔を見て、ディライトがじっとレインが落ち着くのを待つ。
「……っ、……ふぅ。……感覚が違いすぎる……」
「本当に動くのは許されてなかったからね〜。でも、一週間ちょっとでそんなに〜……?」
「普通に消耗したんでしょう。魔力の器の損傷に、応急処置のためとはいえ相性が良いとは言い切れない私の魔力を受け入れて……エネルギーをたくさん使ったから」
「……ちょっと慣れてきた。そろそろ一人で歩けると思う。……ん、やっぱり」
レインがそう言って軽く頷き、ディライトから手を離した。
そして、ゆっくりと歩いて調子を確かめてから、リウを振り返る。
「ありがとう。治って良かった。……でも、僕のこれって……僕の魔力が多すぎたのが原因なんだよね? 大丈夫なの? またああなるのは嫌なんだけど……」
「ああ、そうだった。――はい」
リウが小さな箱を手渡してきたので、レインが首を傾げた。
そして、蓋を開けてみると、そこには水晶がたくさん入っていた。
底には魔法陣が描かれており、条件付きの転移を行うためのものに見える。
「……これは……あ、リウが魔力貯めるのに使ってたやつ?」
「そう。魔力を貯められるから、そうね……週に一回くらい、これに全部の魔力を込めなさい。全部を薬作りに充てられると、たぶん洞窟に満ちてる魔力が尽きちゃうから。魔力が入れられた水晶はこの魔法陣が判別して自動で私が持ってる箱に転移させられるから、こっちで自由に使わせてもらうわ。いい?」
「もちろんいいよ。ありがとう、こんなことまでしてもらっちゃっていいの?」
「しょっちゅうこんなことになられたら、私の時間も取られるし……気分も落ち込みやすいでしょうから、私としても困るの。気にしないで。……ああ、そうそう。全部の魔力を込めるようには言ったけれど……一気に入れたりはしないようにね。流石に壊れちゃうかもしれないし、何よりそれはそれで負担が掛かるから。魔力を込める期間も、自分の感覚で調整してくれていいわ。箱の中身、たまにはこっちも確認するから」
だから、サボらないように――と、そんな意志を込めてリウがレインを見て、くすりと微笑んだ。
レインがそれに頷いて、大切そうに箱を抱え込む。
「……リウからの贈り物……」
「没収するわよ」
「それしたらリウも困るよね!」
「随分と調子に乗っているわね。鎖でベッドに拘束して、もう一週間寝たきり生活を送ってもらいましょうか」
「ごめんなさい……」
レインがぷるぷると震えながら言うと、リウが満足そうに微笑み、去っていった。
それからレインは少しずつ今の状態に慣れていき、以前の状態へ身体を戻す作業を始めるのだった。
これにて『レイン、行動を禁止される』は終了です、ありがとうございました!
次は学園生活を書きます。
絶賛ネタ切れ中ですが、のんびりとした平和な生活を書く……かな?




