レイン、行動を禁止される⑦
「……ぁ〜」
レインが小さな呻き声を上げて、視線を少し横にずらした。
するとそこには頭痛を堪えるように頭に指を当てているリウがいる。
「……リウぅー……」
「はいはい、ちゃんといるからそんな声出さない。……はぁ……普通に風邪ね。薬飲みなさい。あるのでしょう?」
「…………取って……死ぬ……」
「死なない。今レイシェが水と薬持ってきてくれているから、もうちょっと我慢しなさい。……原因は……普通に身体が弱ったから、かしらね。まぁいいわ、安静にしてればすぐ治るから」
「レインく〜ん、果物切れたよ〜。自分で食べれ……なさそうだから口開けてね〜」
「…………自分が情けなくて……死にそう……本当に風邪ぇ……? っ、けほ」
「少なくとも、今はまだそうとしか判断できない。悪化したらわかるかもしれないけれど。ほら、果物でも食べて薬飲んで寝なさい。修復は寝てる間にでも進めておくから」
「……ぁい……」
返事にもなっているのか怪しい声を漏らして、レインが口を開けた。
すると口元に果物が差し出されるので、レインはなんとかそれを口で受け取る。
「……ん。おいひい……ありあと……」
「うんうん、飲み込んでから喋ろうね〜」
「……ん、ぐ。……うん……」
レインが軽く頷き、ゆっくりと息を吐き出す。
身体が弱ったせいか、風邪を引いてしまったらしくレインは熱を出していた。
ふわふわとして頭が働かず、レインは嫌そうに顔を顰める。
『お兄様っ、薬とお水を持ってきましたわ!』
「……ありがと、レイシェ……うぅ……」
『く、苦しそうですわね。果物を食べ終えたら、すぐに飲みましょう』
「……うん……わかってる……」
レイシェが心配そうにレインを見て、そっとその頭を撫でた。
そして、移ってしまうとレインが自責の念に駆られそうなので、そっと部屋の端に移動する。
「レインくんって〜……身体弱かったりするの〜?」
「……この身体は、少しだけ……ちょっと風邪引きやすいくらい、だけど。……ぅあ、喉痛いぃ……」
「あ〜、あんまり喋らせない方がいいかな〜」
レインが喉を押さえて痛がるので、ディライトがそう判断して淡々とレインに果物を食べさせた。
その後、薬を飲んで眠りにつき、夜。
レインが目を覚まし、喉を押さえた。
「……けほっ……暗い……夜……? ……喉、乾いた……けほっ、げほっ」
レインが咳をしながらゆっくりと身体を起こし、ふらつきながらもベッドから降りた。
とても、とても喉が乾いて仕方が無かった。
誰かに持ってきてもらうのが一番いいのだろうが、こんな時間に起こすのも忍びない。
少しくらいなら大丈夫だろう、とレインが音を立てないようにそっと移動する。
「……み、ず……水――……」
ふら、とレインが姿勢を崩し、床に倒れ込んだ。
意識はあるものの、思うように動けずレインがぼんやりと虚空を眺める。
ふと目の前に魔法陣が現れて、そこから小さな人影が飛び出してきた。
「レインくん!? な、何してるの!? バカ!?」
「……水……」
「水ぅ? 部屋に水差しとコップあるのに……いや、あれレインくんは寝てて聞いてなかったんだっけ? あーもういいや、とにかく一旦戻らせるからね」
ディライトが怒りながらそう言い、レインに触れた。
そして部屋に転移させると、自分は水を準備してから部屋に向かう。
転移されてベッドに沈むレインは、酷い顔色をしていた。
「……リウちゃんもレイシェちゃんも怒りそうだなぁ〜……まぁいいや。レインくん、自分で飲める?」
「ん……あり、がと。……ふぅ」
「な〜に〜? 喉が渇いたから移動したの〜? 動いたら悪化する〜って言われてるくせに〜?」
「……失念、してた。……水、飲みたくて……」
「暗いし体調悪いし水分不足だし、視界が狭くなるのはわかるんだけどね〜。ボクのこと、小声でいいから呼んでくれたら駆けつけたんだけど〜?」
「……だって……寝てるかも、しれなかったから」
「だってじゃないよ、ボク睡眠の必要は無いし。というか寝てたら対応できないから寝てないよ、ボク眠り深いもん。起きれない」
「……」
レインが無言で目を逸らした。
そんなレインをじっとりと睨み、ディライトがレインの額に手を当てる。
「熱は〜……ちょっと上がってる、かな? 魔力喪失の方はボクにはわからないけど〜……」
「ん……」
「……薬は……朝ご飯食べた後、かな。お腹は?」
「……空いてない」
「ふぅん。……ヴェルくんのこと育ててた時のこと思い出して、ちょっと楽しくなってきたな〜。後なにか確認することあったっけ〜……」
「……僕、もう寝るから……ディライトも……」
「あ、リウちゃんに連絡しないと」
「!?」
ディライトの呟きにレインがびくりと肩を跳ねさせた。
そして、ディライトの袖を軽く引っ張ると、頬を引き攣らせながらふるふると首を横に振る。
「ディライト、それは……っ」
「ふあぁ……っ、呼ばれなくてもちゃんとわかってるから……」
ディライトを止めようとしたのにリウが来てしまい、レインが固まった。
リウはそっとしゃがみ込んでレインと視線を合わせると、優しく微笑む。
「なにか言い訳は?」
「……うう……」
「……病人なんだから、あんまり虐めないであげてね〜……?」
ディライトがそれだけ言い、部屋の壁に背中を預けて見守る姿勢に入った。




